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銀行員が『捨てられる銀行』を爆買いする理由

ZUU online 7/27(水) 19:10配信

銀行員の間で話題になっている本がある。ある週刊誌には「地方銀行が次々にまとめ買い」「銀行員はこの本を読まないと仕事にならないらしい」そんな見出しが踊っていたほどだ。その本とは『捨てられる銀行』(講談社現代新書)である。なぜ、この本が銀行員にもてはやされるのか。いや、そもそもこの本にそれだけの価値があるのだろうか。

■「感想文を提出せよ」火のない所に煙は立たぬ

「頭取が役員全員にこの本を読んで感想文を提出するように指示したらしい……」「俺たちもこの本読んでおいた方が良いぞ」銀行のありとあらゆる場所でこんな噂が広まっていた。末端の銀行員にことの真偽を確認することはできない。私はある人から聞いた噂であり、その人も噂を聞いたに過ぎない。そこへもって上述の週刊誌の記事である。火のない所に煙は立たない。

この話を聞いたときの行員の反応は様々だ。銀行員にも様々なタイプの人間がいる。銀行に絶対忠誠を誓う連中は我先にこの本を買って読んだ。彼らはこの本の内容とは関係なく、この本を持っている(必ずしも読んだわけではない)ことで免罪符を手にしたかのように「素晴らしい内容でしたね。銀行員なら必ず読んでおく必要がありますね」などと悦に入っている。

私はどうかと言われると、当然後者である。業務を遂行する上で必要な規定やマニュアル、法令などを読むことを指示されれば当然それに従うべきである。しかし、件の本はあくまで個人の趣味の範囲内だ。それを強要されることそのものに強い抵抗を感じる。ましてや、その内容といったら・・・

■では、私も感想文を書いてみよう

しかし、これだけ話題の本なのだから読まないという手はない。私の顧客も何人かは既にこの本を読んでおり、共通の話題という点からも読んでおく必要があった。

私の感想をここで披露しよう。この本を書いた著者は共同通信社の記者である。したがって、記者の視点から書かれていることを認識しておく必要がある。事実関係の裏取りはしっかりと行われており、信憑性の高い内容であると感じさせられる。たとえば、森金融庁長官の金融に対する考え方、過去の金融検査マニュアルの弊害など多くの事実を調査し、多くの人に取材を積み上げ、文章が組み立てられている。さすがは記者の仕事であると感心させられる。

だが、目新しい話は何も無い。新聞を読み、経済誌に目を通していれば、すでに報道されている事実ばかりだ。それらの事実の背景を記者の視点で改めて解説したに過ぎない。ついでに言うならば、著者独自の提言があるわけでもない。こんな取り組みを行っている銀行もある、顧客からこんな苦情を言われた銀行もある(これが捨てられる銀行ということだろう)、そんな具体例が挙げられている。それはあくまで取材により得られた情報の羅列でしかない。

■著者独自の提言がなく、退屈きわまりない

私はこの本を読むのがとても苦痛だった。銀行員として耳の痛い話だからではない。この本に書かれている内容は、銀行員なら当然知っているであろう事実ばかりだからである。金融庁や一部銀行の取り組みだけではない。顧客からの苦情など、日々我々は現場で矢面に立って対応している話ばかりなのだ。それをなぞり返すのは退屈きわまりない。目から鱗のような著者独自の視点からの提言があるわけでもないのだ。

つまり、この本に書かれていることは銀行員ならば、当然知っていなければならない話ばかりなのだ。この本を読んで初めて知ったという人は残念ながら、勉強不足の烙印を押されても仕方ないだろう。そう、銀行員ならばこの本を読んでも特段発見はないはずである。

■銀行経営者のみなさんに言いたい

それでもこの本が売れているのは事実である。多くの銀行員がこの本を読んで得られるものがあると感じたから売れているのであろう。私はその事実を残念に思う。そして、もし、ある銀行の頭取がこの本を読んで感想文の提出を求めたことが事実なら、哀しく思う。

今さら、この本の内容で右往左往する銀行の経営者はどうなのだろう。自分たちの弱点をこれまで分からずに経営していたということの証ではないか。現場で汗を流している末端の銀行員はこんなこと、とっくに分かっている。

銀行経営者に言いたい。あなたたちに本を読んでいる時間があるなら、一人でも多くの顧客の声を聞くべきだ。一人でも多くの現場の銀行員の声を聞くべきだ。そんなことはもうやっているという反論もあるだろう。しかし、これまで聞いていた声は、フィルターを通した声でしかなかったに違いない。

だからこそ、この本の内容が新鮮だったのだろう。あなた方経営者が聞くべき声は、大口の顧客の声ではない。取るに足りない、ごく一般の顧客の声こそ重要なのだ。あなた方に取り入ろうとする、取り巻き連中の声など本当の行員の声ではない。現場で汗を流す行員の声こそ本当の声なのだ。

■「本を読むだけで満足してちゃダメだね」

銀行員は多くの人が考えているよりも愚かである。彼らは自分自身で考えようとはしない。これまで私は金融商品の販売という観点から、銀行員の愚かさに警鐘を鳴らしてきたつもりである。事実この本を多くの銀行員が買っているという点も、銀行員の愚かさを証明していると言えるだろう。自分たちの問題点を外部から指摘されるまで全く気づかなかったというのは、あまりに情けない話だ。

銀行に限ったことではない。組織においても、社会においても多様性が許容されないようでは、その組織や社会は衰退へ向かうことだろう。皆がこの本を読んでいるから読む、この本に書かれていることが正しいことだと思い込まされ反論も許されない。そんな組織に未来はあるだろうか。

経営者にとっては行員が愚かな方が使いやすいのかも知れない。しかし、私は思う。「満足した豚よりは、満足しない人間である方がよい。満足した馬鹿より、満足しないソクラテスである方がよい」だから、私はこうして書き続けるのだ。

或る日、この本を読んだ私の顧客は次のように感想をもらした。「重要なのは銀行が自分自身で考えることだと思うよ。本を読むだけで満足してちゃダメだね」全くその通りだ。(或る銀行員)

最終更新:7/27(水) 19:10

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