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Twitterのイラストから誕生した化粧品「童話コスメ」って? “高くて無名”でも支持される理由

ITmedia ビジネスオンライン 7月25日(月)8時10分配信

 ほぼノーブランドで4000円、にもかかわらず支持されているアイシャドウ――。こう書いても、男性読者の方にはあまりスゴさがピンと来ないかもしれない。

【童話モチーフコスメの写真はこちら】

 値段の差が激しい女性用化粧品の中でも、アイシャドウは全体的にかなりお手頃。名の知れた国内ブランドでも、安くて500円、高くても2000円程度の価格設定だ。

 “アイシャドウに4000円出す”というと、「シャネル」や「イヴ・サンローラン」などのハイブランドや高級ラインを買えてしまうくらい。そういった中で、1000万円をクラウドファンディングで調達し、商品化したアイシャドウがある。それが「童話モチーフコスメ」だ。

 童話モチーフコスメとは、グリム童話やアンデルセン童話などをモチーフにした化粧品のこと。きっかけは2014年6月、人気イラストレーターのTCBさんがTwitterでつぶやいたツイートだ。

 「童話モチーフの化粧品があったら欲しいなと思いつつとりあえず赤ずきんモチーフ描いてみた」

 このツイートは約9000回リツイートされ、1万7000の「いいね」がつくなど、大きな話題になった。

 同年12月、「童話モチーフの化粧品」というアイデアが形になり、クラウドファンディングサイトに実際に出品されると……なんと2500人が支援し、支援者数日本記録を突破(当時)。目標額の100万円を10倍上回る1000万円が集まった。

 翌年3月には第2弾の「不思議の国のアリス」もスタートし、1698人から952万円を調達。第3弾「人魚姫」、第4弾「ラプンツェル」、第5弾「ヘンゼルとグレーテル」第6弾「白雪姫」――と続き、いずれも目標を大幅に上回る支持が集まった。

 割高であっても多くの支持を得られる商品がある。その1つ、「童話モチーフコスメ」が人気を集め続ける理由は、どこにあるのだろうか。

●本当に欲しい人“だけ”に届けることができるクラウドファンディング

 童話モチーフコスメが生まれたのは、ネット上のアイデアから商品化を支援する「わくつく!」(運営:フレントレップ)が、イラストを描いたTCBさんに声をかけたのがきっかけだ。

 「TCBさんの絵の魅力が素晴らしかった。童話の世界観を感じられるコスメとして、ぜひ商品化したいとフレントレップが声をかけた」──プロジェクトを担う、フレントレップから独立したワークワークの代表取締役、高嶋直之さんは振り返る。

 とはいえ、コスメ製作にはお金がかかる。一般に売られている化粧品が安価なのは、基本的に数万単位のロットで製造しているためだ。オリジナルで、なおかつノーブランド、しかも少数生産の化粧品となると、単価はどうしても高くなってしまう。

 「想定される購入層は18歳から20歳半ば。一般流通だと、4000円のアイシャドウはなかなか難しい。ただ、クラウドファンディングであれば、『本当に欲しい』と思っている人に向けて、いわば“予約販売”できる」

 クラウドファンディングを活用することで、「コストを削減して安く流通させる」ことよりも、「商品の完成度を上げて、欲しい人にきちんと届ける」ことを優先できる。そのため、本製品は「ドラッグストアで一般的に流通している商品よりも、4~5倍のコストをかけ、よりキレイな商品にしている」のだという。

 一番のこだわりは「本」をイメージしたパッケージだ。一般の化粧品はプラスチックのケースがほとんどだが、童話モチーフコスメでは製本の技術を使い、本のような雰囲気に仕立てている。実際に本の表紙を手がける製本会社に注文することで実現しているという。プラスチックでは大量ロットでないとコストが逆に上がってしまう。製本の技術を採用することで、世界観の表現とコストメリットを両立させた形だ。

 本を読むようにパッケージを開くと、TCBさんのイラストがぱっと現れる。キャラクターに合わせたカラーのアイシャドウパレットのパウダーは国産だ。TCBさんのイラストが元になった商品だが、「使い勝手がいいように、パッケージや、シャドウの色の組み合わせなどに変更を加えた」(高嶋さん)。童話モチーフコスメが持つ物語性を生かしつつ、当初のアイデアにさまざまな調整を加えることで、商品としての完成度も高めている。

 こうして完成した童話モチーフコスメシリーズは、全てプロジェクトが成立。当初はクラウドファンディングのみでの販売だったが、ヴィレッジヴァンガードから「扱いたい」という連絡があり、オンラインショップや実店舗(2~3店)で販売することになった。また、Amazonでの扱いも始まった。

 ヴィレッジヴァンガードやAmazonでの販売規模はまだ大きくないが、クラウドファンディングだけではリーチできていなかった層にも届きつつある。シリーズ累計で、2万個以上を売り上げている。

●成功するクラウドファンディングのコツとは?

