ここから本文です

郵便局で「IIJmio」を販売する狙いは?――200万契約を目指し、IIJは次のフェーズへ

ITmedia Mobile 7月29日(金)17時22分配信

 IIJは、MVNO業界をリードする1社だ。6月に調査会社のMM総研が発表したデータによると、格安SIMサービスのシェアは第2位で17.2%。個人向けサービスに限れば、シェア1位となる。

【郵便局での格安SIM 販売の仕組み】

 技術に強い会社のカラーを生かしユーザーからの信頼が厚いだけでなく、ビックカメラでの販売など、販路も着実に広げているのが同社の強みだ。7月5日には、郵便局での取り扱いも発表。東海地方で、SIMカードとSIMロックフリー端末のカタログ販売を8月1日から行う。

 料金プランについても、見直しをかけてきた。もともと月5GBだった「ライトスタートプラン」の容量を、7月1日から6GBに増量。合わせて7月7日からは、「ミニマムスタートプラン」やライトスタートプランでも、追加のSIMカードを発行できるよう、仕組みを改めた。

 コンシューマー向けの事業を着実に強化する一方で、IIJは、戦略としてMVNOの支援事業であるMVNEへの注力も掲げている。最近では、U-NEXTの「U-mobile」がIIJの回線を利用したサービスを開始、フリービットからのくら替えとして話題を集めたことも記憶に新しい。

 こうしたIIJの最新動向やその背景を、同社でMVNO事業を担当するネットワーク本部技術企画室 担当課長の佐々木太志氏と、広報部 技術広報担当課長の堂前清隆氏、MVNO事業部 MVNO技術開発部 企画推進課の政田一郎氏が語った。

●データ容量をシェアする需要は高まっている

――(聞き手:石野純也) 最初に、ライトスタートプランの容量を6GBに増やした背景を教えてください。もはや「ライト」ではないような気がしますが(笑)。

佐々木氏 これは整合性の問題です。これまで使えなかったシェアを入れましたが、ライトスタートプラン(月1520円+400円で5GBをシェア)より、ミニマムスタートプランを2契約(月900円×2で3GBずつ使う)した方が、あまりに安くなってしまうので……。これは、本当にテクニカルな料金プラン構築のお話です。それでもまだ、料金だけで見ると、ミニマムスタートプランを2契約した方が安いのですが(笑)。ただ、シェアできるということで、ライトスタートプランを2回線でシェアしていただいた方が、使い勝手はよくなります。

 今回の肝となるのもここで、もともとミニマムスタートプランとライトスタートプランでは、追加のSIMを選ぶことができませんでした。そこに、シェアが可能な2枚目のSIMを追加で導入できるようにした。これが、プラン改定の一番大きなポイントになります。

―― 実際、シェアの需要は高まっているのでしょうか。

佐々木氏 その需要はすごくありましたね。ユーザーの方が、デイバスを複数持つようになったのはあると思います。タブレットはWi-Fiでテザリングを使うという傾向は見られましたが、ここ最近ですと、いろいろなタブレットでSIMカードが使えるようになってきています。いちいちテザリングするより、SIMを挿した方が煩わしくない。使い方も変わってきているのでしょう。

 そこから先には、まだいろいろな使い方もあります。まだまだウェアラブルでSIMが挿せるものはブレークしていませんが、そういったものもあります。場合によって夫婦のような、小さい家族で使うこともあるでしょう。「ファミリーシェアプラン」も多くの方にいいと思ってはいますが、お子さんがいないような家庭では、1枚ずつというようなこともあると思います。

―― 反響はいかがでしたか。

佐々木氏 ミニマムスタートプランとライトスタートプランは多くの方にご利用いただいていますが、その方たちがファミリーシェアプランに行くと金額が上がってしまう。2枚目を契約できるなら、ぜひしたいというお声をいただいています。

●MVNEとしてカスタマーの特色に合わせたものを作る

―― 現状、個人向けはシェア1位ですが、今後はどのようにこの事業を伸ばしていくのでしょうか。MVNEに力を入れるという発表もしていますが。

佐々木氏 われわれは、もともとがB2Bに強い会社です。B2Cのビジネスとして、IIJmioをご契約いただいていますが、われわれのブランドだけで個人向けビジネスで十分な成長を期待できるのか。そういった狭い考え方をせず、B2Bの中でもパートナーさんとビジネスをしています。

