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トルコのクーデターは“独裁者”の自作自演だったのか?

ITmedia ビジネスオンライン 7月28日(木)7時11分配信

 トルコでクーデター未遂事件が発生したのは7月15日のことだ。

 クーデターの試みはあっという間に鎮圧されたが、結果的に民間人など246人が犠牲になった。レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、クーデターに関与したとして軍や警察、司法関係者など5万8000人ほどを解雇または停職にした。

【「毒味係」が5人いる!】

 エルドアンは鎮圧後すぐに、テレビを通して政府の支持者に街頭に集まるよう呼びかけ、自分は「極悪人による政権転覆工作に勝利したヒーロー」であるかのような演出をしてみせた。そんな大統領が、実は世界的にすこぶる評判が悪い。近年、独裁色を強めているとして国内外から批判を浴びているのだ。

 今回のクーデター騒ぎの後、エルドアンは3カ月の非常事態宣言を発令した。これにより、政府は議会や裁判所を無効化し、メディアを制限することが可能になる。要するに、大統領はしばらくの間、クーデターに関与したという名目で好き放題にさらなる静粛を続けることが可能になるのである。今回の未遂事件直後に、クーデター未遂は「神からの恵みだ」と彼は語っているが、今後、自らの敵を排除することでさらに独裁的なリーダーとしての地位を固めることになるとみられる。

 エルドアンはそもそもどれほど独裁的なのか。エルドアンは2001年にイスラム系与党・公正発展党(AKP)の党首になり、2003年からは首相を3期務めた。そして2014年には、党の規則で首相は3期までしか務められないために大統領に就任。この時点で彼はすでに絶大な権力を握っていたが、もともとトルコでは大統領職は儀礼的な存在で権力はないため、自分に忠実なアフメト・ダウトールを首相に据え、意のままに動かした。2016年5月にダウトールはエルドアンとの意見の相違からクビになった。

 エルドアンは少し前から、憲法改正をして大統領の権力、つまり自分の力を強めようと画策している。また大統領制への移行も進めようとしており、今回の粛清で反体制派などがいなくなれば、その動きはさらに活発になるだろう。

●エルドアンのために「毒味係」が5人

 エルドアンは「独裁者」らしく、自宅である大統領官邸も多額の税金をかけて豪華絢爛な建物をつくっている。2014年に完成した新大統領官邸は米ホワイトハウスの30倍以上の広さを誇り、分かっているだけで1150室もある(メディアが1000室であると報じたら、エルドアン自ら1150室だ、と訂正した)。総工費は6億1500万ドルに達するという(実際には部屋数ももっと多く、費用ももっと高いと言われている)。

 またその隣に、大統領と家族が住む住居部分を工事中で、そちらは250室と4000人が入れるモスクがある。トルコは政教分離を標榜して世俗主義を国是としているにもかかわらず、だ。野党議員はあきれて、「あんな宮殿に住みたいのは独裁者だけだ。常識ある国家元首なら、もう少し控えめな住まいで生活するだろう」とメディアで酷評している。

 さらに官邸にはエルドアンのために「毒味係」が5人いる。彼らは1日14時間体制で官邸のラボに詰め、大統領の食事の安全性をチェックしているという。とはいえ、実際に食べてみて安全かどうかを確かめるのではなく、ラボの中で食料の安全性から、放射性物質や毒物、細菌などの有無までを検査機器などで調べている。またこの5人は、大統領の栄養管理も行っている。もちろん世界中の指導者が食事の安全性には注意を払っているが、彼の場合は常軌を逸している感がある。

 今回のクーデター未遂では、このエルドアンの独裁的統治の象徴ともいえる大統領官邸にも爆弾が落とされている。

 だが大統領が本当に独裁的であると言われるゆえんは、メディアなどに対する弾圧だ。例えば、2012年に大統領は記者や編集者ら94人を投獄して世界的に批判されているし、2015年には彼の汚職について書いたトルコ最大日刊紙ザマンの編集長が「クーデター」の容疑で逮捕され、新聞社そのものが当局に差し押さえられた。またその直後にも大統領に批評的だった別の老舗新聞社の編集長らが「スパイ」の容疑で逮捕されている。

 実は2014年にエルドアンが首相になってからこれまでに、彼を侮辱したとして2000件ほどの訴訟が起きている。2015年にはFacebookでエルドアンを批判するポストに「いいね」を押したジャーナリストが禁固刑になったケースもある。またその動きは国外にも広がっており、2016年にトルコ政府は、ドイツのテレビ局でエルドアンをバカにする詩を公表したドイツ人風刺作家を刑事訴追するようドイツ政府に要求したことで、世界的にニュースになった。今回のクーデターでも、クーデターに関与したとして42人のジャーナリストに逮捕状が出されたことで世界的に大きく報じられている。

 さらにエルドアンはSNSなどを毛嫌いしており、過去にはSNSを容赦なく遮断させてきた。2013年にSNSは「社会にとって最悪の脅威だ」と述べ、2014年に自らの汚職疑惑がツイートされたことで激怒し、「われわれには裁判所の令状がある。Twitterを根絶する。国際社会がなんと言おうが関係ない。みんながトルコ共和国の力を思い知るだろう」と発言して、実際にTwitterを遮断した。FacebookやYouTubeも過去に禁止されたことがある。

●エルドアンが「独裁者」になる日

 とにかく、自らの気に入らないものは排除する。それがエルドアンの流儀なのだ。

 そして今回のクーデター未遂。粛清された人々は、軍人から法曹関係者、ジャーナリストから教授などの学者まで多岐にわたる。彼らの多くは2013年からエルドアンと対立し始めたイスラム指導者フェトフッラー・ギュレンの「ギュレン派」と関連ある人たちだとされている。またエルドアンは、ギュレン派関連の学校やチャリティ団体の2250施設を封鎖した。

 ただクーデターからすぐ後に、クーデターに関与したとしてここまで広範囲の多数を解雇や停職にしたり、施設を閉鎖させるのは容易ではない。つまり、すでに誰を排除するのかはあらかじめ決まっていたのではないかという話も出ている。確かにクーデター後の粛清は、これまでのエルドアンによる独裁者的な動きの延長に過ぎない。

 そして一部メディアでは、ひょっとして今回のクーデター未遂事件は、大統領が自らの権力を強固なものにするための自作自演だったのではないか、という陰謀論まで出ているくらいだ。クーデター未遂からの非常事態宣言で、有無を言わさず政敵を片っ端から排除してしまおう、と。

 真偽のほどは分からないが、いずれにせよ、エルドアンが本当の意味での「独裁者」になる日はそう遠くないのかもしれない。

(山田敏弘)

最終更新:7月28日(木)7時11分

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