ここから本文です

物価と雇用の動きはまだ政策対応が必要なことを示す

ZUU online 7/29(金) 11:30配信

6月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比-0.5%(5月同-0.4%、コンセンサス-0.4%程度)と、4ヶ月連続のマイナスとなった。6月のコアコア消費者物価指数(除く食料・エネルギー)は+0.4%(5月同+0.6%)と、昨年11月の同+0.9%からの減速が明確になっている。

■2%の物価上昇の目標への日銀の本気度が試される局面

2014年の消費税率引き上げ後の需要の停滞、そしてグローバルな景気・マーケットの不安定感による株価低迷などで消費者心理は悪化している。消費活動の弱さが物価の上昇を抑制していることも明らかになっている。円高も進行し、企業の値下げのニュースも聞こえ始め、デフレ期待の再燃も危ぶまれている。これまでの原油価格の下落により、コアがコアコアに先行して弱くなってきたが、今後はコアコアの上昇幅の縮小も加速し、需要の弱さからの物価停滞の影響がより明確になってくるとみられる。

全国のコア消費者物価指数の前年同月比は、年末までにプラスに戻ることができない可能性が高まってきた。来年初めから上昇に転じていくとしても、日銀が目指している「2017年度中」の2%の物価目標の達成は困難である。日銀が重視する短観の企業のインフレ期待も4四半期連続で低下し(1年後が+0.7%、5年後が+1.1%)、政府・日銀の目標である2%へは上昇せず、1%でインフレ期待がアンカーしてしまってきているように見える。2%の安定的な物価上昇を目指す、現行の量的質的金融緩和は、まずインフレ期待を2%へ上昇させ、そこでアンカーし、実際の物価が2%へ上昇した後も、安定的にその水準で推移するようにすることが目的である。

黒田総裁は、「経済・物価のリスク要因を点検し、「物価安定の目標」の実現のために必要な場合には、「量」・「質」・「金利」の3つの次元で、追加的な金融緩和措置を講じる」と繰り返し述べてきた。マーケットは既に7月の追加金融緩和を織り込み、円安・株価上昇で反応している。日銀の2%の物価上昇の目標へのコミットメントが試される局面にきている。7月の東京都区部のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比-0.4%(6月同-0.5%、コンセンサス-0.4%程度)と、5ヶ月連続の下落をとなった。原油価格の持ち直しの影響が出始めているとみられるが、それを打ち消す需要の弱さに起因する下落圧力が、足元の物価の弱さにつながっているとみられる。

■経済対策・金融緩和と企業のリストラ再発、どちらが先か

6月の失業率は3.1%と、3ヶ月連続の3.2%から更に低下し、今回の低下局面での最低水準を更新した。強い人手不足を感じている企業の採用活動により、労働力人口が増加したが、しっかり雇用の増加で吸収できている良好な結果である。4月の新年度入り後も有効求人倍率は上昇を続け(3月1.30倍、4月1.34倍、5月1.36倍、6月も1.37倍)、企業の採用意欲はまだ衰えていないようだ。

失業率は賃金上昇が始まる平均的な水準である3.5%を明確に下回り始めている。賃金上昇が1%程度の物価トレンドに結びつく形は既に完成していると考える。しかし、政府・日銀が目指す2%の物価上昇が安定的になるためには、失業率が3%を下回り、2.5%を目指す展開になっていかなければならないだろう。物価の安定を1%程度とみれば自然失業率は3.5%前後、2%程度まで加速を許せば自然失業率は2.5%前後になると考えられる。そこまでにはまだ時間がかかり、更に経済環境が改善していく必要があるが、先行きのリスクも出てきている。

2016年に入り、グローバルな景気・マーケットの不安定感が増し、企業の業況感には悪化がみられ、企業活動には一部に鈍さもみられる。これまでの企業の積極的な雇用拡大に見合う、需要と収益がついてこなければ、これからの労働市場の持続的な改善は見込めないばかりか、一転してリストラが再発するリスクも出てくることになる。グローバルな景気・マーケットの不透明感の解消と、大規模な財政による経済対策、そして日銀の追加金融緩和の効果が、企業のリストラが再発するまでに見られるか、時間との戦いになってきている。

3.5%を単純な自然失業率として、財政による経済対策が必要ないという考え方は、2%の物価目標とデフレ完全脱却を目指す考え方と相容れない。政府・日銀のしっかりとした政策対応がなされ、アベノミクスが再稼動したという認識が企業にも浸透し、2017年には失業率は3.0%を下回り、総賃金の強い拡大がデフレ完全脱却への動きを再加速させていくと考える。物価と雇用の動きは、デフレ完全脱却と2%の物価目標達成のため、まだ政府・日銀によるしっかりとした政策対応の継続が必要なことを示している。

■政府・日銀も危機感……世界各国課題は多く

6月の鉱工業生産指数は前月比+1.9%とコンセンサス(+0.5%程度)を上回る結果となった。5月は同-2.3%と、ゴールデンウィークの日並びがよく、工場が長期休暇で操業停止になったところが多かったとみられ、かなり弱い結果であった。6月はその反動で上振れたとみられる。しかし、英国のEU離脱問題を含めグローバルな景気・マーケットの不透明感が強く、生産者は生産計画を下方修正。1-3月期の前期比-1.0%から持ち直しが期待された4-6月期の生産は同0.0%の横ばいにとどまった。

日本経済は、消費・輸出・生産ともに、底割れは回避した後、横ばいの動きになってきた。横ばい圏内から浮上する見通しが立たない中、円高も進行してしまい、生産者の動きは鈍くなっている。しかし、7・8月の経済産業省予測指数は前月比+2.4%・+2.8%と堅調であり、グローバルな景気・マーケットの安定化し、政策対応などにより円高の懸念が和らげば、浮上する可能性も見えてきている。

経済産業省の生産の判断も「一進一退」から「一進一退だが、一部に持ち直し」へ若干だが上方修正されている。もしこのままグローバルな景気・マーケットの不安定感が続き、円高と在庫の増加に対する生産者の警戒感から、生産が「一進一退」の横ばい圏内から上に抜け出せなければ、成長率のトレンドがゼロ近傍となってしまう。2016年に潜在成長率(+0.5%程度)なみの実質GDP成長率(予想も+0.5%)を維持し、2017年にはそれを上回る水準(予想は+1.2%)に加速することは、アベノミクス成功のための必要条件であると考えられるが、リスクは残ってしまっている。

政府・日銀の危機感はかなり大きくなっており、財政による経済対策は大きなものになり、日銀も追加金融緩和に踏み切る可能性が高まっている。裏を返せば、政策・日銀の対応が小規模なものとなれば、マーケットの大きな失望となろうし、企業の在庫・雇用の抑制につながり景気失速のリスクも大きくなろう。年後半には経済対策の効果と、海外経済の持ち直しによる輸出の回復により、生産の基調は緩やかな持ち直しへ改善していくとみられる。グローバルな景気・マーケットの不安定感を各国の政策対応で乗り越え、先進国の堅調の成長がなんとか持続している間に、その好影響が波及して新興国が減速した状態から脱していくのかどうかが輸出と生産の持ち直しの鍵である。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

最終更新:7/29(金) 11:30

ZUU online

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。