ここから本文です

【インタビュー】『シルバー事件』は須田剛一の原点!HDリマスター版は芸術の域に達したプログラムを目コピしていた

インサイド 7月25日(月)12時10分配信

独特の世界観と奇妙かつ巧みで謎めいたストーリーで名高いゲームクリエイターの須田剛一氏。そんな彼の原点的な作品である『シルバー事件』のHDリマスター版が2016年内の発売を予定しています。HDリマスター版は日本を含む全世界で発売され、PLAYISMからPC向けにリリース。オリジナル版からグラフィックなどを刷新されており、「フィルム・ウィンドウ」システムのUIも新たに描き直されています。

【関連画像】

そんな『シルバー事件 HDリマスター』が、7月9日と7月10日に京都で開催された国内インディーゲームの祭典「BitSummit 4th」に出展。本稿では現地で須田氏に実施したインタビューをお届けします。


――須田さんの『シルバー事件』と言えば知る人ぞ知る名作アドベンチャーゲームですが、リリースされたのが10年以上も前ですので、改めて作品の紹介をお願いできますでしょうか。

須田:1999年にPlayStationで発売されたアドベンチャーゲームでして、グラスホッパー・マニファクチュア最初の作品です。アドベンチャーゲームがベースではあるんですが、まったく新しいアドベンチャーゲームを作ろうと思って作りました。ストーリーは2つに分かれていまして、まずは凶悪犯罪者「カムイ」を追い詰めていく刑事たちの視点で進行していきます。これが表軸のストーリー「Transmitter」です。そしてもう一つの裏軸ストーリーが、ジャーナリストの視点で進行する「Placebo」です。この2階層の話を順番にプレイしていって、このシルバー事件とはなんなのか……というのを体験する作品です。

――須田さんにとっても初の作品になるのでしょうか。

須田:ヒューマン時代に5本ディレクションしているんですが、オリジナル作品としては本作が初ですね。

※ヒューマン:2000年に倒産したゲームメーカーで、『スーパーファイヤープロレスリング』などをリリース。河野一二三氏や志倉千代丸氏などが所属していた。


――既に「須田ゲー」というジャンルが認知・確立されていますが、やはり『シルバー事件』はその原点的な作品になるのでしょうか。

須田:その通りですね。ヒューマンから独立したのも、自分のオリジナルゲームを作りたかったのが一番大きな動機です。ヒューマンではそれが中々難しく『スーパーファイヤープロレスリング』などを作っていましたが、自分の企画は作れませんでした。そんな中チャンスがあり、独立して『シルバー事件』を開発したので、この作品は僕の原点です。

――『シルバー事件』が原点なので当然といえば当然ですが、須田さんが描くストーリーは毎回意味不明ですよね(笑)。もちろん良い意味です。特に『シルバー事件』は「Transmitter」と「Placebo」の2軸で展開され、これが素晴らしく面白いんですが、この複雑さは想定して設計されたのでしょうか。

須田:自分でもよくわからないんですよね(笑)。まずは僕は表軸「Transmitter」で起きている事象を書くということに専念して、僕は捜査官の視点だけで物語を組んでいきました。そこに「Placebo」のシナリオを手がけてくれた大岡まさひさん から上がってくるシナリオを見て、「Transmitter」のシナリオを直していったんです。そうすることでどんどん階層が深くなっていき、『シルバー事件』のストーリーとしての面白さを出すことが出来ました。これはもう勝手にそうなったと言えますね。で、大岡さんとのキャッチボールが面白くて、僕ら言葉で深くシナリオについて会話しなかったんですよ。シナリオだけで会話してました(笑)。だから酒のみながら討論・議論したことなんて一回もなかったですね。

――ではそんなシナリオがあった上で、あの独特のUI「フィルム・ウィンドウ」が誕生したんでしょうか。

須田:いやシステムの方が先なんです。まずはスタッフが居なかったんですよ、最初3人です。最終的には10人ぐらい集まることは分かっていたんですが、開発開始時はプログラマーが2人しかいなくて、3人目のプログラマーが来るのはβ版が完成してからだと。さらにCGを書き起こすのが1人しかいなくて、後はイラストレーターのみやちゃんと僕。この5人でどうやって10時間以上遊べるアドベンチャーゲームを作るかとなりました。そんな中、とりあえず僕がシナリオを書き、それを成果物にしようと。

