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苦闘20年! 中国でローソンの店舗数がやっと伸びてきた理由

ITmedia ビジネスオンライン 7月27日(水)7時44分配信

 中国で、ローソンの店舗数がものすごい勢いで伸びている。2013年は297店にとどまっていたが、2016年6月末現在で750店。わずか2年半で、2.5倍に拡大しているのだ。この勢いはまだまだ続く予定。記者会見の席で竹増貞信社長が「2020年までに4倍の3000店にする」と言うので、「おー!」と思っていたら、次に玉塚元一会長が「3000店を達成できれば、おのずと1万店が見えてくる」とかぶせてきたので、「おー! おー!」と驚いた次第である。

【会見場で厳しい意見が飛び交う場面も】

 しかし、中国を統括している人が「(2021年2月期には)営業利益を50億円を達成したい」と胸の内を明かしたところ、玉塚会長が「夢のねえ話だな!!」と声を荒げたので、場が凍り付く一幕も。50億円というちっぽけな数字ではなく、新たなサービスを追加することで「100億円、200億円を目指す!」と言ってほしかったのだろう。とまあ、そんな感じで、いまはとにかく「増やせ、増やせ」「大きく、大きく」といったムードが漂っているのである。

 こうした話を聞くと、「中国でローソンは順調なんだなあ」と思われたかもしれないが、実は違う。山あり、谷ありだったのである。

 中国1号店は1996年、周囲にマンションが建ち並ぶ上海でスタートした。当時、日本式のコンビニが誕生した珍しさもあって行列が絶えなかったが、やがて客足は遠のいてしまう。店舗数も伸び悩んでいたので「このままではいけない」となり、2002年に現地企業が主導になって店舗を運営することに。すると、わずか2年で店舗数が倍増(100→200店)。「やったー、やったー」と喜んでいたものの、その企業が国策の一環で再編の渦に飲み込まれてしまったのだ。

 再び、迷走の時代に突入する。店舗数は300店前後をいったりきたりするなかで、競合のセブン-イレブン、ファミリーマートの海外店舗は順調に拡大していく。一人負けの状態が続いていたローソンは、またしても「このままではいけない」となり、2011年に現地企業から経営権を取り戻し、日本の本社が建て直すことになるのだ。

 この20年、起伏の激しい経営を展開してきたローソンが、なぜここ数年で急激に店舗数を伸ばすことができたのか。その秘密を探るために、中国でマーケティングを担当している吉田涼平さんに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンライン編集部の土肥義則。

●リピート率が高い

土肥: ローソンといえば「Ponta(ポンタ)カード」から得られるデータを使ってマーケティングに生かされていますが、中国ではスマートフォンのアプリを使う客が多いそうですね。アプリから得られるデータからどんなことが見えてきましたか?

吉田: 約27万人にダウンロードしていただいていて、どのくらいの頻度で購入しているのかを分析しました。全体の平均をみると、「週に3.2回」なんらかの商品を買っていただいています。次に、購買データを分析したところ、お気に入りの商品を買っている人は、何度もその商品を購入していることも明らかになってきました。リピート率は29.5%。残念ながら日本の数字は公表していませんが、この数字はものすごく高いですね。

 新商品を発売すると、「ちょっと食べてみようか」ということでその商品を購入していただくケースも多いのですが、「やっぱりいつもの商品を買おう」と戻られる人のほうが多いんですよね。こうしたデータを見ながら、どういった新商品を出せば継続的に買っていただけるのか。新しい商品をヒットさせるにはどうすればいいのか。そんなことを議論しながら、新商品の開発を考えています。

土肥: 日本では「からあげクン」が定番商品のように売れていますよね。でも、中国の店では並んでいない。なぜかなあと思って広報の人に聞いたところ、20年前に出店した当時は発売していたとか。しかし、全く売れなかったそうですね。「中国の唐揚げと味も形も違うからではないか」(広報)と言っていましたが、店頭でおでんは販売している。詳しく話を聞いてみると、からあげクンが売れなかったので、次に何かないかなあと考えたときに、「試しに『おでん』を売ってみよう」となったとか。

 ただ、日本式のおでんを販売してもなかなか売れなかったそうですね。大根などを販売したところ、価格が高くて現地の人に受け入れられなかった。じゃあ、中国人が好み、価格もそこそこのモノは何かと考えた結果、魚のすり身にたどりついた。また中国の人は「買ってすぐに食べる」人が多いので、食べやすいように「おでん」に串を刺されたんですよね。

吉田: はい。

●日本にはなくて、中国で売れているモノ

土肥: 中国に進出してから1年が経ち、上海の店で「くし刺しおでん」を発売したところ、大ヒットしました。日本では1店舗当たり1日に数百個売れるのに対し、こちらでは1000個以上売れる店もあったそうですね。いまでも「おでん」は定番商品のように並んでいますが、おでん以外にヒットしている商品はありますか?

