ここから本文です

財政再建を急がなくてもよい根拠となる、内閣府の財政試算

ZUU online 7月28日(木)11時40分配信

7月26日の経済財政諮問会議で、内閣府は中長期の経済財政に関する試算を提出した。2020年度の国と地方の基礎的財政収支は5.5兆円の赤字の推計となり、1月の試算の6.5兆円の赤字から縮小した。

この試算は、2020年度の黒字化の政府目標の達成は困難であり、財政再建を加速させなければいけないという論調の根拠となってきた。

■4年後の長期金利は名目GDPを下回る予想

2020年度の名目GDP成長率の前提は+3.6%から+3.9%へ、実質GDP成長率は+2.2%から+2.1%へ修正され、2019年10月の消費税率引き上げの影響を織り込んでいる。1月の試算では、名目長期金利が急騰し、名目GDP成長率を上回る推計となっていたことに批判があった。そのため、2020年度の長期金利は3.9%から3.4%へ下方修正され、名目GDP成長率を下回ることになった。

膨張する力である名目GDP成長率が、抑制する力である長期金利を上回るリフレの力が続くことがやっと織り込まれた。マーケットの感覚では、それでも長期金利の前提が高すぎると感じるところだ。成長率の前提が高すぎるという批判はあるが、財政収支の変化(改善度合い)をマクロ議論で決めるのは、この名目GDP成長率(経済・税収を膨らませる力)と長期金利(経済を抑制する力と財政コスト)のスプレッドである。

歳出と歳入の伸びを、会計的に計算するミクロ議論とは違う。成長率の前提を低くしたとしても、長期金利がより大きく低下すれば、財政収支改善のシナリオを維持することは可能だ。実際に、財政収支の改善幅とこのスプレッドには極めて強い相関関係(スプレッドの拡大と財政改善)が確認でき、緊縮財政ではなくリフレによる財政改善の根拠となっている。

■デフレ完全脱却には、企業のデレバレッジ完全終了が必要不可欠

中長期の経済財政に関する試算では、2020年度における一般政府の収支は、GDP対比-2.4%の赤字となっている。

日本経済の大きな問題は、マイナスであるべき企業貯蓄率が恒常的なプラスという、異常な状態が継続していることに起因する。企業のデレバレッジや弱いリスクテイク力、そしてリストラが、総需要を破壊する力となっていること、内需低迷とデフレの長期化の原因になっていることだ。

加えて、恒常的なプラスとなっている企業貯蓄率に対して、マイナス(赤字)である財政収支が相殺している程度なのだ。財政拡大が不十分で、企業貯蓄率と財政赤字の合計である国内のネットの資金需要(マイナスが強い、名目GDP比)が消滅してしまっていた。名目GDP成長率が持続的に3%超の拡大をしていることは、マネーが循環・拡大する力であるネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支、マイナスが強い)も最低限-3%となっているはずである。

-2.4%の財政収支を前提にすると企業貯蓄率は-0.6%と若干のマイナスとなり、企業のデレバレッジが完全に終わり、総需要を破壊する力が無くなり、デフレ完全脱却の姿となってくる。

■将来に残すのはツケではなく、実は貯蓄?

民間貯蓄率(企業貯蓄率+家計貯蓄率)の前提が、GDP対比+6.9%の前提になっているということは、家計貯蓄率の前提は+7.5%程度とみられる。

高齢化が進行し、家計の貯蓄率が低下し、国際経常赤字に陥り、財政ファイナンスが困難化するリスクがある。財政再建を急がなければいけないという状態には、まったく見えない。実際に、家計貯蓄率がかなりの高水準であるため、国際経常黒字はGDP対比+4.4%の巨額の黒字が維持される前提になっている。

今回の試算では、団塊世代が75歳程度となり医療費を含む社会保障費が、膨張するとされる2024年度まで推計が延ばされている。しかし、2024年度においても、民間貯蓄率はGDP対比+6.4%であり、国際経常黒字は+4.9%の巨額の黒字がまだ維持されている。より慎重なベースラインケースでも、民間貯蓄率は2020年度+6.9%・2024年度+6.9%、国際経常黒字は2020年度+3.9%・2024年度+3.3%と巨額であることに変化はない。

将来世代に借金のツケを回すなという情緒的な議論があるが、実際のところそのツケ以上に貯蓄を残せている状態にある。巨額な民間貯蓄と国際経常黒字の維持を考えると、本当に2020年度までに基礎的財政収支を黒字化する必要はあるのだろうか?

■財政議論に早急にマクロ経済学の柔軟性を

EU諸国のように、財政収支の赤字はGDP対比3%以内というより、現実的な目標でもまったく問題ないと考えられる。

日銀資金循環統計によると、2016年1-3月期で財政収支の赤字は既にGDP対比-3.5%まで縮小している。デフレ完全脱却への景気回復の動きを、止めてしまうリスクを犯してまで、財政再建を急ぐ必要があるようには思えない。家計や企業と同じように、政府の収支も黒字になって過去の借金残高を減らさなければいけないという、会計的な固定観念に縛られすぎているように思われる。

いまだに財政の議論の多くは、会計のミクロ経済学の方法論の数字合わせで硬直化し、マクロ経済学としての柔軟性が欠けているのは問題である。

マクロ経済学では、一般政府の負債は民間の資産となるため、景気が異常に過熱し抑制の必要があるとき以外は、政府の借金残高を減らす、即ち民間の資産を減らすという議論は存在しない。一般政府の負債残高は、名目GDP対比で安定化させるのが通例だ。

家計と企業を含んだ貯蓄投資バランスのマクロ経済学の視点では、内閣府の中長期の経済財政に関する試算は、長期に渡ってかなり高い民間貯蓄率が維持されるため、財政再建を急がなくてもいいという根拠になるように思われる。これだけの民間貯蓄があれば、2020年度で3.4%、2024年度で4.4%の長期金利の前提は高すぎるだろう。財政ファイナンスが困難となり、長期金利が暴騰するリスクはほとんど無いだろう。

■財政議論はマクロであるべき

実際に、財政赤字と国際経常収支赤字、そして利上げ局面とより条件の厳しい米国でも、長期金利は2%以下であり、3%以上である名目GDP成長率の半分程度である。

民間貯蓄が潤沢であれば、長期金利が抑制されるため、基礎的財政収支が赤字であっても、リフレ政策などにより一定の成長率を保てば、一般政府の負債残高の名目GDP比は低下していくことは可能である。マイナス金利政策のテクニカルな影響(国債時価の上昇による見かけ上の政府負債残高の上昇)を除けば、名目GDP成長率と長期金利のスプレッドの累積の動きの改善に合わせて、既に一般政府の負債残高の名目GDP比は低下を始めている。

民間貯蓄が潤沢である日本において、基礎的財政収支を早急に黒字化しなければいけない、という意味はほとんどない。内閣府の中長期の経済財政に関する試算に対するミクロとマクロは結論が逆であるが、財政議論はマクロであるべきだ。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

最終更新:7月28日(木)11時40分

ZUU online

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

暗闇で光るサメと驚くほど美しい海洋生物たち
波のほんの数メートル下で、海洋生物学者であり、ナショナルジオグラフィックのエクスプローラーかつ写真家のデビッド・グルーバーは、素晴らしいものを発見しました。海の薄暗い青い光の中で様々な色の蛍光を発する驚くべき新しい海洋生物たちです。彼と一緒に生体蛍光のサメ、タツノオトシゴ、ウミガメ、その他の海洋生物を探し求める旅に出て、この光る生物たちがどのように私たちの脳への新たな理解を明らかにしたのかを探りましょう。[new]