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雨で電車が遅れ、バイトの時給が減った…会社や鉄道会社に請求することは可能?

弁護士ドットコム 7月28日(木)8時20分配信

雨が降った日に気になるのが、電車やバスなど、交通機関の乱れ。始業の時間までに職場にたどりつけず、イライラしてしまったことはありませんか。

イライラするだけでなく、アルバイトなどの時給制の仕事では、遅延が発生して、勤務時間が短くなってしまった場合、受け取る賃金が減る可能性もあります。

電車に乗れなかったことが原因で遅刻した場合、「自分のミスではないから本来の賃金を払ってほしい」と会社側に要求することはできるのでしょうか。また、払ってもらえない場合、鉄道会社に何らかの賠償を請求することは可能なのでしょうか。また、鉄道会社に過失があって遅延した場合はどうなるのでしょうか?吉成安友弁護士に聞きました。

 ●会社に遅延分の報酬を請求できない

電車の遅延という、自分の責任でない事情で遅刻をした場合でも、働いていない時間の分の時給は請求できません。これは、一般に常識として捉えられていることかもしれませんが、法律的に説明すると「双務契約」における「危険負担」という問題になります。

簡単に説明しますと、雇用契約は、労働者が労働を提供し、使用者(会社)がその対価として報酬を支払うという双方が義務を負う契約です。このような当事者双方が対価的な義務を負う契約を「双務契約」といいます。

そして、双務契約において、一方の義務がどちらにも責任ない事情で果たせなくなったとき、自分の権利(相手の義務)もなくなるかどうかの問題が「危険負担」の問題です。

これについて、民法536条1項は、「前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない」と規定しています。

簡単に言うと、どちらの責任でもない事情で義務が果たせなくなったときは、「一定の例外」を除き、債務者(今回の場合は労働者)は自分の権利もなくなるとしているのです。このように債務者が危険を負担することを、債務者主義といいます。

そして、雇用契約は、「一定の例外」には当たらないので、電車の遅延という自分にも会社にも責任のない事情で労働を提供できなくなった場合、会社に報酬を請求することもできなくなるわけです。

ちなみに、この「一定の例外」についても説明しておきましょう。これは、債権者主義と呼ばれるもので、特定物(不動産、美術品、中古品などで、当事者がその物の個性に着目して指定した物)についての売買契約の場合などです。たとえば、一点物の美術品の売買契約が成立した後引渡し前に第三者の放火により焼失してしまったような場合、売主は引渡しができなくなるわけですが、その代金を請求することができます(ただし、契約によって別の定めをすることはできます)

 ●鉄道会社への請求も認められない

次に、鉄道会社への請求ですが、これも認められません。天候不順などで鉄道会社に過失がない場合はもちろんですが、鉄道会社に過失がある場合でも同じです。

その理由は次の通りです。まず、電車に乗る際、乗客は鉄道会社との間で「旅客運送契約」という契約を締結します。その場合に、鉄道会社は、契約内容を「約款」というもので定めています。不特定多数の顧客との契約を定型的に処理するために、あらかじめ作成している契約条項のことです。

鉄道会社は、この約款で、遅延についての責任を限定しています。例えば、JR東日本は、「旅客営業規則」という約款の性質を有する規則を定めているのですが、その282条は、列車が運行時刻より遅延した場合には、駅到着時刻に2時間以上遅延するなど、282条で定められた事由に該当する場合に限って、旅客運賃と料金の払戻しや、有効期間の延長、無賃送還や他経路乗車船の取扱いを請求することができるものと規定しています。

これは、遅延が鉄道会社の責任によるものであるかどうかにかかわらず、乗客は、282条の規定に定められていない場合の請求や定められていない内容の請求をすることができない趣旨と考えられています。ですから、これに定められていない給与の賠償請求はできません。

 ●鉄道会社が一方的に定めた規定が有効なのか?

賃金の賠償請求ではないですが、度重なる電車の遅延で、「仕事の遅れ、知人との待ち合わせの遅れによる信用の失墜等、物心両面で多大の被害を受けた」として、乗客がJR東日本に慰謝料を請求した事件があります。

この事件で、乗客は、鉄道会社の責任を制限する規定が公序良俗に反し無効だと主張しました。しかし、東京地裁の平成18年9月29日の判決では、「鉄道事業者が列車の遅延について通常の債務不履行責任を負うものとすれば、損害賠償額は膨大な額となり得ることが予想され、大量の旅客を低価で運送することが事業上困難となる」などと指摘して、規定の有効性が認められています。

なお、この裁判で、乗客は、契約上の責任(債務不履行責任)ではなく不法行為責任を追及していますが、東京地裁は契約上、JR東日本が遅延による精神的損害について責任を負わないから、乗客には法律上保護される利益がないとして、請求を退けています。

【回答弁護士】
吉成 安友(よしなり やすとも)弁護士
東京弁護士会会員。企業法務全般から、医療過誤、知財、離婚、相続、刑事弁護、消費者問題、交通事故、行政訴訟、労働問題等幅広く取り扱う。特に交渉、訴訟案件を得意とする。
事務所名:MYパートナーズ法律事務所
事務所URL:http://www.myp-lo.com/

弁護士ドットコムニュース編集部

最終更新:7月28日(木)10時12分

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