またプログラマーの作業を何かデザインにならないかなと考えたとき、あの「フィルム・ウィンドウ」を思いつきました。全スクリーンで遊ばせるのではなく、一つひとつウインドウを作り、その中で動かす。それをデザインとして美しくできないかなと考えたんです。そこでプログラマーに配置や演出をデザインしてもらい、レスポンスなどの気持ち良さを積み上げていきました。


――特にテキスト部分のレスポンスは凄く気持ちがいいですよね。文字が表示されたときに鳴るタイプライターの様なタイプ音がたまりません。

須田:そうなんですよ。ずっとテキストを読んでいるわけじゃないですか、それが快感になるように作りました。タイプ音に関しては、漢字の場合は1音とせず、読み方で音を取ってまして、そこの気持ちよさは拘りました。

――様々な表現技法を用いた演出も本作の魅力だと思います。

須田:全部の表現物を使って演出したいという思いがありました。それに1つのプロダクションに頼むと大変なので、各プロダクションに分担して、1年ほど仕込みをしてから制作に入りましたね。そういった仕組み含めて色んなところに声をかけました。

――今思い返すと『SHORT PEACE 月極蘭子のいちばん長い日』もそれに近い表現方法でしたよね。シーンによって絵はバラバラなのに纏まっている感じが。

須田:『SHORT PEACE 月極蘭子のいちばん長い日』もそうですが、力技でまとめつつも、自分は言葉でストーリーを作ってるので、そこで説得力をもたせるように作りました。

――その結果、いまでも根強いファンがいらっしゃるということですね。

須田:ありがたいですね。1シーンだけじゃなくて、1エフェクトまで当時はすべて自分の指示で作ってまして、まさに徹頭徹尾です。オリジナル一発目でグラスホッパー・マニファクチュア一発目でもあったので、自分たちの存在証明でもありました。そう意味で作ったのでいい仕事したなと(笑)。


――では、なぜこのタイミングでリマスターを作ることになったのでしょうか。

須田:もっと早くてもよかったんですよ。出来るだけ早くという心積もりでした。

――つまりリマスターしたい気持ちは元からあったと?

須田:ありましたね。いつでもというよりかは、アドベンチャーゲームからアクションアドベンチャーになってアクションを作るようになり、海外にファンベーンができるようになりました。でも自分たちの一作目が海外で出ていないという状況が長年続きまして、『シルバー事件』を遊んでみたいという声が聞こえるようになって来ました。で、丁度去年グラスホッパー・マニファクチュアのアートブックが世界で発売されたんですよ。それで『シルバー事件』の認知度も上がりまして、今がタイミングなんじゃないかなという感覚がありました。

そうこうしているとPLAYISMさんから「『シルバー事件』をうちで出しませんか」とお声がけ頂きまして、そこで昨年から本格的に仕込み始めたんです。ただその段階では特に仕様は決まってなく、「とりあえずベタ移植はいやだなぁ」「最低でもHDリマスターだな」と。


――「BitSummit 4th」では試台が出展されていますが、操作性がめちゃくちゃ良くなっていますよね。というか作り直していませんか?

須田:作り直しているというか、あれ目コピなんですよ。ベースがオリジナルエンジンなので、それをポートするのは大変なので。もともとUnityで作ることは決めていたんですが、そしたら(リマスターを引き受けてくれた)アクティブゲーミングメディアさんが「目コピでやります!やらせてください!!」と言ってくれまして。僕としては「本当にできますか!?」とも思ったんですが、過去に『花と太陽と雨と』のDS版はハ・ン・ドさんが目コピで作られたので、やっぱり目コピだなと。もう情熱ですよね。

※目コピ:プログラムやグラフィックを目で見てコピーすること。

――あのテンポ感の目コピは大変そうですね……。

須田:そうなんですよ。テンポ感に関しては、今はアクションゲームを作っているので当時の自分の感覚と違ってます。その辺は現代風にアレンジしていますよ。もちろんコンフィグで当時のバージョンに戻すことも可能です。どこまで出来るかわからないんですが、出来るだけ多くの項目を設ける予定です。

――逆に「ここは変えたくない」という部分はありましたか?

