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15兆円程度の財政支出を伴う経済対策が必要

ZUU online 7/27(水) 11:30配信

日本の内需低迷・デフレの長期化には2つの大きな原因があった。1つは企業貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要(マイナスが強い)がゼロ。もう1つは国内の資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済が拡大する力が喪失していたことだ。

■企業貯蓄率の見方は意見が分かれるところ

この企業貯蓄率と財政収支は、日銀資金循環統計の資金過不足を基にした、金融取引を表すものになる。実物取引の裏には必ず金融取引があり、実物取引でも過不足をつくることができ、理論的には両者は一致するはずだ。

実物取引で発生した余剰(貯蓄超過)は、金融取引を通じて調整され、必ず金融資産の増加ないしは負債の返済に当てられる。よって、実物取引からみた過不足と金融取引からみた過不足は、表裏一体の関係にあり、概念上は一致する。需給ギャップ(需要不足、GDPギャップ)の考え方は実物取引のもので、実物取引の過不足が需給ギャップとほぼ同じ概念となろう。

毎年末に公表となる国民経済計算確報には、金融取引と実物取引の過不足の両者とも公表されている。ただ、統計的な誤差があり、両者は完全には一致しないが、おおまかなトレンドは同じとなる。企業貯蓄率を見る時、金融機関を含めた概念を使うのか、非金融だけを見るのかは意見が分かれる。

■金融危機後に貯蓄が多くなる金融機関の存在がポイント

通常は、金融機関は資金の融通をするだけで、一定期間で平均すれば、過不足はゼロであるはずで除かれるが、金融危機後に最も貯蓄をするのは金融機関であることに問題がある。内部留保などによる自己資本の早急な積み上げが必要とされ、その貯蓄行動が需要とマーケットの収縮をスパイラル的にするリスクとなる。よって、金融を含めた企業を使った方が、金融危機が周期的に起こる現状をうまく説明できる。

実物取引の過不足で、企業が余剰になっていること(異常なプラスの企業貯蓄率)は、貯蓄に対して投資が不足しており、需給ギャップがあることを意味する。政府がそれを埋め切れているのかを見るために、企業と政府を合計したネットの資金需要(GDP比%)を総合的な需給ギャップの代理変数とする。

家計の貯蓄率がプラスで、ネットの金融資産が蓄積していくのを前提とすれば、需給ギャップの0%に対応するネットの資金需要は、しっかりとしたマイナスとなるはずだ。マイナスが大きければ需要が強くインフレに、プラスになれば需給ギャップは、デフレをスパイラル的にするリスクがあるほどに大きいことを意味する。

■需給ギャップと政策の議論はスピードが命

国民経済計算確報は公表が遅く、そして家計以外は四半期データがないため、使い勝手が悪い。よって、公表も早く、四半期データが揃っている日銀資金循環統計をベースにした議論をする必要がある。

同じ金融取引でも、資金循環統計と国民経済計算では乖離もみられる。しかし、理論的には、金融取引と実物取引、資金循環統計と国民経済計算の結果は一致するはずである。需給ギャップと政策の議論をする場合、スピードが命であることを考えると、資金循環統計を使っても問題はないだろう。

2016年1-3月期のネットの資金需要(企業貯蓄率+一般政府収支、GDP対比)は、金融を含んで+2.6%、金融を除くと+2.8%で、金融機関のバランスシートは健全で貯蓄率は0%程度で安定しているので、現在はその差はあまりない。

ネットの資金需要が消滅しているということは、需給ギャップが存在し、少々のショックでデフレに戻ってしまうリスクが大きく、国内の資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済が拡大する力が喪失している。

■秋の臨時国会の補正予算次第で、年明けに更なる積み増しか?

アベノミクスのデフレ完全脱却へのモメンタムは、ネットの資金需要が復活したこと、そしてそれを金融緩和により間接的にマネタイズしたことによって生まれたと考えられる。しかし、グローバルな景気・マーケット動向が不安定な中、消費税率引き上げ、社会保障負担の増加、そして歳出キャップという緊縮財政が進行し、ネットの資金需要は再び消滅してしまった。

ネットの資金需要が消滅していれば、マネタイズするものが存在せず、量的金融緩和はほとんど無効となってしまう。ネットの資金需要をマイナスに戻すためには、GDP対比3%程度の財政政策による需要が必要になる。

更に、アベノミクスの最大値である-2.6%(金融を含む)まで財政政策だけで戻すには、5%程度の需要が必要だろう。

企業貯蓄率が短期的に上昇(ボトムから3.4%、2014年10-12月期の+2.6%から2016年1-3月期の+6.0%)しているのが、政策対応による刺激やグローバルな景気・マーケットの安定化で戻ると仮定する。すると、その3.4%と3%の財政出動の合計で6.4%となり、現在の+2.6%のネットの資金需要を-3.8%まで戻すことができる。

デフレ完全脱却へのアベノミクスのモメンタムを早急に再生するためには、15兆円程度の財政支出(政府の一般会計と財政投融資から直接支出する額)を伴う経済対策が必要であろう。秋の臨時国会に提出される補正予算の規模が十分でなければ、例年通り来年1月の通常国会で更なる景気対策の補正予算で積み増す必要があろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

最終更新:7/27(水) 11:30

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