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e-tron、AMG、M……パフォーマンス・ブランドの役割を考える──大谷達也コラム第2回

オートスポーツweb 7月27日(水)22時18分配信

 その関わり方やカテゴリーは千差万別だが、モータースポーツに参画している自動車メーカーは世界中に数多い。おかげで、いまやほとんどのモータースポーツ・イベントが自動車メーカーの存在なしには成り立たないといっても過言ではない状況にある。だが、当然、時代の流れとともにその関わり方は大きく変化している。自動車メーカーはモータースポーツに何を求めて、どのような変遷を重ねてきたのか。自動車メーカーとモータースポーツの関係について、いま一度振り返ってみたい。

◆自動車メーカーとパフォーマンス・ブランドの役割
  前編では、アウディ・クワトロによるWRC参戦を「第1の変革」、ポルシェによるカスタマーレーシングの確立を「第2の変革」、メルセデスによるAMG買収を「第3の変革」と位置づけられると述べた。ここでは、その理由を説明しよう。

 アウディが「世界初のオンロード用フルタイム4WDモデル」とされる“クワトロ"を発表したのは1980年フランクフルトショーでのこと。ただし、当時はまだ4WDといえばオフロードを走るためのメカニズムとの先入観が強く、オンロード性能の向上に4WDが役立つと考える人は少数派だった。そこでアウディはフルタイム4WDがオンロードでも有用なことを証明するために、当時は車名も兼ねていたクワトロでWRCに参戦したのである。

 その後の4年間で4つのワールドタイトルを勝ち取ったことは前編で触れたとおりだが、この成功をきっかけにしてクワトロの名は世界中に知れ渡り、初代クワトロだけでなくアウディの様々な車種にクワトロ・モデルが設定されるようになった。ちなみに、アウディ車全体に占めるクワトロ比率はグローバルで50%近く、日本市場では50%を越える。このため、クワトロの知名度はいまも非常に高く、いまやひとつのブランドとして認知されているほか、1970年代までは「良質だけれど平凡なファミリーカー」との印象が強かったアウディを「スポーティで先進的」なブランドへと一変させる効果があったという。

 ここで何に注目すべきかといえば、アウディは単に自分たちのブランド名を用いてモータースポーツに挑んだだけでなく、量産車に用いるキーテクノロジーを掲げてWRCに参戦したことにある。つまり、モータースポーツ活動と実際に販売する商品をダイレクトに結びつけ、その商品のプロモーションに直接、役立つモータースポーツ活動を行った点こそ、私が「第1の変革」と位置づける最大の理由なのである。

 実は、アウディの「キーテクノロジーを活用してモータースポーツに挑む」傾向はその後も息づいていて、たとえば2000年代初頭のルマン24時間挑戦では優勝したアウディR8のボディサイドに直噴ターボガソリンエンジンを意味する「TFSI」のロゴを掲げていたほか、2015年までの彼らのルマンレーサーにはプラグインハイブリッドを意味する「e-tron」が車名の一部として取り込まれていた。

 続く「第2の変革」はポルシェによるカスタマーレーシングの確立である。自動車メーカーが開発・生産したレーシングカーをプライベートチームに販売するだけでなく、補修パーツの供給などのサポートを量産車並みの手厚さで行う体制を最初に整えたのはポルシェだった。近年はこの手法を採り入れる自動車メーカーの数が急増しており、GT3車両を供給する自動車メーカーは軒並みカスタマーレーシングの充実に取り組んでいるとさえ言える。
◆カスタマーレーシングに力を入れる自動車メーカー

 自動車メーカーがカスタマーレーシングに力を入れる理由は主にふたつある。ひとつは、文字どおりのカスタマーサービス。たとえばフェラーリの熱狂的なファンがいて、フェラーリのレーシングカーでレースに参戦することを熱望していたとすれば、そのファンにレーシングカーを供給して手厚くサポートすることは、彼らのフェラーリに対する愛情をさらに深めることに役立つ。しかも、こういうファンは一般的にいってフェラーリを複数台所有する優良顧客で、周囲に対する影響力も大きいことから、単に「1台のレーシングカーを販売する」よりもはるかに大きなプロモーション効果が得られるケースが多い。

 もうひとつは、カスタマーレーシングが自動車メーカーにとって経済的なモータースポーツ活動であると同時に、場合によっては自動車メーカーに利益をもたらす点にある。自動車メーカーが行うモータースポーツ活動は、トップカテゴリーのワークス参戦にしてもワンメイクレースへの支援にしても、多額の予算を“持ち出す"ことを意味してきた。その見返りとしてメーカーはブランドイメージの向上を図れるわけだが、カスタマーレーシングであれば自ら資金を投入しなくとも、顧客が代金を支払ってくれる。これは、自動車メーカーのモータースポーツ部門が従来の“お荷物"から利益を生み出す“優良部門"へと転換することを意味している。

 メルセデスによるAMG買収に見られる「第3の変革」は、これまで述べた「第1の変革」と「第2の変革」を組み合わせともいえる。「第1の変革」との違いは、それがキーテクノロジーではなく車名などに用いられるブランド(もしくはサブブランド)となることであり、「第2の変革」との違いは顧客に販売されるものがレーシングカーからスポーティな量産モデルに変わった点にある。同様の例としてはAMG以外にもBMWの“M"、ルノーの“ルノースポール"、ニッサンの“NISMO"などが挙げられる。また、これらのサブブランドを見てもわかるとおり、モータースポーツ活動は単にサブブランドのイメージ向上に役立つだけでなく、本体である自動車メーカーのスポーツ・イメージを引き立てるうえでも効果があるといえるだろう。

 こうして見ていくと、近年の自動車メーカーのモータースポーツ活動にはひとつのトレンドがあることに気づく。それは、モータースポーツ活動を着実に利益に結びつける構造が明確になっている、ということだ。流行の言葉で言えば“マネタイジング"である。自動車メーカーが利益を上げるには、商品である自動車を販売するか、レーシングカーなどを商品として販売するかのどちらかしか方法がない。前述した3つの改革は、いずれも商品を販売する、もしくは販売促進をするための手法といえる。いいかえれば、自動車メーカーにとってのモータースポーツ活動は、資金をジャブジャブと湯水のように使う従来の形態はもはや許されず、それ単体でも利益を生み出す構造が求められていると表現できる。

 いずれにしても、自動車メーカーのモータースポーツ活動がかつてのような夢やロマンだけでなく、ビジネスの一部として取り込まれつつあることは間違いないようだ。

[オートスポーツweb ]

最終更新:7月27日(水)22時38分

オートスポーツweb

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

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昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。