須田:フィルムウインドウ 全体のデザインです。このウインドウはね、プログラムで線を出して動かしてるんですよ。絵素材で用意することも出来ますが、それだと美しくない。ドット芸術に近いプログラミング芸術というのが『シルバー事件』の根底にありまして、そこの真骨頂はなくしたくなかったですね。今だといくらでも解像度高いものもってこれますが、それだと色気がでないんですよ。


――その色気、凄くよくわかります。色数が多くて解像度高ければ良いというもんじゃなく、昔ながらの色気というものは確かに存在しますよね。

須田:このプログラマーが打ち込んで動かして光らせる。これをなくしちゃいけないと。よくリマスター作品でめちゃくちゃ綺麗になったりしてるじゃないですか。でもそうじゃない……そこじゃないですよ!大事なものがなくなっているだろうと。だから自分の『シルバー事件』はそうならないように気をつけています。

――昔の色気はそのままに、今でも遊べる・遊びやすくなっているということですね。

須田:そのさじ加減は絶妙でして、例えば背景CGなんかもローポリの美しさを残しています。だって今PlayStationのグラフィック見るとかっこよくないですか?そのかっこよさは残したいと。

――しかも目コピで。

須田:そう目コピで。本当に1スクリーンごとにチェックしてまして、「ここはもう少しこうして」「ここは当時こういう理由でこうなっているんだけど、今は大丈夫だからマネしなくていいよ」と一つひとつ詰めてやってますね。

――オリジナル版には説明書に謎解きの答えが書かれていましたが、リマスター版ではどうなるのでしょうか。

須田:デジタルのマニュアルを用意する可能性が高いですね。

――因みに本作が売れれば……。

須田:実は『シルバー事件25区』を実現させるためのHDリマスターなんです。これで数字がよかったら『シルバー事件25区』もすぐに作りたいですね。

――『シルバー事件25区』はフューチャーフォン(ガラケー)でリリースされた連動コンテンツで、DS版に移植されるはずでしたが中止となり……。

須田:いやもうほんと、幻のゲームになってますからね。ただ僕ももう覚えてないんですよ、どんなゲームなのか(笑)。もう記憶の中にしかないですからね。正直なところ自分自身が見たいんです。そしてファンからもスタッフからも同じ声が届いています。これをビジネスとして成功させたいですね。

――楽しみにしています。さて話が変わりますが、「BitSummit 4th」はインディーゲームのイベントなのでインディについても質問させて頂ければと。インディの定義は様々ですが、少人数で自分の作りたいものを作った年う 意味では『シルバー事件』もインディ作品と言えますよね。

須田:当時、日本には独立系のデベロッパーってそんなになかったんですが、僕らが独立した以降になると増えてきました。インディ が生まれ始めた時代だったんですね。そういう面白い時期にPlayStationが生まれ多くのゲームがリリースされましたので、非常に親近感を覚えます。今時点でもインディーとメジャーの真ん中にいる感覚すらありますね。

いまはコンシューマーでデカいタイトル作ってますが、インディの心地よさは好きで肌が合うんです。この「BitSummit」の空気感も凄くいいじゃないですか。これは「PAX EAST」で感じた感覚に近くて、インディもメジャーも関係ない。ゲーマーは面白いものを遊ぶと。そういう環境はすごく良くて、日本にも根付ければいいなと。

※PAX EAST:北米のゲームイベント

――『シルバー事件』のころの様に小規模で作りたいと思いますか?

須田:小規模だからできることってたくさんあると思うんですよ。いろんな制限なしに作れるので、愛や情熱で生まれてくる作品はもうメジャーゲームでは到達できないものが出来上がってきます。そこには憧れますね。もうインディーの方って意識や環境が違うんですよ。別の仕事をしながらプライベートの時間をゲーム開発に注ぎ込む。この姿勢たるやめちゃくちゃかっこいいですからね。もうプロ勝てないんじゃないかと思います。なので凄く刺激を受けます。

――好きはデカイということですね。

須田:いやデカイですよ。もう痺れますね。

――最後に読者に向けてメッセージをお願いします。

古いゲームではあるんですが、グラスホッパー・マニファクチュアのルーツという意味合いでなくても、当時のアドベンチャーゲームとしても唯一無二の作品だと改めて感じています。また大いなる実験をした作品でもあるんですが、それが今でも愛され続けているという事実を知ることが出来ました。日本のインディのルーツとは言いませんが、17年前にあったインディ魂を体験してほしいなと思います。

――ありがとうございました。

【関連記事】

最終更新:7月27日(水)17時39分

インサイド

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。