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生き残りをかけて迷走する大学の“国際教育”のいま

ITmedia ビジネスオンライン 7月29日(金)7時10分配信

 定員割れの大学が4割を超え、いわゆるFランク大学(以下、Fラン大)の存続の危機もささやかれている。数年前、いくつかの学科で学生の8割を中国から受け容れることで、定員割れを免れていた――という岡山の吉備国際大学にまつわる報道に接した際は驚いた。

【外国人留学生数 推移】

 そうなったのも、要は大学が増えすぎたのがいけない。旧文部省時代には大学の新増設を抑制する方針を取っていたが、政府が地方分権の推進とともに規制緩和の方針を打ち出したことを受け、1991年に大学設置基準を大幅に大綱化。90年度には372校だった大学が現在では604校まで増えた。4年制大学への進学率は、91年度の25.5%が09年には50.2%と初めて5割を超えた。が、それ以降は横ばいだ。

 そもそも、駆け込みで大学となった学校の大半が元は短大や専門学校。地方再生を安易に大学教育に賭けた行政と、このままでは干上がるという危機感を抱えていた学校法人経営者の思惑が合致した結果、大学が増え、Fラン大が生まれていったわけだ。

 そして、少子化の影響で18歳人口も徐々に減り、92年の205万人が08年の段階で124万人となり、減少傾向は続いている。つまり、Fラン大は欠員補充に留学生を必要以上に受容することになったのだ。

 ところが、学費も通常の日本人学生より減免され、足りない分は国からの補助金でも賄っている。10年度には補助金の8割が必要な審査を経ずに交付されていた――と12年6月に会計検査院の指摘も受けた。こうした一連の事態を「留学ドーピング」と批判する声も挙がっている。

 文部科学省は09年7月29日に関係省庁も交え、「留学生30万人計画」の骨子を策定、同日の閣議後閣僚懇談会において発表もしているが、それが具体的にどう進行しているのかが、少なくともサイト上では全く見えない。

 ただ、日本に在籍する外国人留学生の数は着実に増えているのは、そこからも分かり、15年度は前年度より2万4224人増の20万8379人だった。3年連続の増加となり、その内訳は大学・大学院・短大・専門学校など高等教育機関の在籍者が15万2062人、日本語学校など日本語教育機関の在籍者が5万6317人となっている。

 15年3月13日付の日本経済新聞電子版に、「崖っぷち大学サバイバル 迫る『2018年問題』」(2018年から大学進学者数が減少に転じる問題)という記事が載った。「全国区の知名度を得るには、手段を選ばないという気持ちでやってきた」という、79年から山梨学院大学の経営トップを務めている古屋忠彦学長の切実なコメントが冒頭を飾り、私は私学全体が直面する問題として受け止めた。

 山梨学院大は77年創部の陸上競技部が初めてアフリカ人留学生に門戸を開き、90年代には箱根駅伝で3回優勝し、全国的な知名度を得た。実際、駅伝効果は抜群で、90年代前半は1万人近い受験生を集めていたという。が、14年度の一般入試志願者は700人台で、合格倍率は1.56倍まで落ちた。着実に中堅大学の位置にこぎ着けていたのが、少子化に付随する大学の二極化で、ボトム側に滑り落ちつつあるということだ。

 そこで起死回生の策として古屋学長ら理事会が打ち出したのが、15年度から発足の国際リベラルアーツ学部(iCLA)だ。

●「国際系」学部の実態

 各大学が「国際」や「リベラル・アーツ」と名のつく学部を開設し始めたのが90年代後半だったか。国際教養学部に関しては早稲田がスタートさせたのが04年で、上智がそれまでの比較文化学部を改組して06年、法政が08年と後を追った。リベラル・アーツは訳出しづらい言葉だが、原義は「人を自由にする学問」。欧米では専門職大学院に進学するための基礎教育としての性格を帯び、「一般教養」とも訳されてきた。

