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<特別連載>ミャンマーのロヒンギャ問題とは何か? (7)  6つの異なるムスリムが存在   宇田有三

アジアプレス・ネットワーク 7月29日(金)15時6分配信

Q. それではロヒンギャ・ムスリムの人も 「バー・ルゥーミョー・レー?(あなたは何人〈何民族ですか〉?)」と聞かれたら、「ミャンマー(人)」と答えるのですか?
A. イスラームを信奉している人たちだけは違いました。彼らは「ムスリム」と返答するのです。
  
Q. 「ミャンマー・ルゥーミョー(ミャンマー国民)」という返事ではなかったのですか?
A.  そう答えてくれた人は記憶にありません。ムスリムの人たちにとって、<自分の属する集団=国家>よりも<自分の属する集団=イスラーム信仰共同体>という意識の方がより強いと考えられます。もしかしたら英語で「国籍は何?」って聞いたら「ミャンマー」と答えるかも知れませんが…。この「ムスリム(人)」という返答は、年代・地域が異なっても変わることなく一貫して同じでした。

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Q. じゃあ、ミャンマーでは、ムスリムとはイスラームを信奉するというイスラーム教徒というよりも民族(人)として考えた方が現地の社会実情に合っている、ということですか。
A. その通りです。ムスリム人(民族)といってもいいでしょう。私の知り合いの仏教徒やキリスト教徒たちも、イスラームを信奉している人たちのことを「ムスリム人」という表現をしていました。

同じような事例は、例えばスリランカでは、シンハラ人、スリランカ・タミル人、インド・タミル人というに区分けに加えて、スリランカ・ムスリムという呼び方もあります。またヨーロッパのバルカン半島で起こったユーゴスラビア紛争の際、例えばコソヴォではセルビア人、アルバニア人という呼称とともにムスリム人という区分けもありました。

Q. でも、マレーシアではマレー・ムスリムという呼び方は余り聞かないようですが。
A. これはアジアのムスリムの特色の一つかも知れません。アジアはイスラームの発祥の地であるサウジアラビアのメッカから遠く離れています。そのため、マレーシアのムスリムは、アラビア語よりもマレー語を日常的に使い、自分たちの生誕地であるマレー半島《「マレーの地(Tanah Melayu)」》に愛着を抱いてその地に土着化したので、イスラーム色よりもマレー色の方がより強いと思われます。

また中国の最大のムスリム集団は「回教族」と呼ばれる「少数民族」です。彼らはムスリム人というよりも回教族としてのアイデンティティを強く持っています。彼らはかつて「回民(=ホイミン〈フイミン〉)」や「回回(=ホウェイホウェイ〈ホイホイ〉)」と呼ばれていました。つまりムスリムという呼称でした。それが中国という土地で時代を経るに従って「中国が祖国であると認識」が強まり、中国語を話し、その土地に土着化することで、「回教族」という認識が強まりました。

Q. ミャンマー国内では、8大主要民族にムスリムを加えて9大主要民族というのが現地の実情にあっているのですね。
A. 実情に合致している、という点ではそういえます。ですが、繰り返しになりますが、「民族」という区分けは政治的に作られた枠組みです。

現在、一般的にいう「民族」という枠組みで人の集団を規定すると、そこに「権利」が発生してしますので、ここでいうムスリム人というのは、あくまでも信仰を一つにする人の集団という意味です。この辺りは政治的な問題が起こってくるので、「ぼかした表現」にしたほうがいいかもしれません。

それに、ミャンマーでは、上座仏教という戒律の厳しい信仰者が国民の約9割を占めているので、そこにイスラームという一般生活に極めて影響を及ぼす信仰を、宗教=民族とするのは難しいのです。

Q. ミャンマーではムスリムを簡単に「ミャンマー・ムスリム=ミャンマー人」とは呼べないのですね。
A. 呼べません。

Q. それはまた、どうしてですか?
A. それは、ミャンマー国内には大きく6つの異なるムスリムが存在しているからです。

Q. スンナ派、シーア派という区別ではないのですか?
A. スンナ派とシーア派は、イスラームの預言者の後継者をめぐる正統性に違いがあり、教義も少々異なります。私の説明する違いとは、ミャンマーには6つの異なるムスリムがいるということです。出自の違いです。

Q. どのようなものがあるのですか?
A. 大まかに分けると、6つの異なる呼び方のムスリムが暮らしています。
  (1)インド/パキスタン系の「インド・ムスリム」 
  (2)ミャンマーに土着化した「ミャンマー・ムスリム」
  (3)中国系の「パンディー・ムスリム」
  (4)マレー系の「パシュー・ムスリム」
  (5)中東の子孫である「カマン・ムスリム」
  (6)バングラデシュからの「ロヒンギャ・ムスリム(ベンガル系)」のです。

Q. 「ミャンマー・ムスリム」といっても、具体的にどのムスリムかはわからないのですね。
A. イスラームを信奉しているのは共通ですが、それぞれに特色があります。
例えば、パンディー・ムスリムは土地柄からいって中部の大都市マンダレーを基盤にしており、中国系のムスリムなので、モスクの外側に漢字が掲げられています。

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最終更新:8月11日(木)23時40分

アジアプレス・ネットワーク