ここから本文です

津賀パナソニック社長、定期的にテスラにも行く。「そういう手触り感が大事」

ニュースソクラ 7月31日(日)16時50分配信

「わが経営」を語る 津賀一宏パナソニック社長(1)

 パナソニックの津賀一宏社長(59)は2012年6月に就任して、11、12年度に合計1兆5000億円超の純損失を出した同社の経営を一気に立て直した。設立100周年を迎える18年度に連結売上高10兆円を目指すと14年3月に発表したが、思うように伸びず今年3月「10兆円」の目標を断念した。新規まき直しをどう図るのか、その胸中を語った。(聞き手は森一夫)

――社長になって5年目に入りましたね。これまで、やりがいとご苦労と明暗両面あったと思いますが。

 私は社長になるとは思っていませんでした。社長とはどのような仕事なのかよくわからず、はからずも社長になったわけです。業績が悪い中で、巨大で全貌がつかみにくい会社のどこに問題があるのか見える化して、スピーディーに手を打ちました。私1人では何もできませんから、創業者が言われた「衆知を集める」経営などを実践してきました。

 すべてが私には初めての経験です。初ものはやってみないと、うまく行くか失敗するかわかりません。研究開発畑出身の私としては、初ものに挑戦することは非常にやりがいがありましたね。

 一方、事業は先輩たちが長年にわたって築き上げてきたものですから、自分で勝手に設計図を描いて、さあこれで明日から変えますと言って済むわけではありません。赤字を止めるのはそれなりのスピード感でできましたが、新しいことにチャレンジして事業を変えるのは遅々として、スピードがなかなか上がらないなというのが本音ですね。

――振り返って何か反省する点はありますか。

 いろいろあります。最近の話では、18年度の連結売上高「10兆円」という目標を下さなければならなかったことですね。10兆円に向けて、8兆円、8.4兆円、9.1兆円と売上高を増やして行くと言いながら、15年度に計画した8兆円という最初のハードルを越えられませんでした。それくらい見通しが悪かったのです。要するに現場の現実が見えていなかったというのが、ものすごく大きな反省です。

 それで最近、全事業部長と懇談会のようなことを密にやり、本音ベースの話し合いを再度やっています。表情を見ながら、私の懸念事項をぶつけ、向こうの悩みも聞きます。37の事業部長との対話を増やして、本社がまとめるような全体の数字が、実態に即した手触り感のあるものなのか、自ら検証しています。

 大きな組織ですから、事業部の上に各カンパニーがあり、本社機構があります。これらの中間レイヤーは、業績の見通しや事業部の実情、あるいはお客様の声や市場の動きなどを、ありのままに知るには無い方がよいのかもしれない。もちろん何かやる時、例えば企業を買収するような場合には必要です。しかし実態を見極める際には、無駄なレイヤーかもしれんなというのが最近の私の気づきです。

――手触り感のある現状認識が欠かせないのですね。

 若い人など一般の社員が「社長は雲の上の存在だから」と言うので、どこに雲があるのかなと思っていたのですけど、このごろあるみたいな感じがします。結構、厚いんですよね。

――どこの会社の経営者も同じようなことを言いすよ。

 それがやっと実感できました。ハハハッ。

 ――ではトップとしてどのようなことを心がけていますか。

 やはりお客様や事業のパートナー、うちの現場で事業をやっている人たちの生の声を絶対に聞かなければ駄目だと思います。人づてに聞いただけでは不十分です。生の声に接して自分で判断する感覚を絶えず磨かないと、経営者として正しい決断はできません。
 
 例えば、米国の電気自動車メーカーのテスラ・モーターズと組んでやる電池事業は、大きな投資になりますし、気になることもあります。したがって定期的にテスラに行って、イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)と忌憚なく話をする。もしくはテスラの車が売れている国に行って、テスラ車の評判を聞く。また規制との関係がどうなっているのか、中国であれば中国の人に会って聞かなければならない。
 
 これを自分でやるのです。手が回らないところは、私の気になる点や探ってほしいことを人に聞いてもらって、あたかも直接耳にしたかのように生々しい声を集めます。こういうことを繰り返さなければ、本当の意味での手触り感はなかなか持てないし、経営判断に自信も持てないですよね。これが大きな会社のトップとして、やはり必要なことかなと一番思う点です。

 ――最近注目の人工知能にデータを大量に読ませて分析させても、社長の代わりはできませんね。
 
 務まらないと思います。直感で経営するのはよくないとも言われますが、ではその対極にある人工知能で経営するのがよいのかと言うと、私は良いとは思いません。やはり勘が働かないと駄目なのであって、勘をさえさせるために何をすべきなのか、それがしっかりやれているかどうか、こちらの方が重要ではないですか。
 
 その意味で「10兆円」の売り上げ目標について勘がうまく働かなかった。それが反省点で、なぜそうだったのか、きちんと調べて改めて行くのが私は経営だと思います。人工知能が売上高「10兆円」という仮説を立てて、勘が働くか働かないか検証してくれますか。してくれないでしょう。
 
 人工知能では、「10兆円」を目指すという旗や、成長に向けて1兆円の戦略投資をやろうという旗は、たぶん上がらない。人間は失敗するリスクが高いかもしれないけど、そういう旗を掲げてみんなでやって行く、そしてときには失敗もあるというのが私は経営だと思うのですがね。

――社長はこれからまだ。

 発展途上、発展途上です。

■森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:7月31日(日)16時50分

ニュースソクラ