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停止中の「柏崎刈羽原発」では何が行われているのか

スマートジャパン 7月29日(金)9時59分配信

 新潟県柏崎市と刈羽村にまたがる東京電力ホールディングス(以下、東京電力)の「柏崎刈羽原子力発電所」(以下、柏崎刈羽原発)。約420万平方メートルの敷地に合計7基の原子炉を備え、その総出力は821万2000kW(キロワット)と1カ所の原子力発電所としては世界最大規模の発電量を持つ。

 現在、7基の原子炉は全て稼働を停止している。原子力規制委員会による安全審査が続いているところだが、引き続き再稼働の見通しは立っていない。2011年の福島第一原発での事故を経て、柏崎刈羽原発の現場ではどういった安全対策の取り組みを進めてきたのか。東京電力は2016年6月にその一部を公開した。

きっかけは新潟県中越沖地震

 柏崎刈羽原発が従来とは異なる安全対策への取り組みを行うきっかけとなったのが、2007年に発生した新潟県中越沖地震である。この震災で火災などが発生し、柏崎刈羽原発の原子炉は一時全基が停止。原発の防災性能や耐震性、非常時の対応手順など、さまざまな点が見直されるきっかけとなった。こうした反省を踏まえて2010年に建設されたのが「免震重要棟」である。この免震重要棟は同時期に福島第一原発にも建設されており、2011年の事故対応時にも現場指揮の拠点として大きな役割を果たした。

 免震重要棟は基礎と建物の間に積層ゴムが入っており、これにより地震の揺れを軽減する。震度7クラスの揺れを3分の1~4分の1程度に軽減する免震性能を持つという。建物の周囲を囲むコンクリート壁や入り口や窓には鉛板の入ったカーテンを設置するなど、建物内の汚染拡大の防止や人員の被ばく防止対策が施されている。

非常時の拠点となる緊急対策室

 免震重要棟の中核となるのが緊急対策室である。非常時にはここが指揮拠点として、あらゆる情報の共有と判断を実行する場として機能する。部屋の中央に掛けられた大型のモニターでは、炉心部分の状況や放射線量など、1~7号機のプラント情報や、発電所内のさまざまな情報を確認できるようになっている。無線設備や衛星携帯電話など、非常時に政府や外部自治体と通信を行うための設備も複数備えている。

 東京電力は2016年に入り、緊急対策室の中に新たに本部室を設置した。周囲から仕切られたガラス張りの部屋で、非常時にはここに各プラント担当者などの責任者が集まって情報共有や対策を検討する。これまで柏崎刈羽原発の指揮系統は発電所長をトップとし、その下にさまざまな役割を担うチームを集約する形式になっていた。これを福島第一原発での事故を受け、本部室の設置とともに迅速な意思決定が行えるよう権限の配置や、体制の見直しを行ったという。

独自の情報共有ツールを開発

 柏崎刈羽原発では、非常時に円滑に情報を共有するためのツールも独自に開発している。1つが緊急対応時の担当者の発話をテキストでリアルタイムに共有/保存できるチャットシステムだ。福島第一原発の事故が起きた際、現場は本社や政府からの問い合わせ対応に追われ、実作業に遅れが生じた。この反省を生かしたシステムだという。会話は柏崎刈羽原発の関係者だけでなく、本社や政府などの外部関係者も閲覧できるようになっている。こうして外部にも情報をリアルタイム共有できるようにして、不必要なやり取りを減らそうという狙いだ。重要情報を電子記録として保存する役割も担う。

 柏崎刈羽原発の主要設備のデータは本社や政府にもリアルタイムに送信されている仕組みになっている。しかし、万が一情報の送信手段が絶たれた場合でも、重要な情報項目を手動で入力して共有できるシステムも整備している。

 この他にもタブレット端末を使った手書き入力システムなど、複数のツールを独自に開発している。非常時を想定した訓練などの中でこれらの各ツールを利用し、最適な運用方法や機能の見直しなどを現在進行形で進めているという。

そびえたつ防潮壁

 福島第一原発の事故の主因となったのは津波である。地震の影響で発生した津波によって、非常用の発電機などが機能しなくなり、核燃料から発生する熱を冷やすことができないという事態につながった。これを受け柏崎刈羽原発では、2013年に防潮壁を建設している。

 防潮壁の頂部は、海抜15メートルの高さに位置する。厚さは最大で3メートルで、20~50メートルの長さを持つ3本の基礎杭で固定している。静水圧の3倍まで機能を維持できる設計だという。さらにこの防潮壁を乗り越えた場合も想定し、タービン建屋や原子炉建屋には水密扉や防潮板を設置して浸水を防ぐ構造になっている。

電源・冷却を多様化

 仮に浸水を防いでも、福島第一原発の事故のように全電源を失った状態になれば、燃料を冷却することができない。そこで柏崎刈羽原発では、非常用電源や注水・冷却手段の多様化を進めている。プラント本来の非常用電源が使えなくなった場合を想定して緊急用高圧配電盤を設置し、空冷式ガスタービン発電機車や電源車を配備した。

 注水・冷却手段としては40台以上の消防車を配備。さらに敷地内には注水に利用する水を確保するための2トンの貯水池を整備。これは高台に位置しており、電源なしで注水作業を行えるようにしている。

現在も6000人以上が勤務

 柏崎刈羽原発では、原子炉全基が停止しているものの、関連企業を含めて6000人以上の従業員が勤務を続けている。原子炉に最も近い場所にある中央制御室では、現在も18人一組が24時間の交代制で勤務している。福島第一原発での事故以前は10人一組の体制だったが、増強を図った。原子炉全基が停止していても、維持管理と安全対策のために多くの人的コストが費やされている。

 ここまで紹介してきたように、柏崎刈羽原発では「深層防護」と呼ぶ幾重もの「もし」を想定した安全対策がとられている。「前段の対策は失敗する」という前提で、常に後段での対策を用意していくという考え方だ。

 柏崎刈羽原発の副所長を務める林勝彦氏は「従来はこれまでに起きたことを踏まえた安全対策だった。しかし福島第一原発での事故を経て、現在では『どんなことが起こるかわからない』ということを前提に安全対策を進めている。そしてもちろん現在の対策が最終形だとは考えておらず、今後も強化を続けていく」と述べる。

 一方で、多重の安全対策を施しても、福島第一原発の事故で、原子力発電事業の不確実性が露呈したのも事実だ。主力発電所である柏崎刈羽の再稼働は東京電力にとっては大きな収益となるが、現時点で地元新潟県の同意を得られる見込みは小さい。安全審査を終えても困難な道が待っているのは確かだろう。

最終更新:7月29日(金)9時59分

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