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ほんとうに恐れるべきは「AMEXIT(米国の退場)」だ

ニュースソクラ 7/27(水) 12:10配信

米国が国際秩序の後見人を降りるとき

 市場は「BREXITショック」を脱したという。NYダウは最高値を更新し、日経平均もショック前の水準を超えた。市場は「欧州ローカルの問題」と消化したようだが、楽観的過ぎないか。

 BREXITで露わになったグローバル化の受益者と被害者(と思っている人)の亀裂は欧州に限らず、AMEXITのリスクも見え隠れしているというのに。

 第5代大統領ジェームズ・モンローを持ち出すまでもなく、米国には孤立主義の伝統がある。第1次大戦後にできた国際連盟はウッドロー・ウィルソン米大統領の発案なのに、上院の反対で米国は入らなかった。

 第2次大戦後に国連本部をニューヨークに招致した米国だが、1960~70年代に勢力を誇った極右団体ジョン・バーチ協会は、国連の干渉に反対し、NATO(北大西洋条約機構)からの脱退を主張した。

 不法移民を追い返し、メキシコ国境に壁を築き、イスラム教徒は入国させず、海外駐留米軍の経費削減を唱えてきた共和党の大統領選候補ドナルド・トランプも、そう違わない。

 戦後の米国は国際秩序の後見人で、安全保障に力を入れ、自由貿易を擁護し、グローバル化の側に立ち続けてきた。その立場からの離脱こそAMEXITであり、体現するのが「トランプ大統領」だろう。

 識者や市場は、「結局はヒラリー・クリントン大統領」と高をくくっているようだ。「リメイン(残留)」に賭け「リーヴ(離脱)」で泡を食ったのが英国民投票だった。11月の本選挙前に米国で大規模なテロでも起きたら、どちらに転ぶか予測の限りではない。

 国務長官を務め、安全保障政策にも通じた「クリントン大統領」なら、これまで通りと思うのも甘い。

 予備選で彼女を追い上げた自称「社会民主主義者」バーニー・サンダースの主張は、反グローバル化の一点でトランプと重なる。最近のNYタイムズへの寄稿で彼は、グローバル経済こそ世界の貧富格差の元凶で、「自由貿易」政策を全否定すべきだ、と訴えた。

 2人ともTPP(環太平洋経済連携協定)に大反対で、ウォール街を糾弾する。クリントンも左右の反グローバリズムに挟撃されて、現状ではTPPに反対の立場をとらざるを得ないのだろう。

 その根底に、米国の中層以下の世帯の実質所得が、この15年ほど下がりっぱなし、という現実がある。「クリントン政権」が実現しても、反グローバリズムの攻勢を和らげるのが、精一杯かもしれない。

 ヨーロッパと米大陸の相互不干渉を求めたモンローの時代は、帆船で大西洋を横断するのに1か月前後かかっていた。米国の孤立主義の世界へのインパクトは、さほどでもなかった。

 世界が狭くなった今は違う。イスラム圏から欧州への難民の流入を、ローマ帝国へのゲルマン民族大移動になぞらえる人もいるが、早すぎるAMEXITはローマ帝国崩壊後の地中海世界のようなカオスを、世界にもたらすかもしれない。恐れるべきはAMEXITだ。

■土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:7/27(水) 12:10

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