 いい例がCATVとの取り組みですが、ここには、これまでも彼らのインターネットバックボーンやメールのような付加価値サービスのご提案をしてきました。そんなCATVもモバイルをやっていきたい。とはいっても、地方のCATVだと、東京でドコモさんと直接接続するというのはなかなかハードルが高い。そんな中で、われわれがB2Bとして(回線を)ご提供させていただくことになりました。こうしたニーズは、今後も掘り起こしをかけていきます。

 今現在ではIIJmioのユーザーも多く、もちろんそこも伸ばしていきますが、そこに固執するのではなく、パートナーが独自ブランドのMVNOを作ることにも貢献したいですね。

―― MVNEとしての顧客がIIJmioと競合する可能性もあると思います。

佐々木氏 パートナービジネスをさせていただく際には、パートナー独自の売りが出る形で、さまざまなご協力ができると思っています。例えば、パートナー企業によっては、柔軟で多様な料金プランを出されたいというニーズがあったとします。そのようなときに、IIJmioの料金プランに限らず、さまざまなご提案ができるようにしています。IIJmioと違う立て付けの訴求方法を取っていただけるご用意はしているということです。

 もちろん、バッティングするところが来ていただいても、それはそれで構いませんが、カスタマーの特色に合わせたものが作れるといいですね。

●U-mobileには提供したが、IIJmioではデータ定額は予定していない

―― U-mobileが始めた定額プランも、その一例でしょうか。確か、IIJさんはトラフィック的な観点で「やらない」とおっしゃっていた記憶があります。

佐々木氏 U-mobileさんは、これまでもほかのMVNEさんとパートナーシップを結び、定額プランを出されていました。IIJにも、そういったプランを(ユーザーに)ご提供したいという、強いご要望をいただいていました。条件についてはビジネスのお話になってしまいますが、「ぜひ」とご提供しています。

―― でも、IIJmioではやらない。

佐々木氏 われわれのプランとしては、ないですね(笑)。われわれのプランに対するポリシーと、パートナーのポリシーは当然違ってきます。そこはパートナー第一。あとはお金の問題が別途ありますが、われわれのシステムが許す限りはご提供します。

―― MVNEを強化するという方針は2016年から出したものなのでしょうか。

佐々木氏 今年度(2016年度)200万回線ということで、大きな成長をしなければなりません。今後の成長に向け、1社でできることはやっていきますが、多くのパートナーさんにご利用いただける柔軟さやベネフィットを出していくというのが、大きな方針です。ただこれは、直近でそのように転換したというわけでもありません。

堂前氏 昨年(2015年)から他社とやっていくという戦略はありました。こういったことは、「やりましょう」となっても来月からできるわけではなく、お値段の交渉からシステムの連携までいろいろとあり、それが実りだしたのが最近だということです。私たちとしても今年に入ってアクセルを踏んだという感覚はなく、以前の成果が実っているという感じですね。

―― 成長という意味だと、ユーザーを増やす方向だけでなく、ARPUを上げる方向もあると思います。こちらはいかがでしょう。

堂前氏 最近では、コンテンツも強化しています。コンテンツ会社とタイアップして、ユーザーの方々にご提供する。IIJのカラーは真面目なので、変にひねった料金は作りません。初年度は安いが2年目から高くなるということもやらず、トータルで本当に適切な訴求なのかを考えています。

 ですから、コンテンツをやるにしろ、端末をやるにしろ、これはこのお値段と割り切れる形にしています。

●端末はミドルレンジを2、3機種そろえる

―― 端末の販売に関しては、どのような方針なのでしょうか。

堂前氏 端末自体もかなり伸びていて、これ自体はいいことです。IIJでは、端末を何でもかんでも扱うというより、ミドルレンジで2、3機種をそろえる形にしています。われわれの端末販売は、マニアな方に選んでいただくというより、端末がないと困るという入門者に向けています。まずはこれなら安心という形でご提供することが多いのです。それが1機種だと欠品の問題が出てしまうので、2、3機種が常時入れ替わる形にしています。10機種近くあっても選べないですからね(笑)。だったらそこまで手を広げるより、今はこれと選んでもらえる方がいいと思っています。

