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先駆者ソニーが撤退。日本のリチウムイオン電池の歴史を振り返る

ニュースイッチ 7月31日(日)10時29分配信

パナソニックと明暗を分けたもの

 世界で初めてリチウムイオン電池を実用化したソニーが、村田製作所に同事業に売却し撤退することになった。車載用に大型投資するパナソニックとどこで明暗が分かれたのか。過去の日刊工業新聞の記事を振り返りながら検証する。

<日本初の商品化、すでにEV見据える>

 ソニー・エナジー・テック(東京都渋谷区)は、安全性と充放電サイクル特性を大幅に向上させたリチウムイオン蓄電池を開発、サンプル出荷を始めた。金属系リチウムを特殊リチウム化合物に置き換え、安全性を高めるとともに、負極材、電解質の最適な組み合わせによりサイクル寿命1200回以上を実現した。また、積算エネルギー量はニッケルカドミウム蓄電池に比べて4倍にアップした。価格は小型電池でニッケルカドミウム蓄電池より約30%高くなるという。

 リチウムイオン蓄電池「US―61」は正極に特殊リチウム化合物(イオン結合)を採用。正極から出るリチウムイオンが負極との間を往復して、電気エネルギーを蓄積、放出する仕組み。

 正、負両極に酸化されやすい金属系リチウムを一切使用せず、安全性を高めた。金属系リチウム使用の電池は米国運輸省から輸送上、危険物の規制を受けるが、新蓄電池は規制から除外の判定を受けたという。

 サイクル寿命は100%放電深度でも1200回以上で、リチウム系蓄電池の中で最も長い。積算エネルギー量(容量×放電深度×サイクル寿命)は1リットル当たり264キロワット時と大きい。

 またエネルギー密度は1リットル当たり253ワット時、1キログラム当たり115ワット時。それぞれニッケルカドミウム蓄電池の2・9倍、3・8倍、アルカリ・マンガン乾電池の1・3倍、1・4倍で、同一容量なら小型で軽い電池となる。

 平均作動電圧は3・6ボルト。自己放電はニッケルカドミウム蓄電池の半分。同社は小型セル(直径14―20ミリ)用で、月産10万個の生産設備を整えた。携帯用OA機器、家電製品の電源用のほか、カーバッテリー、写真機器電源、将来は電気自動車の駆動用電源にも使えるとみている。
(1990年2月15日)

<パナソニック、トヨタと車載電池で合弁。ニッケルにこだわる>

 「この企画案を殺してはいけない、とことんやろう。それで駄目なら、売れなかった時は責任を取ろう。いや自分は首をかけてこのRAV4を開発しよう」。1995年1月の経営方針発表会で、社長の森下洋一は当時話題を集めていたトヨタ自動車の小型レクリエーショナルビークル(RV)「RAV4」の開発主査の苦労話を引きながら、「最後にはきっちりと『初の商品』を生み出していく」トヨタの企業風土、開発魂を松下電器にも根づかせようと訴えた。

 97年2月20日、東京プリンスホテルで森下とトヨタ社長の奥田碩ががっちりと握手を交わした。松下電器、松下電池工業とトヨタの三社が共同出資で「パナソニックEVエナジー」を設立、電気自動車(EV)用のニッケル水素蓄電池の開発に取り組むことになったからだ。

 設立披露の式典で、森下が「地球環境問題の高まりでEVが注目される中、そのキーデバイスであるバッテリー事業の社会的な使命は重い。世界のEVメーカーに役立つ会社に育てたい」と新会社への熱き思いを語れば、奥田も「EVのカギを握る高性能バッテリー事業を最高のパートナーとスタートできた」と答え、両社の蜜月(みつげつ)ぶりをアピールした。

 「電池がパワーとして車に役立つ時代がきた」。こう判断した森下は、94年にニッケル水素蓄電池とともに、モーター・コントローラー、エアコンを加えたEV関連の三つの開発を社長プロジェクトにしている。

 新会社は99年までを研究・商品開発と市場開発に充て、2000年から本格的な事業展開に入る。社長に就任した元松下電池取締役EV電池開発センター所長の川瀬哲成は「電池屋と車屋が別々に開発していくには時間がない。95年ごろには共同開発でも駄目だと分かり、会社をつくってお互いの技術を融合するしかないとの結論に達した」と、スタートからトップギアでの走りを義務づけられていることを強調する。

