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有価証「券」の行方 マネックス証券執行役員 三根公博

ZUU online 7/27(水) 12:10配信

本連載も三回目である。投資対象としての有価証券がFinTechによりどのような影響を受けるかを検討する。

第1回「FinTechが資本市場に与える影響とは?」(https://zuuonline.com/archives/108354)
第2回 「仮想通貨」とは何か?(https://zuuonline.com/archives/111834)

■「有価証『券』」は、市場では取引されていない?

「有価証券」とは何かという問題について、私法上の通説として、「私法上の権利(財産権)を表章する証券であって、それによって表章される権利の発生、移転または行使の全部又は一部に証券を要するもの」というものがあり、有価証券法理と呼ばれる。

要は、財産上の権利は目に見えないので、それを目に見えて発生・移転・行使をさせるために証券という「紙」を媒体とするという考えである。

2009年1月から日本国内の証券取引所で売買される上場株式の株券は電子化された。投資信託の受益証券は、2007年1月から電子化されている。

そして、会社法も、例外的に定款で定めれば株券の発行が可能となるものの、原則として株券は発行しなくてよいように改正された。

つまり有価証券取引といいながら、市場で実際に行われるほとんどの取引では、「有価証『券』」という「紙」は取り扱っていない。実際には“有価証”明“情報”を取引しているにすぎない。

■金融商品取引法(金商法)上の「有価証券」の考え方

しかし、金商法上では前述の有価証券法理を前提としながら、有価証券の定義として第2条第1項各号で、伝統的な“紙”の証券の国債証券、株券、投資信託の受益証券などを限定列挙している。

そして、例外的に同条第2項で、昨今の有価証券のペーパーレス化により券面(「紙」のこと)が発行されていない場合でも、第1項の特定の権利を有価証券とみなすことを定めている。例えば、株式で株券が発行されていないものでも、株券とみなされる。

前述のように実際には市場で売買されるほぼ全ての株式はこのみなし株券であり、例外が原則となっているという奇妙な状態になっている。

■「有価証『券』」は必要か?

有価証券という概念は、財産権という目に見えない価値を実際に手に取って、見えるようにし、発生・譲渡・保管しやすくしたという点で、人類にとって画期的な発明であった。

もっと広く言えば“価値”を記録する対象としての“モノ”、過去の情報通信技術の下では、「紙」しかなかったから発展した概念ともいえる。

そして近時の情報通信技術の発展の結果、せっかく目に見えない権利を目に見えるようにした「有価証券」を、わざわざ電子化してまたその権利を見えないようにしているという皮肉な状態となっている。

「有価証『券』」という概念があるために、かえってめんどくさいことになっているのである。

では本当に「有価証『券』」という概念は必要なのか?

■アトムからビットへ

財産権などの価値を、なんらかのモノに記録しないと取引できないのは確かであるが、そのモノは紙などの物質(アトム)である必然性はない。

その発生・譲渡・保管のしやすさが紙などと同様に確からしいのであれば、情報(ビット)に記録して、その情報を取引することとしても、実際の取引においては何ら支障はない。

そして、前述の通り市場で取引されているのは実際には情報であり、法律上その情報を有価証券と呼んでいるに過ぎない。

であれば、正面から「有価証『券』」という概念をなくし、「有価証『情報』」を取引すると認めてもよいのではないか? ここで、やっとFinTechの出番である。

■FinTechはすべてを壊す

例えば、「株『券』」という概念をなくし、株式そのものを直接取引すると法律上定義しても、実は誰も困らない。

今までは、「株『券』」という“モノ”がないと、株式という目に見えない株式会社の社員権が売買できなかっただけであり、今では幸いなことにブロックチェーンに見られる、リアルタイムな取引記録を参加者全員が参照できる仕組みがある。

「株『券』」がなくとも、ブロックチェーン上で株式を直接売買することは十分可能である。

そうすれば、1株式を取引することが可能となり、より少額の金額で株式投資が可能となり、投資家にとってメリットが大きい。

企業にとっても、ブロックチェーンを使い、株式上場対応コストが低額で済むのであれば、反対する理由はない。株主名簿にしても、ブロックチェーンを使えば、実際には毎日でも確定は可能である。

半年に一度株主名簿を確定するという現在のやり方は、紙と手と人の足しかなく、株主を確定させるのが大変だった時代の方法を現在に残しているだけであり、従わなければならない必然性はどこにもない。

投資信託にしても、現在は投資信託の組成・販売のコスト面の必要から、最低売買代金が1万円からとなっているものがまだ多いが、ブロックチェーンを用いて、受益者情報の確定が瞬時に行えるようになれば、それこそ1口単位から販売することは可能になるだろう。

そして、ブロックチェーンを利用した決済期間の短縮化が進み、T+0(取引したその日に資金の受け渡しがなされること)が実現され、併せて証券会社から銀行への即時入出金が実現されれば、現在我々が見ている有価証券取引は、ガラリとその姿を変える。その時に、現在の証券会社、証券取引所、その他の市場関係者は、今のままの姿では生き残ることはできない。

FinTechはすべてを壊すのである。

三根公博、マネックス証券執行役員 この筆者の記事一覧(https://zuuonline.com/archives/author/minekimihiro)

最終更新:7/27(水) 12:10

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