―― 伸びているということは、よりライトなユーザーが増えているということですね。

堂前氏 いろいろと思うところもありますが(笑)、良かった、悪かったではなく、変わってきているというのが実情です。メーカーさんともいろいろとお話をしていて、商談だけでなく、IIJmio meetingに来ていただくようなお付き合いもしています。

―― ネットワークの機能の検証としてのお付き合いもありそうですね(笑)。

堂前氏 それもありますね。うちに持ってくると、スペックシート以上のことを調べだしてしまうので(笑)。スペック表でも、「この表記はおかしくないですか?」「この機能はどうなっているんですか?」などと伺うこともあります。そうするとお返事をいただけることもあり、それはいいことだと思っています。

 例えば、最近では各社大丈夫になってきましたが、初期のころはメーカーさんがBandの番号ではなく「800MHz」というような表記をしてくる。では、「それはBand 6ですか、Band 19ですか」と聞くと、「本国に確認してきます」となってしまう。そういったところでも、お互いにとっていいところに着地できます。

●郵便局での取り扱いを始めた背景

―― 8月から郵便局での取り扱いも始めます。これについては、どういった経緯があったのでしょうか。日本郵便とMVNOの話は、以前から臆測が多かったこともあるので、あらためて経緯を教えてください。

政田氏 昨年(2015年)の夏ごろから、弊社がご提案していました。郵便局のターゲット層はご高齢者や主婦の方ですが、ここは弊社がリーチしづらかったところもあります。また、エリア的には地方をカバーできます。ターゲット層とエリアの掛け算が必要だったということです。

―― 念のための確認ですが、郵便局は販売店という位置付けですねよね。

政田氏 左様です。サポートも基本的には弊社が行います。最初の地域は東海エリア4県で2050局から、全体的には2万4000ほどあるので約1割です。

 郵便局には資料請求のカタログを置き、お電話でも受け付けをする形を取りました。まず弊社にご連絡いただき、お客さまには申込書一式をお送りします。郵便局ではこの形が一番慣れていて、展開もしやすいということでこういった形になっています。紙で申し込めるというのもいいですね。申し込まれる方は、必ずしもインターネット環境をお持ちではないので。

―― むしろ、カタログ販売に慣れているということですか。

政田氏 中古車だったり、ウォーターサーバだったりと、なかなかそこに現物を置くことができないものを扱っています。始めるにあたりいろいろとお話はしましたが、こういう形が、郵便局のお客さまにとっては一番いいということです。

―― 将来的には、郵便局で即時MNPができるようになったりもするのでしょうか。

佐々木氏 まだ始まってもいないサービスなので(笑)。始まればいろいろなお話が出てくると思いますが、まずは……ですね。

堂前氏 あちらも初めてなので、慎重な部分はあると思います。サンプルも、全部用意すると2000台になってしまうので(笑)。

政田氏 予備まで考えると5000台ですね……。

―― 確かに、SIMフリー端末でその台数はさすがに厳しいですね。サンプルだけで総販売数の数%になりますし(笑)。ただ、大きな一歩であることは確かです。

堂前氏 今までにないタッチポイントということは、大きいですね。当然、まだ全国津々浦々まで置けるわけではなく、ビックカメラさんのように売り慣れてもいないので、ジワジワと広がっていくイメージは持っています。その割には話題が先行してしまい、ちょっとドキドキしているのですが(笑)。

佐々木氏 海外だと、MVNOが郵便局をやっているのは珍しいケースではありません。事業者がさまざまな取り組みをしていて、ポテンシャルも高いと思います。海外事例でいうと、郵便局はバンキングをやっているところがやはり多く、タッチポイントとしては、特にルーラルエリア(地方)が強固です。先行している郵便局は、自前でSIMカードを持ち、決済サービスなどもどんどん取り込んでいます。それを日本でやるには、われわれ自身がフルMVNOになるというハードルを越えなければならないのですが。

●ドコモの禁止行為規制緩和はビジネスチャンス

―― フルMVNOだと選択肢が広がるわけですね。こちらについては、いつごろを目指しているのでしょうか。

佐々木氏 いかんせんガイドラインが出たのが昨年(2015年)の11月で、ドコモさんとの協議もこれから本格化します。ですから、現状、いつと見えているわけではありません。経済性や技術的に何ができるのかは、ドコモさんと協議しないと出てこない状況もあります。今の段階で決まっていることはありませんし、時期も見えません。

