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費用は数十億円規模 創業8年のスタートアップが「人工衛星50基」を飛ばすわけ

ITmedia ニュース 7月29日(金)7時10分配信

 「2022年までに超小型の人工衛星50基を打ち上げる」。昨年、ある企業が発表したこんな計画が注目を集めた。発表したのは、2008年に東京大学で創業したアクセルスペース。従業員数20人ほどの日本のスタートアップだ。

【宇宙から見た地球】人工衛星が撮影した写真

 同社が打ち上げる衛星は、重さ100キロ以下、数十センチ立方程度の超小型なもの。そんな超小型衛星がどう役立つか、すぐにイメージできる人はそう多くないかもしれない。だが中村友哉CEOは「超小型衛星はいずれ『ないと困る存在』になる」と自信ありげに話す。

 まず17年に3機を打ち上げ、22年ごろには50基が地球を取り巻くよう周回させる予定だ。創業わずか8年のスタートアップが宇宙に飛び出す理由とは――。計画の裏側に込められた狙いと思いを聞いた。

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●民間初の商用小型衛星を打ち上げ

 アクセルスペースが注目を集めたのは13年11月のこと。民間企業としては世界初となる商用小型衛星の打ち上げに成功し、一躍話題を呼んだ。

 「もともと宇宙に興味はなかった」――中村CEOと人工衛星の出合いは大学在学時にさかのぼる。進学する学科を決める時に「他の誰かができない経験をしたい」と考え、人工衛星を開発している研究室に入った。「当時、学生がゼロから衛星を作るなんてありえなかった。宇宙というよりは、自分の手で何かを作ることにひかれた」(中村CEO)。

 中村CEOがそこで出合ったのは「CubeSat」(キューブサット)と呼ばれる10センチ角の超小型衛星だ。研究室に入ったばかりのころは「右も左も分からず、実験用に作った電子基板上のLEDがチカチカ点滅したくらいで喜んでいた」が、試行錯誤を繰り返し、03年に初めて打ち上げに成功。研究を続けるうちに「もう少し頑張れば実用的になるし、ビジネスに結び付けられるのでは」と考え、起業を決意したという。

 一般的に、気象衛星「ひまわり」などに代表される大型の人工衛星は、開発費が数百億円ほどかかるため、民間企業がなかなか手を出せるものではない。一方、コストの安い超小型衛星であれば一般企業からの需要もあるのでは――と、数億円程度で作れるオーダーメイドの衛星を受託開発しようとしたのが、同社の事業の出発点だ。

 しかし創業当時、超小型衛星は“教育向けの玩具”との見方が強く、「なかなか企業からの理解を得られなかった」という。興味を持ってくれそうな企業にひたすらアポを取り、1年間で数十社以上に売り込んだが、どの企業も反応はこうだった。「で、うちの会社は、どう使えばいいですか?」。

 「企業のニーズに応える衛星を作りたくても、そもそもその企業がどう使えばいいか分からないので、何もできない」――アクセルスペースが最初に直面した課題だった。そんな中、同社にとって転機が訪れる。気象情報サービスを手掛けるウェザーニューズとの出合いだ。

●“広大な範囲の衛星写真”にニーズを発見

 ウェザーニューズは、海運業者が最適な航路を見つけるために、天候や海流の情報を伝える事業を手掛けている。その中には北極海を通る業者もあり「海氷の分布状況を毎日知りたい」というニーズがあった。

 広大な北極海を見渡すには衛星写真が適しているが、衛星写真は1平方キロ当たり数万円と高価で、航路の画像を全てそろえようとすると莫大な費用がかかる。そこでウェザーニューズは、自社で衛星を持って好きなだけ写真を撮る――という方法に注目。アクセルスペースに依頼し、民間として初の商用小型衛星を打ち上げた。

 「これをモデルケースにすれば、“第2、第3のウェザーニューズ”が出てくる……そう思った」と中村CEOは振り返る。しかし、現実はそう甘くはなかったという。他の企業に売り込んでも、返ってくる答えは「あれは、ウェザーニューズさんだからね」というものばかり。「気象情報の会社なら人工衛星を買うかもしれないが、うちの会社ではいらないと言われてしまった」(中村CEO)。

