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欧ロ前線で高まる軍事緊張、米ロ軍の異常接近も

ニュースソクラ 7月28日(木)16時0分配信

NATO-ロシアの大使級会合は再開

 南シナ海では中国軍が演習を繰り返し、緊張が高まっているが、欧州ではNATO(北大西洋条約機構)とロシアの軍事対立が緊迫の度を高めている。世界は新たな対立構造への過渡期にあるのかもしれない。

 今月7-8日、ワルシャワでNATO首脳会議が開かれた。主要な関心はテロ組織ISIS(イスラム国)の攻撃、サイバー攻撃と並んでロシア発の脅威に向けられ、NATOはポーランドとバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の4カ国にそれぞれ1000人規模の大隊を来年から計4000人派遣することを決めた。

 規模はそれほど大きくないし、常駐を謳っていないが、ロシア軍が入り込んできたらこれら部隊で初期対応にあたり、のち援軍を送る。その意味で大隊はtripwire(トリップワイア=動物をねらった仕掛けのワナ)の機能を持つという。ロシアへの不信感の強さを如実に物語る。

 首脳会議はロシアを警戒する理由として、2014年3月のクリミア併合、ウクライナ東部への介入、NATO加盟国国境近くでの通告なしの大規模演習、米軍機や艦船への異常接近、NATO加盟国の防空識別圏への飛行などを挙げた。

 ロシア機の米軍機・艦船への異常接近は一面で日本あるいは南シナ海周辺での中国機の行動より深刻かもしれない。5月下旬にはロシアのSu-24戦闘機が黒海でUSS(米艦船)「ロス」に高度200フィート(約60メートル)で500メートルの近くまで異常接近して飛行した。同様の危険な行為は黒海でもバルト海でも何度か起きている。

 ロシア軍は今年3月、突如、45000人、車両3000台、洋上艦40隻、潜水艦15隻、航空機110機を動員し、北極圏から黒海に至る広大な地域を対象に大規模な演習を実施した。

 またセルゲイ・ショイグ国防相は5月にロシアの西部に2師団、南部に1師団の合計3師団を年末までに増強する計画を発表した。その兵員の規模は発表されなかったが、ロシアの新聞は3万人という数字を挙げている。

 NATO首脳会議の対ロ警戒感はこうした動きを受けている。だが、NATO側もロシアに負けず劣らぬ対応を示している。4000人の大隊派遣のほか、東欧での大規模演習に力を入れている。例えばアナコンダ2016と名付けた演習。6月に東欧では冷戦終了後最大の演習をポーランドを中心に10日間実施した。24カ国から31000人の兵士を動員した。

 またNATOは2014年のクリミア併合以来、Atlantic Resolve (大西洋の決意)という名の演習を断続的に東欧、黒海で展開している

 こうしたNATOの動きを受けて、ロシアでは人気のニュース・キャスター、ドミトリー・キセリョフがNATOは対ロ戦争を準備していると煽り、著名な外交評論家でクレムリンに近いセルゲイ・カラガーノフがNATO部隊の東欧配備について「挑発だ」と反発、NATOがロシアを侵略するようなことがあれば、「それは処罰される」と述べた。

 NATOは5月にルーマニアに弾道ミサイル防衛(BMD)基地を稼働させ、さらに2018年にはポーランドにも同様の基地を建設する。これもロシアを強くいらだたせている。双方の軍事関係はこじれるばかりだ。

 こうした状況であるから米ロ間の新たな核軍縮交渉など今は絵空事だ。バラク・オバマ米大統領は5月に広島を訪問、核兵器のない世界を実現するため努力する必要を強調したが、核軍縮交渉は事実上、全面的に停止している。言うは易く、行うは難しの典型例が今の核軍縮をめぐる状況だ。

 ではNATOとロシアが戦争に突入するのは必至かというと、それは言い過ぎだろう。ワルシャワでのNATO首脳会議が終わった後、今月13日にブリュッセルでNATO・ロシア理事会が開かれた。この理事会は2014年のクリミア併合の後、中断、今年4月に再開され、今回が再開2回目。首脳や外相級の会議ではなく、大使級の会合だが、双方に対話の道が閉ざされていないことを物語る。

 だが、いまのような鞘当てが続けば、冷たい関係は新冷戦へと発展するかもしれない。ただし、新冷戦が始まったとしても1991年までの冷戦とは特徴は異なる。資本主義対共産主義といったイデオロギー対立がないし、NATO対ワルシャワ条約機構という一大軍事同盟組織の対立もない。ロシアには一部の旧ソ連諸国と「集団安全保障条約(CSTO)」を結んでいるが、ソ連一国の言いなりになっていたワルシャワ条約機構のような軍事同盟ではない。規模も小さい。新冷戦を口にすることはやさしいが、こうした違いも認識すべきだろう。

■小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。
現在、国際教養大学客員教授。

最終更新:7月28日(木)16時0分

ニュースソクラ

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