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ヘリコプターマネーとは何か、実現性はあるのか?

投信1 7月27日(水)18時30分配信

この記事の読みどころ

ヘリコプターマネー(略してヘリマネ)という言葉を耳にするようになりました。有名なヘリマネ論者であるバーナンキ前米連邦準備制度理事会(FRB)議長が7月中旬に来日したことで市場の一部にヘリマネ期待が見られたことも一役買ったようです。

では、そもそもヘリマネとはどのようなものか、ヘリマネは実施される可能性があるのかを見ていきます。

 ・ そもそもヘリコプターマネーとは何か? 
 ・ ヘリマネ政策に実現可能性はあるのか? 

黒田日銀総裁:G20でヘリコプターマネーについて議論全くなかった

まず、日銀の黒田総裁の最近のヘリマネについてのコメントを紹介します。中国・成都で2016年7月23~24日に開かれた20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議後の共同会見で、黒田総裁はヘリマネについては議論が全くなかったと述べています。

また、G20前の記者会見では、黒田総裁は記者団に対し、日銀が政府財政支出をファイナンスするヘリマネについて、「何を意味しているのかいろいろな人で違いがあり、一概に答えにくい」と断ったうえで、中央銀行による国債の直接引き受けに関しては「日本を含めて先進国では歴史的な教訓から禁じられている」と指摘しています。

一方で、黒田総裁は「経済、物価の観点から金融緩和している状況の下で、政府が財政政策を活用するということになれば、相乗効果として景気に対する効果がより大きくなる」とし、「ポリシーミックス自体はマクロ政策としておかしいことではない」とも述べています。

どこに注目すべきか:財政法第5条、無期限国債、日銀の独立性

ヘリマネを一言で表せば、財政政策を中央銀行の信用力でファイナンスするといった内容ですが、黒田総裁が述べたように、「ヘリマネ」の意味は論者により違いが見られます。

あえて単純化すれば、2つの条件、すなわち(1)財政拡大政策と中央銀行の国債消化(国債引き受け)と(2)中央銀行の調達による永久的なマネーストックの増加、の両方が満たされていることが一般にヘリマネの条件として理解されています。

なお、(1)、(2)の条件はヘリコプターベンと呼ばれる(本人は打ち消したいようですが)先述のバーナンキ氏のブログを参照したものです。

(1) 前半の財政拡大政策は大幅な減税、もしくは公共投資や商品券配布が含まれるのが一般的で、あたかもヘリコプターでお金をまくというイメージです。

(2) 後半のヘリマネにおける中央銀行の国債消化は、直接引き受けと理解されています。ヘリマネを行うとすれば大量の国債の消化が必要となるため、中央銀行の直接引き受けが必要となることが想定されます。しかし、たとえば日本では黒田総裁が指摘したとおり、財政法第5条で(原則)禁止されています。

次にヘリマネの条件(2)では、財政拡大のための中央銀行の資金調達は恒久的であることが求められています。形式としては、
a)中央銀行の紙幣発行による財政赤字の穴埋め、または
b)既存国債を中央銀行が購入し、無期限国債に切り替える、
といった方法が考えられます。

イメージとすれば、通常、財政政策に必要な資金は返済義務(利子と満期償還)のある国債発行で調達しますが、ヘリマネでは(コストがゼロに見える)日銀の信用力(マネー)で調達するという考え方です。

この(2)を考える上で、例として日本の量的金融緩和による債券購入を考えると、日本はある意味半分ヘリマネを行ったとみなす人もいます。たとえば、日本の2013年度の景気拡大は財政拡大と日銀の国債購入が重なり、ヘリマネのように見えたからです。

しかも、日銀の国債購入は出口戦略(日銀が購入したバランスシート上の国債を縮小)が将来のどこかであるはずですが、現実には日銀は当面国債を保有すると考えられていた点では、擬似的には(2)も(やや根拠が弱いですが)成立、一種のヘリマネの様相を呈していたからです。

では、「純粋な」ヘリマネの実現性を考えて見ます。最初に結論を述べるならば、財政政策を中央銀行が無期限国債でファイナンスする「純粋」なヘリマネの可能性は低いと思われます。理由として、実施にあたり日銀の直接引き受けが想定されますが、黒田総裁が指摘したように財政法(第5条)上禁止されているからです。

また、仮に無理矢理日銀と政府が合意してヘリマネを導入したとすればインフレ率上昇が想定されますが、その場合ヘリマネに同意している日銀の役割(独立性)が不明確となる恐れがあります。物価の番人たる日銀の役割について事前に十分な準備が必要と思われます。

どのタイミングで、誰がヘリマネを終わらせるかというガバナンスの問題は、バーナンキ氏も重要な問題と指摘しています。テクニカルな問題として、財政規律の損失、通貨への信任低下(円安)や潜在成長率の低下懸念など、課題も山積みです。

したがって、「純粋」なヘリマネは、政策ツールとして実施を念頭に準備をするにしても、極端な経済状況に直面しない状況では実施の可能性は低いと思われます。

ただし、拡大的な財政政策と日銀の国債購入を重ね合わせる形でヘリマネらしき政策、たとえば日銀が当面購入国債償還への再投資を強く表明する一方で、商品券による消費刺激といった財政政策を導入するという政策であれば、財政再建路線との整合性の問題はあるにせよ、可能性という点で多少実現性が高いように思われます。

ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文

最終更新:7月28日(木)0時0分

投信1