 超小型衛星のメリットには、大型衛星と比べた時の“安さ”があるが、宇宙関連事業を手掛けていない企業からすると、数億円が安いかどうかの判断はニーズによる。打ち上げも100%成功するとは限らず、リスクを不安視する企業も少なくなかった。

 そこでアクセルスペースは昨年、大きな方向転換を決意。企業向けに人工衛星を受託開発するビジネスに加え、アクセルスペースが自社で人工衛星の開発から打ち上げ、運用までを行い、衛星が撮影したデータを企業向けに販売する新構想「AxelGlobe」を打ち出した。まず2017年に3機を打ち上げ、22年ごろには50基が地球を取り巻くよう周回させる予定だ。

●森林の違法伐採、パイプラインの監視――衛星50基が可能にする“新ビジネス”

 超小型衛星50基で地球の画像を撮影すると、どんなビジネスが生まれるのか。最大のポイントは「1日1回、世界中のいたるところを撮影し、画像がたまっていくこと」(中村CEO)という。

 過去と最新の画像をアルゴリズムによって比較すれば、小さな変化を見つけ出せる。例えば、森林地帯を毎日撮影しておけば、違法な伐採があった際に見つけられるし、数千キロにおよぶパイプラインなど巨大なインフラを監視することもできる。その差分データを企業に提供するビジネスが成り立つのでは――という考えだ。

 「世界中で何者かが勝手に森林を伐採したり、原油を盗み出したりするトラブルがたびたび起きているが、数千キロの範囲を24時間、自動車を走らせて見回るわけにはいかない。衛星で常時監視しておけば、不審な場所を発見したときにそこだけ見に行けば済む」(中村CEO)。

 衛星の役割は監視だけではない。ショッピングセンターの出店先を決める時など、エリアマーケティングでの活用も見込む。衛星の画像から交通量を調べれば、現地に人間を送って調査しなくても、最適な立地を見つけ出せる可能性があるという。

●「高い解像度はいらない」

 こうした用途のためには高解像度のカメラが必要かと思いきや、アクセルスペースが飛ばす人工衛星のカメラの地上分解能(解像度)は約2.5メートルと、クルマ1台をなんとか見分けられる程度だ。中村CEOは「軍事目的ならともかく、民間ビジネス用の衛星なら高い解像度はナンセンスだ」と話す。

 「高い解像度が必要」という考えは、人間が画像を直接見て解析する発想によるものだという。アクセルスペースでは、画像の解像度が高くなくても、人工知能(AI)によって解析して抽出したデータを人間が見ればいい――と考えている。

 分解能を下げるとともに、1回の撮影範囲を広くしているのもポイントだ。衛星の高度を下げたり、ズームしたりして細かく撮影しようとすれば、画像の鮮明さは上がるが、撮影範囲は狭まってしまう。鮮明さと引き換えに撮影範囲を広くすれば、50基の衛星で地球上のほとんどを撮影できるという。「きれいな写真を求めるなら、宇宙に行かなくてもドローンを飛ばせばいい。解像度よりもカバレッジを優先することで、衛星ビジネスが成り立つ」(中村CEO)。

●「超小型衛星をインフラにしたい」――これからは「勝負の5年間」

 中村CEOは、これからを「勝負の5年間」と話す。17年に3基を打ち上げた後は加速度的にペースを上げ、22年までに50基を周回させる必要がある。そこで問題になるのが、打ち上げに必要な「超小型衛星専用のロケット」だ。

 同社はこれまで、小型の衛星を打ち上げる際、大型衛星を打ち上げるためのロケットに“相乗り”してきた。そのためメインの衛星の行き先に合わせる必要があり、思うように目的の周回軌道に乗らない課題があったという。今後打ち上げ数を増やしていく中で、行き先を選べるようにするには専用ロケットが不可欠だ。

 「AxelGlobe構想は、インフラビジネスに近い」と中村CEOは話す。競合他社よりも先に小型衛星の体制を整え、利用企業が増え始めれば、後追いのサービスができても乗り換えのコストが高いため移ろうとはしないだろう――という狙いがある。

 「超小型衛星をインフラにしたい。人々の知らないうちに、宇宙から送られてくる情報が生活に欠かせない存在になれば」(中村CEO)

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最終更新:7月29日(金)7時10分

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