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「ふるさと納税」No1サイト社長の仕事術

ニュースイッチ 7月25日(月)12時10分配信

資本金50万、ノープランからの起業。1000億円ブームをけん引

【 「読学」のススメ】「1000億円のブームを生んだ 考えぬく力」(須永 珠代 著)

 数年前からブームが訪れていることもあり、「ふるさと納税」制度の存在を知る人は多いことだろう。この記事を読む人の中には実際に利用したことのある人もいるかもしれない。簡単に言うと、自分の好きな自治体を選んで寄付ができる制度だ。寄付額のうち2,000円を超える分について所得税と住民税から原則全額が控除される。ほとんどの自治体が寄付者に対して、地元の特産品などの「返礼品」を用意しており、それがこの制度の大きな魅力の一つとなっている。

 この「ふるさと納税」は2008年に設けられた。初年度の寄付総額は約81億円。全国1,789(当時)自治体の合計としては、決して大きな額とは言えない。翌年以降も総額は伸び悩み、年間寄付額ゼロ円という自治体も珍しくなかった。

 ところが2013年以降、寄付者の数、寄付額がぐんと伸びる。2015年には年間寄付総額が1000億円を超えたという。この躍進は、2012年9月に「ふるさとチョイス」という日本初の「ふるさと納税」ポータルサイトがオープンしたことが大きい。今では寄付の申し込みの8割以上が同サイトを通して行われている。

 「ふるさとチョイス」は、2012年4月創業の「トラストバンク」というベンチャー企業が開設、運営している。創業者で代表取締役を務める須永珠代さんは、「ふるさとチョイス」の成功と、それにより地方行政を元気にしたことが評価され、雑誌「日経WOMAN」主催の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2016」大賞を受賞している。

 須永さんが著した『1000億円のブームを生んだ 考えぬく力』(日経BP社)には、起業の経緯、自身のものの考え方、モットーやポリシーなどが語り尽くされている。

マネタイズの見込みがまったくないまま事業をスタート

 須永さんは、派遣社員やITベンチャー企業などを経て38歳で起業している。2008年頃には1年間、“どん底”の無職、フリーター生活も経験した。その頃にはすでに起業の意志があったそうだ。

 ところが須永さんは、トラストバンクを立ち上げた時点では、はっきりとした事業計画をもっていたわけではなかった。とにかく「次のステップに挑む」ために、何をするかを決める前に資本金50万円で会社を設立した。

 具体的に何をするのか決めてはいなかったが、帰省した時の父親の言葉をヒントに「ICT(情報通信技術)を通じて地域とシニアを元気にする」という、会社のミッション(本人は「北極星」と呼ぶ)は定めていた。会社は一人で始めたが、3人の知人と一緒に、先のミッションをもとに事業のアイデアを練っていった。4人によるブレインストーミングの中で見つけたのが「ふるさと納税」だった。

 前職でウェブデザインの仕事をしていた須永さんは、マネタイズの見込みがまったくないまま、さっさと「ふるさと納税」のポータルサイトを立ち上げてしまう。サイトという「人が集まる場」を作りさえすればお金は生まれてくる、マネタイズは後からでも「なんとかなる」という、端から見れば無謀とも思えるスタートだ。

 マネタイズの見込みがなくても、とりあえず走り出すベンチャーは多いのだが、須永さんの場合、考えがあってのことだったようだ。最初にマネタイズを考えることで、アイデアに制限がかかることを避けたかったのだという。「お金を儲ける」よりも、ミッションの実現を優先させたのだ。

 まずポータルサイトという「人が集まる場」、すなわち「プラットフォーム」をつくることで、それをベースに新しいアイデアを生み出しやすくなるのだろう。現に須永さんは、「ふるさとチョイス」を少しずつ使いやすいように整備しながら、「ガバメントクラウドファンディング」「災害時緊急寄付申し込みフォーム」といった、ミッションに沿った新事業のアイデアを実現させている。

 結局、「ふるさとチョイス」は広告収入などで「なんとかなる」までに2年弱かかったそうだが、それまで須永さんはコンサルティングのアルバイトなどをしてやりくりした。ベンチャーキャピタルから投資の申し出があったが、「自由が制限される」ことを避けるために断ったそうだ。

 起業の際に、メイン以外の事業で収益の見込みがあれば、本当にやりたいメインの事業に関しては、採算度外視でとにかく始めてみるのもいいかもしれない。「お金を儲けなくてはいけない」という足かせを外した上で、考えぬく。そこで顧客のためになり、自分も納得がいく最高のものをつくることができれば、起業の目的は果たしたといえるのではないか。

 「ふるさと納税」については、「自治体に頼りすぎることで地場産業が衰退する」などの批判の声も上がっている。そのあたりについては須永さんも危機感を抱いており、「ふるさとチョイス」で構築したネットワークを通じ、農家などの「自立」のサポートも始めているという。須永さんの「北極星」を見据えた歩みは、これからもブレずに続いていくのだろう。

情報工場「SERENDIP」編集部×ニュースイッチ

最終更新:7月25日(月)12時10分

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