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《白球の詩》細身エース 頼もしく 前橋工・八野田龍司投手

上毛新聞 7月27日(水)6時0分配信

◎内角突く強気な攻め

 六回2死満塁。「一番警戒していた」4番の小川龍成主将を迎えた。この回、内角狙いで死球の打者を出していた。普通なら消極的になってもおかしくない場面だが、投げたコースは内角低め。遊飛に打ち取り「ピンチで攻める投球ができた」と振り返った。

 マウンドに立つと人が変わる。顔色一つ変えずに、内角を突く強気な攻めは、日常生活から想像ができない。普段を知るチームメートは「子どもみたい」「かわいいやつ」と言う。身長177センチ、65キロの細身な体からは確かに迫力は感じられない。

 だが、母の雅代さん(49)は「内に秘めるものがある子。小さいころから高校野球が大好きで、懸ける思いが強いのは言葉にしなくても伝わってくる」と真の姿を見続けてきた。

 保育園のころから、高校野球の試合中継を録画した映像を何度も見て、強豪校の校歌はほとんど歌えた。憧れたのはエース。「チームを背負って試合をつくるところ」にひかれた。自分が前橋工の背番号1をつけることになり「重さを感じた」。甲子園出場の鍵を握るのは、自分自身だと分かっていた。

 春の関東王者の前橋育英に昨秋は1―0の完封勝利を収めたが、春は4―6で逆転負け。2ランを含む10安打と打ち込まれ、ピンチで粘れなかった。「みんなが打ってくれたのに、自分のせいで負けた」と責任を感じた。普段はあまり感情的になることはないが、この日は悔しくて泣いた。

 夏になんとしてもリベンジしたかった。組み合わせ抽選の日は「絶対同じブロックに入りたい」と願っていたし、準々決勝で秋王者の樹徳を倒して思ったのは「やっと育英と戦える」。

 球威のあるタイプではなく、制球力が生命線の技巧派左腕。夏に向けた練習試合ではボール球も覚悟の上で際どいコースを狙い、精度を上げてきた。特にこだわったのはインコースへの投球で、育英打線にも有効だった。

 雨の中の投球は想像以上に神経を使い、六回に入ったころから、握力が弱まってきた。同点で迎えた七回1死一塁。外角を狙って投げたスライダーがやや内側に入ったところを捉えられた。最初は「ライトフライかな」と思い、目で追った打球は右翼席に飛び込んだ。頭が真っ白になり、しばらくぼうぜんと立ち尽くした。

 仲間を甲子園に連れて行くことはできず、試合後は「申し訳ない」と何度も繰り返した。それでも、エースの姿はチームメートの目に頼もしく映った。

 仲の良い遊撃の茂木槙作は「(体が)細いなと普段は思うけど、今日は背中が大きく見えた。前工を背負ってるなって」。

 幼い頃から憧れだった高校野球。「今までで一番成長できた。いろいろなことを学ばせてくれた」。伝統校のエース番号は誇りとなった。(越谷奈都美)

最終更新:7月27日(水)6時0分

上毛新聞

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