 EV用電池では、ソニーが日産自動車と共同でリチウムイオン電池の商品化を目指しているが、「エネルギー密度、出力、信頼性、リサイクル性などのバランスからみてニッケル水素が最も優れている。30種類もの電池を検討したが、21世紀初頭にはニッケル水素しかない」とハンドルさばきには自信をのぞかせる。

 「世界のすべてのEVメーカーへの『役立ち』を通じて、グローバルな専門電池メーカーを目指す」新会社だが、100年の歴史を持つエンジン車を向こうにまわしての競争は半端ではない。料金の安い夜間電力を使えばランニングコストは3分の1になるという計算もあるが、現実にはコストの壁は高い。

 「日本で生産される年間600万台の車の1%でもEVになれば、電池の価格は100万円を切れる。そうなるのに十年はかからない」。

 EV用蓄電池のプロ、川瀬の強気なヨミを世界の松下とトヨタが車の両輪として、どれだけ加速できるか。最後は「初の商品」に仕上げるトヨタの企業風土、開発魂が松下の技術陣の“オクタン価”をどれだけ高められるか。「地球環境との共生」を経営の柱に掲げる森下のカーエレクトロニクス分野での“仕掛け”の成否も、この“融合”にかかっている。
(敬称略、1997年6月6日)

<発熱・発火事故相次ぐ>

 工業製品の不具合、事故が多発した1年だった。リチウムイオン電池ではノートパソコン用のソニー製に続き、12月に入って携帯電話端末用で三洋電機製の不具合発生が明らかになった。同電池は従来に比べ軽量で大容量のため2次電池の主流になっている。正極にリチウム・コバルト酸化物、負極にグラファイト(炭素)を使い、間にイオンを通す膜(セパレーター)を挟み、電解液に浸した構造。


 充電時には正極中のリチウムがイオンとなって負極に移り、グラファイト層の間に保持される。機器を使用する放電時は負極から正極にリチウムイオンが戻ることによって電流が流れる仕組み。充電時にリチウムが大量に抜けるとコバルト酸化物結晶が崩壊する、電池内部が150度C以上になると熱暴走して爆発に至るなどの危険も内在している。これを正極のリチウムを60%以上引き抜かない制御、温度ヒューズなどの保護回路によって回避している。

 実際の電池はシート状の正極・セパレーター・負極の3枚を重ねて巻き上げ缶などの容器に詰める。不具合が生じたのはソニー、三洋とも巻き上げた終端のエッジ部。ソニーは工程で混入した金属粒子によりショート、三洋はエッジ部で負極がセパレーターを突き破り金属缶に触れてショートしたとしている。

 両方とも新しい機種で不具合が生じていることから、急速に高度化するモバイル機器のニーズに電池が追い追い付けないことが原因の一つと思われる。電池には小型、大容量という相反する性能が求められる。各社はノウハウを駆使し、シート状電極をきつく巻く、セパレーターを薄くする、端子などを配置する上部の空間を小さくするという具合にあらゆる隙間(すきま)を残さない工夫を必死で行っている。

 だが、電池メーカーの技術者は「リチウム・コバルト酸化物での容量増は限界にきていた。目いっぱい詰め込んで容量を稼ぐことにより危険性は高まっていた」という。すると対策は現在の材料、構造のまま画期的な安全確保技術を開発するか、材料や構造を変えて大容量化を図るかのどちらか。正極材料ではマンガン系が一部で実用化されているほか、負極はスズやシリコンが検討されている。燃料電池も視野に入ってきた。

 携帯電話やノートパソコンはユビキタス時代の有力端末であり、2次電池はそのキーデバイスだ。日本メーカーが強い分野でもある。ノウハウの問題もあるだろうが、ソニー、三洋の両社は不具合の原因をできるだけ詳しく明らかにしてほしい。これによって電池メーカー各社は今回の不具合をきっちり受け止め、安全を前提にユビキタス時代のニーズに果敢に応える技術開発を急がなければならない。
(2006年12月18日)

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最終更新:7月31日(日)10時29分

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