ここから本文です

電気自動車へのSiCデバイス採用「テスラはメリット大」

MONOist 7月26日(火)6時25分配信

 インフィニオン テクノロジーズ ジャパンは2016年7月21日、東京都内で会見を開き、2016年内に買収を完了する予定のWolfspeed(ウルフスピード)と創出していくシナジーについてドイツ本社の役員らが説明した。ウルフスピードは、発電や電気自動車のインバータに向けたSiC(シリコンカーバイド)パワー半導体や、5G通信の普及をにらんだGaN-on-SiC(SiCウエハー上にGaNを形成した)ウエハーを用いたRFパワー半導体を強みとする。買収によってインフィニオンはポートフォリオを補完し、SiCやGaNを用いる次世代パワー半導体市場でのシェア拡大に結び付けようとしている。

【電気自動車にSiCパワー半導体を採用する場合の損益分岐点などその他の画像】

●ウルフスピードとは?

 インフィニオン テクノロジーズのドイツ本社は2016年7月14日、米国のCree(クリー)の子会社であるウルフスピードを買収すると発表した。買収の対象には、ウルフスピードのSiCウエハーの製造事業部門も含まれている。2016年末までに手続きを完了する見通しで、買収額は8億5000万米ドル(約901億円)。

 ウルフスピードは、SiCパワー半導体に関して「ウエハーの製造から手掛けるトップ企業」(インフィニオン テクノロジーズ Corporate Vice PresidentのKlaus Walther氏)。Si(シリコン)パワー半導体では世界トップ、SiCパワー半導体でも世界2位のインフィニオンは既にインターナショナル・レクティファイアーを買収してパワー半導体のポートフォリオを充実させているが、ウルフスピードの技術を加えることでさらに競争力を高める。

 RFパワー半導体に関しては、インフィニオンは世界3位、ウルフスピードはGaN-on-SiCで世界2位につけている。インフィニオンはSiのRFパワー半導体を手掛けるだけでなく、GaN-on-Si(Siウエハー上にGaNを形成する)技術も開発中で、ウルフスピードの買収によって「最も包括的なポートフォリオがそろう」(Walther氏)としている。

 ウルフスピードがウエハーの製造も行う強みを生かして基板からコンポーネント、システムにわたって最適化を図る。また、2025年までに2015年比で3割近く市場拡大が見込まれるGaNのRFパワー半導体において高いコスト競争力を発揮することを目指す。2020年にRFパワー半導体市場で世界トップとなることが目標だ。

●電気自動車と5Gで事業拡大

 今回のウルフスピード買収によって、電気自動車と5G、2つの市場で成長を加速させる。電気自動車のさらなる普及拡大には「SiCパワー半導体によるインバータの小型化/高効率化が不可欠」(同氏)だという。また、GaN-on-SiCのRFパワー半導体は、従来よりも高い周波数体の効率化に貢献するため、次世代の通信技術に欠かせないとしている。

 SiCパワー半導体は、1992年からインフィニオンが開発を始めた注力分野だ。2001年には世界で初めてSiCパワー半導体を製品化し、2006年にはパワーモジュールとして産業用モーター向けに発表した。

 そして、2016年はSiC-MOSFET「CoolSiC」のサンプル出荷を産業用途向けに開始し、2017年半ばから量産をスタートする。従来のSiパワー半導体と比較して、スイッチング損失やシステム全体のロスが少ないのが強みとなる。機器の小型化にも貢献する。

●SiCパワー半導体を使うなら走行距離が長い電気自動車

 同社 Senior Director SiCのPeter Friedrichs氏は、「自動車でSiCが最も効果を発揮するのは、走行距離の長さに重点を置いたハイエンドの電気自動車だろう。街乗り主体の電気自動車や、プラグインハイブリッド車はバッテリー容量が小さいため、SiCを採用するうまみが少ない」と車載用途での需要を分析する。

 走行距離の長い電気自動車では、バッテリーがコストに直結するため、SiCパワー半導体を採用することによるメリットが大きいという。インバータの性能向上により、バッテリー搭載量の低減や、高電圧化、充電時間の短縮に貢献できるためだ。

 一方で、「街乗り主体の電気自動車ではパワーが、プラグインハイブリッド車ではCO2の排出量がコストの鍵を握るので、SiCパワー半導体の採用によるインバータのコスト増がまだ見合わない」(Friedrichs氏)という。

 SiCパワー半導体そのもののコストダウンに加え、リチウムイオン電池の価格動向、各国のCO2排出規制によっては長距離を走行する電気自動車同様に、採用のメリットが出てくるとしている。

●SiC採用の損益分岐点は

 SiCパワー半導体を採用したインバータのコストと、バッテリーのコストを比較し、自動車メーカーにとって利益が出始める損益分岐点は、「バッテリー容量が60kWh弱」(同氏)になるという。

 バッテリー容量が大きい電気自動車の代表はTesla Motors(テスラ)の「モデルS」だ。モデルSは、バッテリー容量60kWhと85kWhの2つが用意されている。走行距離は60kWhモデルが230マイル(約370km)、85kWhモデルが300マイル(約482km)となっている。

 一方、日産自動車の電気自動車「リーフ」はバッテリー容量を24kWhと30kWhの2種類をそろえている。走行距離は30kWhで280kmだ。リーフクラスのバッテリー容量の電気自動車では、当面はSiCパワー半導体を採用するメリットは薄いといえる。

 同氏は「今後、テスラのように走行距離を重視した電気自動車は増えていく」と見込む。しかし、「ではいつSiCパワー半導体が採用されるかというと、明確なところは見えていない。技術としては車載用途に対応できるものが確立している。順調に見積もった予測をいえば、産業用途から1~2年遅れで車載用をサンプル出荷できるとよいのだが」(インフィニオン テクノロジーズ ジャパン オートモーティブ事業本部 部長の杵築弘隆氏)。

 車載用途を前提とし、コストと性能を両立するパッケージングも開発を進めている。具体的には、SiCパワー半導体のチップの面積を必要最小限に抑えてコスト低減を図りながらモジュールの両面から冷却するというものだ。SiCの熱抵抗を抑え、電流密度を改善するメリットがあるという。

最終更新:7月26日(火)6時25分

MONOist