吉田: いくつかありますね。日本にはなくて、中国で売れているモノといえば「豆乳」ですね。町の屋台で豆乳を飲まれる人が多いので、ローソンでも販売したところヒットしました。ある店舗では、1日に100杯以上売れています。価格は3.5元(税込)。町の屋台よりも少し高いのですが、「高くてもコンビニで買おう」という人が増えてきました。

土肥: どういう意味でしょうか? 安いほうがいいのでは?

吉田: 安全や健康を意識されている人が増えてきたからではないでしょうか。こうした傾向は豆乳だけではありません。例えば、お弁当も路上で販売していて、そこでは安いモノがたくさん並んでいます。しかし、特に夏場になると、コンビニのお弁当がよく売れるんですよね。なぜか。暑い夏場にお弁当を長時間置いていると、腐るかもしれない。そうした不安を感じている人が、コンビニでお弁当を購入されているのではないでしょうか。

土肥: 日本にいると「中国産は怪しい」といった報道が多いですが、現地の人たちもなんとなくそれは分かっていて、価格は少々高くても「安心、安全」なモノを選ぶ人が増えてきたということですかね。

吉田: ここ数年、豆乳やお弁当だけでなく、さまざまな商品で安全や健康を意識した人が増えてきました。例えば、サラダ。これまではポテトサラダの売り上げが好調でした。次に、鶏肉の入ったサラダを発売したところ、一緒におにぎりを購入されるケースが多いんですよね。一方で、普通のサラダについては、一緒にお弁当やカレーを購入されるケースが多い。

土肥: それはなぜですか?

●キャンペーンを分析

吉田: 「カレーを購入したけれども、栄養は足りているかな。健康を意識してサラダも食べるか」という人が多い。サラダがいわゆる“言い訳食材”になっているのでしょう。また、鶏肉が入ったサラダとおにぎりをセットで購入する人は「ちょっと太ったな。ダイエットをしなければいけないので、今日はこれで我慢するか」というケースが多い。データを分析していると、健康を意識している人とあまり意識していない人とでは、購入しているモノが明らかに違っていることが分かってきました。

 ちなみに、サラダの売り上げは好調でして、既存店前年比(2016年7月1日~24日)で143%でした。

土肥: ふむふむ。

吉田: データを分析できるようになって、キャンペーンの効果も検証できるようになりました。以前は「ジュースを3本買っていただくと、1本もらえる」といったキャンペーンを企画しても、本当にお客さんは喜んでいるのか。疑問を感じることがあったのですが、データを分析することで「このキャンペーンは人気がある」「このキャンペーンはいまひとつだった」ということが分かってきました。

土肥: どういうキャンペーンが人気ですか?

吉田: 例えば、「コンビニコーヒーを5杯購入すると、1杯無料」というキャンペーンを実施しました。すると、どういった結果が出たのか。コンビニコーヒーを購入している人の40%がこのキャンペーンに参加しているんですよね。他のキャンペーンの場合、参加率は高くて30%、ほとんどの企画が20%弱なんですよ。

土肥: 「よかった、よかった、次もこの企画で」となったわけですか?

吉田: キャンペーンが成功したのはうれしいですが、日本と違って、中国では店内にコーヒーマシンを導入している店舗が少ないんですよね。いまのところ、100店舗ほどしかありません。コーヒーという商品は習慣性があります。継続的にお店に足を運んでいただけるので、今後はコーヒーマシンの導入店舗をもっと増やさなければいけません。キャンペーンのデータを分析することで、同時に課題も浮き彫りになりました。

●月餅スイーツが好調

土肥: 日本のローソンはスイーツ商品が充実していますよね。各種アンケートを見ても、スイーツの人気が高い。中国の人に、スイーツはウケているのでしょうか?