 童話モチーフコスメが活用したクラウドファンディングは、新商品などのアイデアを形にするため、インターネット経由で不特定多数の人から資金を募る手法だ。米国のKickstarterなどを成功例として日本でも定着し、ここ数年で市場規模は大きく成長。矢野経済研究所の調査では、国内市場は2014年に197億1200万円、15年に283億7300万円と見積もっている。

 ソニーなど大手企業が新商品のテストとして採用するケースも出てくるなど、クラウドファンディングは一般的な手法になってきている半面、件数が増えれば増えるほど、プロジェクトごとの話題性や注目度は下がってしまう。数年前と比べると、クラウドファンディングは使いやすくなった一方で、成立しにくくもなっている。

 そんな状況で、童話モチーフコスメはクラウドファンディングの“勝ち組”になっている。第5弾「ラプンツェル」と第6弾「白雪姫」は、昨年12月1日にスタートすると、わずか2時間7分で目標の200万円を達成。最終的に1265人から約975万円を調達するという実績を上げた。

 成功のコツはどこにあるのだろうか? 昨年、10件のクラウドファンディングを相次いで成立させたワークワークの高嶋さんは「クラウドファンディングは商品が魅力的なのが大前提」とした上で、「さまざまなノウハウがある」という。

 例えば「低めに目標額を設定し、なるべく早く達成させる」。プロジェクトは早く達成したほうが、その後の伸びもいいのだそうだ。目標額を高くして、商品化ができない――というのでは意味がない、と高嶋さんは言う。クラウドファンディングは人気があからさまに数字に出てしまうので、事前に人気を想定し、達成できるように自費での負担も前提として目標額を調整することもあるのだとか。

 さらに大事なのは「見せ方」。「他の方が出品していて達成しなかったプロジェクトで、『見せ方がよければもっと支援者が集まったはず』と思うものがある」という。「出しているものの魅力がちゃんと伝わって、いいと思ってもらうためには、商品をよりよく見せる必要がある」。

 童話コスメのクラウドファンディングページを見てみよう。TCBさんのイラストと、完成品のイメージを示すだけではなく、童話の少女に扮したモデルの画像も並んでいる。イラストという“2次元”だけでは、「実際に使ってみたい!」という気持ちがわいてこない。“完成例”を見せることで、商品の物語性のみならず、実用性もアピールする――という次第だ。クラウドファンディングは、こうした“演出”も成否を分ける段階になっている。

●さらに広がる童話モチーフコスメの世界

 童話モチーフコスメの世界は広がっている。メイク本『童話の国のドールメイク』(宝島社)もその1つだ。モデルが赤ずきんや白雪姫などの衣装を着用し、コスメを実際に使っている写真を使い、メイクの方法を解説しながらストーリー性のある写真集のように仕立てた書籍だ。

 Amazonのランキングでは一時1位を獲得。“激戦区”のカテゴリーで、現在も30位以内をキープしている。本の価格は1300円(税別)と、コスメ本体よりもぐっと安い。

 「購入層は、童話モチーフコスメの購入者だけではない。メイク担当のなみっきーさんのファンや、コスメには興味を持っているものの価格の問題で手が届かない──という人にも届いているという印象」

 ワークワークは、今後、童話コスメ以外にも化粧品を展開していく予定。化粧品とイラストを合わせた物語性のあるチークやリップ、アイライナーを企画し、ブランドを確立・強化したい考えだ。

 “相場”の平均より高くても、物語性をしっかり作り込んでいけば支持する人が現れる。その人たちに確実に届くように作っていけば、ビジネスとして成立する可能性がある――これは化粧品に限らず、どんなものにも当てはまるはずだ。

最終更新:7月25日(月)8時10分

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