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IT系の名刺にみる日本の不思議

ITmedia エンタープライズ 7月29日(金)8時16分配信

 ビジネスマンの証である名刺―――。前回は、5対5の打ち合わせで25回の交換と50枚の名刺が飛び交う日本の状況や、持ち方・渡し方からしまい方まで“ビジネスマナー”とされている名刺交換について触れました。

【画像:欧米人に理解しやすい名刺】

 今回は、そこまで丁重に扱われている名刺の“中身”を見てみましょう。読者の皆さんは、名刺を受け取ると、まずどこに着目しますか? 多くの人は「肩書き」でしょう。

●「次長、課長」問題は名刺の裏面を見た方が早い?

 名刺の肩書きは、欧米との違いにまではいかないにしても、日本だけでもたくさんの謎があります。「次長・課長」もそうですし、公共や自治体などで使われている「主幹・主査・主任・主事」、他に「参事・参与」なんかもあります。でも、室長は課長より上の立場でしょうか? それとも下でしょうか?

 もちろん、この辺りはセールスマンの得意技です。相手から受け取った名刺をさっと並び替え、「○○様・△△様・××様、本日は貴重なお時間をいただきまして~」と、お礼メールを書き始めます。

 実はこれ、裏ワザです。名刺の「裏面」にヒントがあります。

 読者の皆さんのところに出入りするIT系の会社は、他業種以上に名刺の裏面で英訳を記載していることが多いでしょう。“偉さ”にまつわる日本語の多彩な表現も、英語ではそれほど多くはありませんし、上下関係も明確です。「Director → General Manager → Manager → Assistant Manager」と覚えておけば、まず大丈夫。

 「上級」を意味するGeneralをSeniorに置き換えたり、「副」を意味するAssistantをDeputyやViceに置き換えられたりもしますが、1つの会社でこれらの同義語が並んで使われることはまずありません。安心して大丈夫です。

 ちなみに、Viceについては「Vice President」(VP)に注意するようにしてください。Presidentとあるので日本人の感覚では「副社長」と思いがちですが、欧米(特に米国)のVPは役員の1つか2つ手前のマネージャー職です。日本でいえば、部長・本部長に相当します。

 他に似たようなケースを挙げると「Account Manager」「Account Executive」は管理職でも重役でもありません。これらは(顧客担当)営業のことを指します。Project Managerが管理者であって管理職でないのと同じようなものでしょう。

●文字数多く内容薄い日本の名刺

 さて、今回の“ココヘン”にいきましょう。

 前回、私は欧米人と一緒に先進的な日本のエンドユーザーを訪問することがあると書きましたが、ある日の帰り、タクシーで名刺を見返しながら同行者にこう言われました。

「○○さんのフィードバックは参考になった。で、彼は普段何をしているんだい?」

 そう、その人が普段何をしているのか名刺から読みとれないのです。欧米で「タイトル」と言われる担当業務を明記する名刺の肩書き欄には「職位」だけしか書かれておらず、その人の“偉さ”は読み取れたとしても、どんな立場で何を担当しているかは分からずじまいです。

 日本人の名刺には無くて、欧米人の名刺にあるもの―――。ここに2つのポイントがあります。

何の専門職か分からない肩書き

 例えば、「エキスパート」「スペシャリスト」と、一言だけ書かれている肩書き。等級が上がると「マネージャーコース」と「プロフェッショナルコース」に分かれる人事制度において、後者を選択した場合に置かれている職位のことです。

 このような途中から分かれる人事制度は欧米にもありますが、日本の職位は社内の人事上の職位であって、「肩書き」として名刺に書かれても社外の人間には伝わりません。

 私は日本のIT業界にいますので、「エキスパート」「スペシャリスト」が周囲から尊敬されるべき職位、若手にとっては目指すべき職位であると重々承知していますが、日本のビジネス風習に慣れていない欧米人に理解してもらうのは困難でしょう。「彼は何のエキスパートなの??」という疑問が浮かんでしまうようです。

 これに対し、欧米のエンジニア職の肩書きはとてもシンプルです。以前に説明したような職種に応じて「システムズエンジニア」「コンサルタント」「ソリューションアーキテクト」などの肩書きがあり、等級が高い場合は「シニア~」「リード~」「プリンシパル~」などの冠が付くだけ。

 例外として、新入社員など経験が浅い場合は“見習い”の意味を持つ「アソシエイト~」が付くケースや、特定の分野に秀でている場合は“その道のプロ”という意味を込めて「○○スペシャリスト」と名乗ることもあります。

何を担当しているのか分からない部署名

 「Assistant Manager」のように、欧米でも肩書きだけでは何を担当している人か分からないことがあります。しかし、その場合は「部署名」が助けてくれるわけですが、日本の名刺は部署名もあまりフレンドリーではないようです。

 例えば、「営業一部 営業一課」(Section #1, Sales Division 1)。このような数字の部署名では、結局どこが担当なのか、その会社の内部の人間でなければ分かりません。広く知られる数字の部署は「警視庁捜査一課」くらいでしょうか(笑)

 もし、これが「営業一部 金融ソリューション課」であれば、銀行・証券業界の担当営業だと分かるでしょう。つまり、欧米人は次のように思っています。

どうして社内の人間にしか伝わらないのに、名刺にそんな細かい数字の部署名まで書くのだろう……。日本は社内でも名刺交換する文化なのだろうか……。

 実際のところ、欧米人の名刺はシンプルです。大企業で本部・部・課のように組織が階層化していても、名刺には部署名と肩書きを合わせて「Assistant Manager, Financial Services Sales」とだけしか書かないケースが一般的。日本の大企業のように、部署名だけで3~4行もずらずらとつづるようなことはしません。

 前回、欧米人は名刺を大事にしないと紹介しましたが、

・担当業務など必要な情報は明記する
・数字の部署名など相手にとって不必要な内容は載せない

 など、意外にも常に受け手のことを考えて名刺が作られています。もちろん、日本の名刺文化は確立されたものですし、日本でビジネスをしている外資系企業も「郷に入れば郷に従え」と日本風の名刺を作るケースも多々見られます。

 ただ、良く考えてみると一体“誰のため”の名刺なのか。改めて考えさせられますね……。

●小川大地(おがわ・だいち)

日本ヒューレット・パッカード株式会社 仮想化・統合基盤テクノロジーエバンジェリスト。SANストレージの製品開発部門にてBCP/DRやデータベースバックアップに関するエンジニアリングを経験後、2006年より日本HPに入社。x86サーバー製品のプリセールス部門に所属し、WindowsやVMwareといったOS、仮想化レイヤーのソリューションアーキテクトを担当。2015年現在は、ハードウェアとソフトウェアの両方の知見を生かし、お客様の仮想化基盤やインフラ統合の導入プロジェクトをシステムデザインの視点から支援している。Microsoft MVPを5年連続、VMware vExpertを4年連続で個人受賞。

カバーエリアは、x86サーバー、仮想化基盤、インフラ統合(コンバージドインフラストラクチャ)、データセンターインフラ設計、サイジング、災害対策、Windows基盤、デスクトップ仮想化、シンクライアントソリューション。

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最終更新:7月29日(金)8時16分

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