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東京五輪に襲いかかる「ドーピング丸投げ裁定」のツケ

ITmedia ビジネスオンライン 7月28日(木)7時10分配信

 複雑な思いを抱いた人が大半だったのではないか。国際オリンピック委員会(IOC)は24日、電話による緊急理事会を開き、国家主導のドーピング問題が発覚したロシアをリオデジャネイロ(リオ)五輪から全面除外せずに各競技を統括する国際連盟(国際競技団体)に判断を委ねることを決定。要は当初、強硬姿勢を貫くと見られていたIOCがドーピングまみれの疑念を完全に払拭し切れていないロシア選手団のリオ五輪出場参加を条件付きながらも認め、その最終判断を国際競技団体に押し付けた格好となったのである。

【どうなる? リオ五輪】

 世界反ドーピング機関(WADA)にとっては、まさに寝耳に水だ。WADAは調査チームが18日に公表した独自報告書でロシアがソチ冬季五輪などで組織的にドーピングを行っていた決定的な証拠をつかみ、IOCにロシア選手団のリオ五輪・全競技締め出しを検討するように強く勧告していた。

 さらに21日にはスポーツ仲裁裁判所(CAS)が、組織的ドーピングを行ったとして国際陸連(IAAF)に国際大会での資格停止処分を受けたロシアの陸上選手チームについて「ドーピングをしていない68人の選手は五輪出場を認めるべきだ」としてリオ五輪出場を認めるように同国五輪委員会から提訴されていたものの、その異議申し立てを棄却した。

 ロシアへの逆風が強まる中、反ドーピングをクリーンオリンピックの表徴としたいIOCとしても大国に断固たる処置を下すことで全世界へのアピールにつながると踏んでいたはずが、大方の予想に反して逃げの姿勢で責任回避してしまった。

 実際にIOC内部では「クリーンな選手にまで連帯責任を負わせていいのか」「世界の大国・ロシアを五輪から締め出せば、大きな政治問題に発展する可能性が高い」「ロシア全選手の五輪不参加を決めたら、バックに付くスポンサーや人権保護団体などから訴訟を起こされて新たに大掛かりな問題が引き起こるかもしれない」などといった懸念材料を指摘する声があったのも事実。しかしながら前記したクリーンオリンピックの路線を押し進め、大会オフィシャルスポンサーや五輪開催の招致に乗り出す都市の数をさらに増やそうとしていた動きのほうがIOC内部ではこれまで明らかに主流とみられていた。

 それだけにWADAはIOCの寝耳に水の判断を受けた後も「我々の調査によっても明らかになったロシアの国家主導によるドーピングは、スポーツの高潔性を脅かすことにつながる重大な違反行為」と再び強調。IOCから最終決断を押し付けられる格好となった国際競技団体のファイナルチェックをクリアし、ロシア代表選手の参加が実現したとしても次のリオはドーピングオリンピックとして目を向けられる危険性を暗に示唆した。

●国際水泳連盟が“勇気あるジャッジ”

 我々では判断できないから、各競技を管轄する方々でそれぞれきちんと決断を下してください――。そんな風にいわばIOCから丸投げされた国際競技団体も、いい迷惑であろう。リオ五輪の開幕は8月5日で、もう残り10日を切っている。ドーピングに関する新たな検査を行うなど容易なことではなく、国際競技団体による自主的なファイナルチェックは不可能に限りなく近い。そうなると手段は限られ、これまでに集まった情報を第三者機関などから入手するしか道はなくなってしまう。

 それでも数ある国際競技団体のうち国際水泳連盟(FINA)が先陣を切って“勇気あるジャッジ”を下した。25日、IOCの丸投げに屈せずロシアの水泳競技選手7人のリオ五輪出場禁止を発表したのである。過去の国際大会で採取したロシア選手の検体を再検査し、WADAとも連係しながら「これから臨時委員会による調査を進めていく」としてリオ五輪開幕が近づく中、最後の最後までロシアの全水泳競技選手への追求を諦めずに調査結果いかんでは追加処分も辞さない構えを強調した。

 だが、そこで大きな役割を果たせそうなWADAも「シロかクロかの判断が付けられないグレーゾーンの選手に関しては多数いるが、情報提供を求められても違反者として言い切れないから証拠にはならない。従ってグレーの域にある選手たちの情報提供は難しい」との姿勢を崩しておらず、その動かぬ証拠のない灰色選手に関しては各国際競技団体も頭を悩ませている。

 つまり現時点でもWADAから「怪しい」と見られているグレーゾーンのロシア代表選手は競技別に数多くいるわけで、それが黙認されたまま参加することになってしまうと、やはりリオ五輪にはどうしてもドーピングオリンピックとして多くの疑惑の目が注がれることは必至なのだ。

●五輪の商品価値が大きく下がるかも

 長い五輪の歴史を振り返ってみても、これほどドーピングショックに揺れ動いた大会はない。国家ぐるみのドーピング関与が発覚したロシアをこのまま玉虫色の処置で同国選手のリオ五輪参加を限定的に認めれば、そのしらけたムードは今後の大会にまで悪影響を及ぼす危険性も十分に出てくる。もちろん次回、2020年の東京五輪も対岸の火事ではない。日本オリンピック委員会(JOC)の関係者は次のように本音を打ち明け、眉をひそめる。

 「仮に今度のリオで出場が認められたロシアの選手たちが多くの競技で金メダルを手にすれば『ドーピングの力を借りて栄光をつかんだ』とうがった見方をする人も当然多数出てくる。つまり、いくら本当にクリーンであっても今回のリオについてはドーピング問題で揺れ動くロシアの選手が活躍すればするほど五輪のイメージは悪くなり、ひいては五輪の商品価値も大きく下がるのではないかと不安視する人も有識者の中にはいる。

 そうなると2020年の東京五輪もIOCや関連企業はスポンサーが集まりにくくなったり、契約料も大幅に値下げせざるを得なくなったりして広告集めに四苦八苦する最悪の流れになるかもしれない。いろいろな意味で経済にも影響が出るだろう。2020年の五輪景気をリオ五輪終了直後から長いスパンで見込んでいる日本政府としても、こうなったら間違いなく大きな痛手となる」

 IOCがロシアのリオ五輪参加を限定的に容認したことで、今回のドーピングスキャンダルからの出口は残念ながら先が見え辛くなってしまった。そして、もし「ドーピング」と「五輪」の切り離しが完ぺきにできず2020年を迎えれば、JOCや政府関係者、有識者らの誰もが成功を信じて疑わなかった東京五輪にダーティーなイメージが漂うことによって「失敗」の2文字もチラついてくる。

●IOCのドーピングスキャンダル

 奇しくも25日にはロシアの国家ぐるみのドーピング隠ぺいについて内部告発した陸上女子中距離のユリア・ステパノワ選手と、夫で同国反ドーピング機関の職員だったビタリー氏がリオ五輪出場を認めなかったIOCに異議を申し立てた。ステパノワはIAAFから内部告発したことを考慮されて中立選手として出場を当初認められていたが、最終的にはIOCから「過去に違反歴のある選手に変わりはない」として参加を認められず、代わりにゲストとして招かれる方針が決まっていた。

 そのIOCのゲスト招待を拒否する考えを明かしたステパノワは「内部告発者を罰しているようではドーピングと闘うことができない。今後もドーピングは続くだろう」とロイター通信などに怒りをぶちまけている。

 こうした側面も含めIOCのドーピングスキャンダルに対する線引きのミスは4年後の東京五輪開催を控える日本が大きな代償を支払わされるハメになってしまうかもしれない。

(臼北信行)

最終更新:7月28日(木)7時10分

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