吉田: 以前は、日本でも販売している「まるごとバナナ」のような商品がよく売れていました。商品開発をする際、担当者は毎週のように、行列ができる人気店に足を運んでいるんですよね。人気がある店というのは、消費者に支持されている味を提供し。ている。その味を参考にしながら、商品開発のヒントにしています。

 いわゆる“覆面調査”によって新商品が開発されるケースも多いのですが、一方でちょっとした疑問からヒット商品が誕生したモノがあるんですよ。

土肥: ほー、なんでしょうか?

吉田: 「月餅」と聞いて、どんなイメージをお持ちでしょうか?

土肥: 丸いお菓子ですよね。月のような形をしていて、中に餡(あん)が入っている。多くの中国人が食べている、といったイメージがありますが。

吉田: 「多くの中国人が食べている」といったイメージがありますよね。中秋節には必ず食べるといった感じで。でも、現地で働く中国人がこのように言っていました。「『中国人は月餅を食べている』と思われるかもしれませんが、嫌いなスイーツを聞くと『月餅』を挙げる人が多いはず」と。もちろん、その事実を裏付けるデータはありません。あくまで、その人の私見です。

土肥: ははは、京都の人が「八つ橋を食べない」といった感じですね。

●スイーツを買う人も健康志向

吉田: ちょっと気になったので市場調査をしました。すると、ハーゲンダッツは月餅のアイスを発売していますし、スターバックスでも特殊な月餅を扱っていました。「現地の人にとって月餅は身近なスイーツだけれども、違う味を求めているのではないか」という仮説を立てて、月餅の味に近いケーキを開発することにしました。

 すると、ものすごく売れたんです。抹茶味、チョコ味、イチゴ味といった定番のフレーバーだけでなく、季節限定としてマンゴー味も発売したり。ちょっと変わったフレーバーとして、ドリアンも発売しました。フレーバーは常時2~3種類用意していて、他のスイーツと比べて2~3倍売れているんですよ。

土肥: おー、それはそれは。

吉田: 上海郊外に店を出したとき、月餅のスイーツが1日に150個ほど売れました。ある店では、1日に100個以上売れる日が1カ月以上も続きました。

土肥: 日本でケーキが1日に100個以上も売れることは?

吉田: なかなかないですね。なぜ、郊外でスイーツが売れるのか。郊外に行けば行くほど、スイーツの専門店がないんですよね。というわけで、コンビニでスイーツを購入される人が多いのではないでしょうか。ちなみに、スイーツを購入した人のデータをみると、健康志向であることが分かってきました。

土肥: スイーツって砂糖などをたくさん使うので、健康食とはなかなか言えないような。

吉田: 5年ほど前は、「砂糖がたくさん入っているスイーツ=高級品」と思われていました。しかし、最近は「甘さ控えめ」「本格的なミルク味」といったモノを好む人が増えてきました。

 なぜ、スイーツのジャンルにも健康志向が広がってきているかというと、海外旅行に行く人が増えてきたからではないでしょうか。以前はたくさんの砂糖がたくさん入ったモノを好む人が多かったという話をしましたが、海外で甘さ控えめのスイーツを食べることで、嗜好が変化してきているのかもしれません。先ほど月餅の話をしましたが、中国の伝統的なモノよりも、最近は洋菓子のほうを好まれる傾向がありますので。

●鳥取のスタバのよう

土肥: 味覚がここ数年で変わってきているようですが、コンビニに対する接し方で変化は感じられますか?

吉田: 5年前と比べて大きく変わりました。以前は、「飲料を買うから」「お弁当を買うから」といった目的があって、来店されていました。日本の場合は違いますよね。「特に買うモノはないけれど、ちょっとコンビニに入ってみるか」という人がいますが、データを分析したところ、中国でも「ふらっとコンビニに足を運ぶ」人が増えてきていることが分かってきました。

土肥: 中国でコンビニが増えてきていることも大きい?

吉田: 全体で増えていると思うのですが、日本のような正確なデータがあるわけではないので、そのへんはちょっとよく分かりません。ただ、郊外に行くとコンビニがないところがあるので、そうしたところに出店すると、行列ができるケースがありますね。

土肥: 鳥取のスタバのようですね(笑)。47都道府県の中で唯一出店していなかったので、出店当日は行列ができていました。そのような感じで、中国には“コンビニ空白地”がたくさんあるわけですね。本日はありがとうございました。

最終更新:7月27日(水)7時44分

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