 しかし、果たして学生の実態はどうだろうか。本作りの仕事で知り合ったプロの通訳士、石川奈未さんが山梨学院大学のiCLA学部と関わりを持っていたので尋ねてみた。

 石川さんはさる5月、iCLAの新1年生約20人(日本人)を対象に自分のキャリアをテーマに講演を行った。ちなみにiCLAの1学年の定員は80人と、大変こじんまりした学部で、うち6割は海外からの留学生という。

 そして、石川さんは講演の後、学生たちとのディスカッションし、質疑応答に応じた。そこで逆に学生たちにiCLAへの志望動機などを聞き出すうち、不思議の感に打たれたという。

 「国際社会で活躍するために英語を学びたいというのは学生みんなに共通してます。でも、あまり具体的な目標が見えない。英語を生かせる企業に就職するとか商社に勤めるくらいで、かなり漠然としています。まだ1年生なので仕方ないのかもしれないけれど、欧米文化への関心が高いわけでもありません」(石川さん)

 石川さんはそこで、英語の先にあるものを見越すことも訴えた。それこそがリベラル・アーツの目指す地平だからだ。また、「多くのアントレプレナーやアーティストがそれぞれ目標とする人物を持っていた」とロールモデルの大切さも伝えた。が、まずこの言葉にキョトンとする学生に困惑したという。

 「例として挙げたシェリル・サンドバーグも、イーロン・マスクすら分からないんです。まさに時の人なのに……。女優のナタリー・ポートマンについて触れ、ようやく乗ってきた感じでした」

 確かにPayPalやテスラ・モーターズはそこまで日本では知られていないが、創設者が桁違いの大金持ちなのはよくニュース沙汰になっているだろう。学生はマーク・ザッカーバーグの名を出しても、まだポカンとしていたそうだ。彼らは現在のアメリカ経済の立役者であり、国際的常識として知っておくべきだ。大学生ともなればなおさらである。

 「教員スタッフはみんな懸命に取り組んでいます。やはり意欲を含め、さらに高いレベルの学生が募れれば、変わっていくんでしょう。が、だからこそ1~2年生には残す年月でガッツを見せてほしいですね」――と、iCLAの“前途多難”は認めながらも、石川さんは今後の飛躍に期待を込めた。

 学費も年間約300万円とかなり高い。のんびり構えていては、それこそ「宝の持ち腐れ」になってしまう。

●実体が伴っていない国際教育

 14年6月、文科省は大学の国際競争力を高めるために重点的に財政支援する「スーパーグローバル大学」事業を発足させ、104の応募校からトップ型13、グローバル化けん引型24の国公私立大、計37校を選んだ。23年度まで各大学に1校あたり最高約4億2000万円の補助金を毎年支給するという。

 各大学が現状どの程度“世界に開かれているか”はサイトの該当ページでつかめはしない。実際にキャンパスに足を運ぶのが一番だが、トップ校に選ばれたのは結局は旧帝大と早慶だけ。ここでも大学国際ランキングばかり意識する、文科省の狭量さが目立つ。

 08年度に小学5~6年生を対象に小学校の英語教育は始まったが、11年度には小5から必修となった。現在18~19歳の大学1年生はその対象内に入る。私もいくつかの小学校で実践は見てきたが、単純な英語遊びか、従来型の座学かに分かれ、欧米では当たり前のアクティブ・ラーニングの形態を取っていないことが気になってはいた。

 そのような状況で小3年からの必修化が20年度に完全実施される。移行期間を考えると、学校によっては18年度から段階的に実施されるはず。そこでまた英語教育の早期化に関する論議が沸騰するはずだ。

 が、ここまで読んでくださった賢明な読者なら分かるだろう。争点は英語を始める時期ではない。実体が伴っていない国際教育を推進するくらいなら、日本語をこれまでの倍の質と量で教えていくことの方がまだ重要だろう。昨今、「知識基盤社会」とも叫ばれるが、知識はいつの時代でも社会の分母であり、それはまず母国語で共有されねばならないのだ。

(鈴木隆祐)

最終更新:7月29日(金)7時10分

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