 ただ、当然、フルMVNOはMVNOの新しいチャレンジという意識はあります。技術的にできることは何か、海外でフルMVNOはどういうことをしているのか。そういったリサーチのようなことは、急ピッチでやっています。

―― MVNEという観点でも、できることが広がりそうですね。

佐々木氏 フルMVNOになり、自前のSIMを発行できるとなると、パートナーからご要望されているさまざまな付加価値を実現できます。それが決済のような事例になるのか、海外での接続になるのか、柔軟な料金になるのかはまだ分かりませんが。料金の柔軟性という意味では、IoTのようなものでは、機械にSIMが入った瞬間から課金できるようにもなります。ALADIN(ドコモの顧客管理システム)ではできることとできないことがあり、できないことを実現するうえでも、MVNEとしては大きなメリットがあります。

―― そういった中で、ドコモに対する禁止行為規制が緩和されたことについてはどのように見ていますか。

佐々木氏 われわれとしては、1つのビジネスチャンスだと思っています。MVNOの差別化が難しい理由の1つに、ドコモさんが禁止行為規制で画一的な取り扱いしかできなかったことがあります。ここが緩和されたことで、われわれとドコモさんで新しい付加価値を作ることを考えていけます。

 半面、全てがポジティブというわけではありません。われわれと同時に、他社にとってもビジネスチャンスがあるからで、われわれが負けてしまうことも当然ありえます。ここから先は、サービスを企画する力であったり、実装する力であったり、販売していく力であったりと、トータルの力で、いかに新しい付加価値を考えていけるか。そういったフェーズに、競争が移っていくのだと思います。

●タッチポイントは広げるが、マニアのユーザーはむげにしない

―― 現実的な話に戻ってしまいますが、お昼の混雑に関してはいかがですか。

佐々木氏 現実的に言うと、難しいですね。われわれも品質を上げていきたいと強く思ってはいるものの、お客さまが極めて短い1時間に集中してしまうので、円滑にトラフィックをさばくのが難しい状況です。

堂前氏 サラリーマンや学生ばかりだと、どうしても昼休みが多くなってしまいます。直接的な解決ではありませんが、それ以外の属性の方が増えれば、トラフィックがならされ、従来よりも昼休みの負荷が軽減されます。私たちにとっては、プロフィルが偏りすぎているのが非常にやりづらいんです。

―― そういうところにも、郵便局での販売が効きそうですね。

堂前氏 恐らくプロフィルは違いますからね。

―― 以前と比べると、属性は変わってきているのでしょうか。

堂前氏 相変わらず、女性が増えてきています。ここには面白い傾向があって、男性の増加は単調というか、徐々にという伸びですが、女性はiPhoneが発売されるとピョンっと伸びます。あくまで発売時期での仮定ですが、去年(2015年)の秋と今年(2016年)の春にピョンと増えていて、ほかに理由が見つかりません。女性を増やすために、iPhoneを扱えればいいのですが(笑)。

 郵便局もそうですが、横に広げようとはしていて、そのためにはタッチポイントを広げるのが一番効果的です。もちろん、今まで支えてきてくれたマニアの方(かた)をむげにするつもりはありませんが。

―― そこは、やはり強調しますか(笑)。

堂前氏 「IIJもチャラくなった」と言われることはありますが、私も含めたマニアが快適になるには、一般の人も増やした方がいいんです。

 ついでに言うと、どこか大口のMVNOが入ったり、大口の販売先が決まったりすると、必ず「あそこが入ったからIIJも終わりだ」と言われることがありますが、それもご安心ください。そこに合わせて当然設備は増強していますからね。

●取材を終えて:100万契約を超えて次のフェーズへ

 佐々木氏が指摘していたように、ドコモの禁止行為規制が緩和され、MVNOの競争環境も大きく変わろうとしている。HSS/HLRの開放に向けた協議も始まり、将来的にはフルMVNOになれるMVNOと、そうでないMVNOに分かれてくる可能性もある。IIJの最近の動きは、こうした状況の変化に対応していくための布石ともいえるだろう。

 インタビューからは、100万契約を超えたIIJが、徐々に次のフェーズに移ろうとしている様子もうかがえた。郵便局での販売はその1つ。これが成功すれば、MVNOが取り込めていなかった、地方や高齢者のユーザーに対するアプローチが可能になるかもしれない。

最終更新:7月29日(金)17時22分

ITmedia Mobile