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髪引き抜かれ、全身にあざ…「デートDV」で示談を求められたら、どう対応すべき?

弁護士ドットコム 7月25日(月)10時20分配信

結婚前提で交際していた男性からの「デートDV」を受けた女性から、交際相手の代理人に示談を求められた場合、どう折り合いをつけるべきか、警察に訴えても無駄なのか、という相談が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられました。

投稿によると、相談者が男性と同居をはじめるとすぐに、些細なことで手を出されるようになり、全身はあざだらけで、髪の毛も大量に引き抜かれました。さらに、通報を恐れた男性から、外出すら禁止されたそうです。食事も満足に取れない状態でした。

相談者は、この男性が経営する会社で働くために転職先の内定も辞退しましたが、仕事は無給で、さらに貯金から100万円を恐喝されたそうです。収入がないにも関わらず日常の食費も払わされ、美顔器の購入や整形も求められたそうです。

男性はDVを認めたものの、代理人の弁護士から「訴えても無駄」「この程度は普通のDV」と言われたそうです。相談者は男性側にどう対応すればいいのでしょうか。DV問題に詳しい橋本智子弁護士に聞きました。

● 一刻も早く逃げて、縁を切ることを優先すべき

相手の弁護士からどのような金額が提示されたのかわかりませんが、少なくとも脅し取られたという100万円は別として、交際中受け続けた有形無形の暴力に対する慰謝料としては、感覚的なものですが、100万円も取れれば御の字ではないかと思います。

この相談者が被った損害は、就職の内定を辞退したり、日常の食費等の負担や高価な物の購入を強いられたといった金銭的なものだけをみても、これを大きく上回りそうですが、それが現実です。

日本の裁判所で、この種の損害に対する慰謝料は非常に低く見積もられています。結婚しているカップル間における暴力(DV)であっても、それだけが離婚原因であれば、裁判所が認める慰謝料は、(結婚年数その他の事情にもよりますが)300万円程度がせいぜいではないかと思います。

このような現実を踏まえ、私の個人的な意見としては、とにもかくにもこういう人からは一刻も早く逃げること。縁を切るということが、なによりも最優先されるべきだということです。

こういう人と関わり続けることで、金銭的にも精神的にも痛めつけられ、すり減っていく、それをとにもかくにも食い止めることが、いくばくかのお金を得ることよりも遙かに大切だと思っています。

示談する場合、相手の言い値に応じるかどうかですが、私としては、「そうするしかないというわけではないが、相手がいくらかでも払うというなら、それをもらってすっぱり縁を切るのが得策」と答えます。

あえて「わずかな」といいますが、わずかな慰謝料を得るためにこういう相手との間でごたごたを続けるよりも、縁を完全に切れたらそれでよしと考える割り切りが重要だと私は思います。

● 警察沙汰にするべきか

また、結婚していないと、警察にDVについて被害申告をしても無駄ということはありません。個別の暴力行為について警察に訴えることはできます。相手の弁護士の言う「普通のDV」とは一体どういう意味なのかまったく理解できませんが、少なくとも体に対する暴行があったのならば、それは犯罪です。結婚していようといまいと関係ありません。

しかし、現実に警察に被害申告すべきかどうかということは別問題で、必ずしもお勧めできることではありません。なぜなら、刑事の面でもこの種の犯罪の処遇は一般的にとても軽く、逮捕もされず正式な裁判にさえならず、起訴猶予や罰金刑で終わることが多いです。正式な裁判になっても、それだけで刑務所に行くことはほぼないといえ、いずれにしても、逮捕されてもわずかな期間で解放されます。

その一方で、「警察沙汰」にしたというだけで、加害者の怒りや報復感情を増大させるには十二分です。加害者がそれによって会社で解雇や降格などの不利益を受けるなど、上記程度の刑事的な制裁よりも遙かに打撃が大きいともいえる、社会的制裁を受ければなおのことです。

したがって、現実に身の危険がある場合はもちろん別として、過去の暴行について警察に訴えることは、できますが、お勧めはしません。結局、この点でも、「触らぬ神に祟りなし」ではありませんが、とにもかくにも加害者から離れることが大事だといえます。

もうひとつ大切なことは、傷ついた心の手当です。適切な専門家のサポートを得て、丁寧にしていただきたいと思います。心の傷をいつまでも引きずっていては、せっかく切れた縁にいつまでも縛り付けられ続けるようなもので、人生にとって大きな損失です。そのためにかかるコスト分くらいの慰謝料がもらえるなら万々歳、くらいに考えてはいかがでしょうか。

【回答弁護士】
橋本 智子(はしもと ともこ)弁護士
大阪弁護士会所属
共著書『モラル・ハラスメント こころの暴力を乗り越える』(2014年、緑風出版)『Q&Aモラル・ハラスメント 弁護士とカウンセラーが答える 見えないDVとの決別』(2007年、明石書店)
事務所名:あおば法律事務所
事務所URL:http://www.aoba-osaka.jp/

弁護士ドットコムニュース編集部

最終更新:7月25日(月)10時20分

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