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ライドシェアは過疎地で普及させるべきだ

ITmedia ビジネスオンライン 7月27日(水)6時40分配信

 自動運転がGoogleの参入表明により一気に活性化したのと同じように、タクシー業界も同じ米国のIT企業Uber Technologies(以下Uber)がきっかけとなって、にわかに騒がしくなってきた。

【ライドシェアへの反対集会】

 Uberは2009年、スマートフォンアプリを使った配車サービスを立ち上げたライドシェア企業だ。同社はタクシー会社と違い、車両を持たず、運転手も雇わない。一般ドライバーと利用者(ライダーと呼んでいる)のマッチングを、アプリで行えるようにしただけだ。

 米国では「カープール」と呼ばれる相乗りの習慣が日本よりも根付いている。相乗りはクルマの台数を減らし環境対策になるので、フリーウェイ(高速道路)ではカープールレーンという車線まで存在している。相乗り習慣がライドシェア企業を生んだといえるかもしれない。

 利用者にとっては、ライドシェアはタクシーに似た存在だ。それがタクシーより料金が安く、アプリ上の決済で支払いも安全に行える。後者は特にタクシー運賃にまつわる不正が横行している国では歓迎された。

 ドライバーにとっても、クルマを所有していれば、そのクルマを使って空き時間に利用者を乗せることで収入が得られる。利用者にとっても、ドライバーにとっても、ライドシェアはありがたいサービスなのだ。だから現在では世界480都市でサービスを提供するまでになり、Lyftなどの同業者が次々に誕生するまでに発展したのだろう。


●異論を唱えたタクシー業界

 これに異論を唱えたのがタクシー業界関係者だ。「ブラックキャブ」の愛称で知られるロンドンのタクシーの運転手も例外ではない。彼らは中心部の道や駅、公園などの施設を全て覚えなければならない難関試験をパスした真のプロフェッショナルである。一方、ライドシェアのドライバーは、乗客への対応は素晴らしい人もいるだろうが、運転技能や都市の知識は素人レベルでしかない。タクシー関係者が反感を抱くのは当然だ。

 日本でもUberの参入に対して反対の声が挙がっている。しかしその状況はロンドンとは異なる。反感ではなく排除になっているからだ。Uberの日本法人は、まず2015年に福岡市でライドシェアの実証実験を始めた。ところがすぐに、届出では無償とされていたドライバーに報酬を支払っていたことが発覚し、国土交通省からストップがかかった。

 タクシーやバスなどで旅客輸送を行う運転手は第2種運転免許が必要となるが、福岡では通常の第1種免許で報酬を得ていたようだ。いわゆる白タク(白ナンバーの自家用車での旅客輸送)行為にあたる。今年3月には東京にタクシー運転手たちが集まり、ライドシェアへの反対集会が行われた。

 しかし同社はあきらめない。5月に京都府京丹後市で、ドライバーは2種免許あるいは同等技能を所持し、運行区域を指定するなど、厳しい条件を課されながらも運行を始めた。こちらは今のところストップが掛からず、走り続けている。初乗り運賃は1.5キロメートルまで480円と、現地のタクシーの1.5キロメートルまで620円よりも安く、6キロメートルでほぼ半額になるという。

 なぜ日本ではライドシェアに対してストップをかけたり、厳しい条件を課したりする動きが続くのか――それは前述した今年3月の反対集会が象徴しているように、タクシー業界の抵抗が大きいといわれている。


●タクシー業界は利用者目線に立っていない

 タクシー、ハイヤー、自動車教習所、観光バスの労働者組合である自交総連(全国自動車交通労働組合総連合会)のWebサイトでは、ライドシェアについて「危険な白タク」と称している。

 しかし同Webサイトに掲載されている「タクシー走行キロあたり交通事故の推移」によると、2012年の100万キロメートル走行あたりの事故件数は全自動車が0.9なのに対し、タクシーは1.6に跳ね上がる。実際にはタクシーの方が事故に逢う確率は高いのである。

 また、Uberが走っている京丹後市は過疎地であり、鉄道やバスの便が悪い。自動車を所有していない、あるいは運転ができない人は、相応の距離の移動はタクシーに頼るしかない。しかしタクシーは運賃が高いから、移動を我慢することになる。

 ライドシェアなら、京丹後市の例で分かるように、タクシーより安く移動できる。ところがタクシー業界は「安全性」を盾に、導入に反発している。移動の自由を制限していることになるわけで、利用者目線とはとても言えない。タクシーを含めたモビリティサービスは、何よりも利用者の立場で考えるべきだ。

 しかし、最近になって改善策が出始めた。タクシー業界内から、東京23区および武蔵野・三鷹市での初乗り運賃が現行の2キロメートル730円から1キロメートル410円程度に引き下げるという案が出てきたのだ。高齢者の中には200~300メートルの距離でも歩くのが辛いという人も多い。だからこの変更は歓迎できる。

 一方、外部からはNTTドコモが配車システムに参入するというニュースがある。同社はこれまでも、自転車シェアリングサービスを東京、仙台、神戸など11地域で運営しており、モビリティに対する関心は高い。自転車シェアで活用している情報通信技術をタクシーにも展開しようと考えたようで、12月をめどに実証実験を始める見通しだ。

 しかし、問題はどちらも東京での実施である点だ。後者は現時点では場所は明示していないが、技術開発のパートナーとして富士通とともにタクシー事業者の東京無線協同組合が名を連ねているところを見ると、東京である可能性が高い。

 こうした取り組みは、公共交通が十分に発達した大都市東京より、交通が貧弱な地方の過疎地でまず導入すべきだろう。その方が社会貢献になるからだ。ただし現状の考え方では、地方の交通は限界にきていることもたしかである。タクシー、そしてバスもだ。


●自動運転やライドシェアが過疎地域を救う

 地方は人が少なく、まばらに住んでいる。タクシーやバスを走らせても、運行コストや人件費に見合った運賃収入が得られない。だから台数や本数が減っていき、ついにはその地域から撤退していく。運賃収入を原資とした従来型の経営では無理なゾーンなのだ。

 おまけにタクシーもバスも運転手不足が悩みとなっている。1人で運転や接客など複数の業務をこなし、労働時間は不規則なのに、収入はそれほど多くはない。故に新たにこの仕事を目指す人は少ない。その結果、運転手の高齢化が進んでいる。前述した自交総連の2012年のデータによれば、タクシー運転手の平均年齢は58.7歳だという。

 この問題を解決する手段の一つとして、過疎地を中心に導入されているのがデマンド交通、つまり利用者からの依頼に応じて走らせる公共交通だ。車両はバスとタクシーの中間のサイズ、具体的にはトヨタのハイエースを多く用いており、地方自治体が主体となって走らせることが多い。しかし、財政面ではギリギリという地域が多い。

 そこで、過疎地限定でライドシェアを認可し、地元の住民や労働者が自分たちの車両を用いて地域全体で移動を支え合う仕組みができれば、車両コストや人件費は切り詰められるはずだ。

 また、近い将来自動運転が実用化されれば、人件費も大幅に切り詰められるので経営が楽になり、過疎地の運行がしやすくなるかもしれない。そして、自動運転によってドライバーがいなくなれば、ライドシェアもタクシーも同一のものになっていく。

 この点にいち早く着目したのがIT企業ディー・エヌ・エーだ。同社は昨年、自動運転の技術開発で定評のあるZMPとともに、その名もロボットタクシーという会社を設立。トヨタ・エスティマを改造した自動運転車で公道での実証実験を始めている。

 さらに同社は今年7月、フランスのベンチャー企業が開発した12人乗りの無人運転電動小型バスを走らせる、新たな交通システムを発表した。最初は公園や大学構内などでの運行に留めるそうだが、将来的には公道走行を視野に入れているだろう。

 過疎地は人やクルマが少ないので、自動運転車の走行に適している。特区制度を活用し、一定の集落内での運用を認可していけば、高齢者をはじめとする住民の移動は楽になるし、自治体側は交通関連予算を切り詰められる。一極集中が進む東京を基準にして、公共交通を判断してはいけない。

 自動運転、ライドシェアを含めたタクシーやバスの改革は、まず過疎地から進めるべきだろう。

(森口 将之)

最終更新:7月27日(水)6時40分

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