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銀行で印鑑が要らなくなる? 印鑑文化の不思議

ZUU online 8月1日(月)6時10分配信

オンライン送金、モバイル決済、仮想通貨での決済、クラウド家計簿など、金融とITを融合した技術革新「フィンテック」が注目を集める中、ネット銀行以外の銀行でも印鑑の使用を取りやめる動きが出てきています。

■押印の代わりに生体認証?

2016年5月にとある大手銀行グループが口座開設や住宅ローンなどの手続きで、印鑑を不要とすると発表しました。現在、一つの手続きで10ヵ所以上印鑑を押す場合があるので、印鑑が不要になれば申込者も、確認する側の事務作業もスムーズになることでしょう。

同行では印鑑使用の廃止を含めて業務全般を見直せば、今後4年間に事務作業を2割減らせると見込んでいます。その人員を他のグループ銀行に振り分けて、営業の強化につなげる狙いがあるようです。安全面については、2015年の秋以降に一部の支店で印鑑を使わない口座開設が試験的に行われ、問題がないことが確認されています。

すでに口座を持っている場合も、印鑑不要の手続きを希望すれば切り替えに応じてもらえるようです。反対に「印鑑を使って手続きしたい」という場合は、書類でも対応してもらえます。

そこで気になるのが、印鑑の代わりになるものです。同行の場合は、手形・小切手取引や貸出取引といった例外を除いて、印鑑の代わりに指の静脈を利用した「生体認証」などで本人確認を行えるようにするとしています。

また、別の大手銀行では、印鑑を一切使わずに口座開設や住所変更など各種の届けができるよう、サインだけで本人確認を行う「サイン認証」を導入する予定だと発表しています。

事前にユーザーの手書きサインを電子データとして登録し、取引の際に専用端末にサインをすると、登録されているサインのデータ(距離、方向、筆圧など)と照合して本人確認を行う仕組みになるのだそうです。

そもそも、日本ではなぜ印鑑が重視されているのでしょうか。日本ほど印鑑を使う国はないと言われるほど、世界の中でも屈指の印鑑文化が根付いています。押印された書類しか認めない公共機関や企業も珍しくありません。

印鑑の歴史をひも解くと、紀元前5,500年にまで遡ります。古代メソポタミア文明で印鑑が誕生したという説が有力で、中東から地中海沿岸に広がり古代中国から日本に伝わったとされています。日本最古の印鑑として知られている「漢委奴国王印」にはじまり、701年には大宝律令の制定時に官印が導入されています。時代を経た今も廃れることなく続いてきた印鑑文化ですが、現在も印鑑が用いられている背景には印鑑登録・証明といった制度の存在があります。

■印鑑がなくても契約は成立するが……

「印鑑登録」は自分だけの印鑑を登録する制度で、登録された印鑑を実印といいます。印鑑登録を終えると「印鑑登録証明書」を発行でき、個人では不動産のローン契約などで利用されています。この制度は、間違いなく本人である証明ができると同時に、大きなコストをかけず取引の信頼性を確認できる手段でもあるのです。

また、法的根拠としては、民事訴訟法第228条4項の「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」という規定があります。つまり、押印は契約の有無、そして義務や責任の有無を示す証拠とされ、本人の印鑑があれば本人の意思に基づいて契約が締結したと推定されます。「有印私文書偽造」(他人の印章や署名を偽造や不正使用して、各種申込書や契約書などの私文書を偽造すること)や「有印公文書偽造」(印章や署名を偽造や不正使用して、住民票や戸籍謄本、運転免許証などの公文書を偽造すること)も犯罪です。印鑑の効力は法律や制度で確保されているといっていいでしょう。

実際には、印鑑がなく口約束やサインだけでも契約は成立します。口約束でも契約の法的拘束力が認められた判例もあり、印鑑だけが法的効力を持っているわけではないのです。

海外ではサインが主流で、印鑑がなくてもサインで済ませることができます。海外で印鑑文化が根付かないのは、サインのほうが便利で手軽だからではないかという意見があります。実印を作るとなるとお金がかかりますし、紛失や破損のリスクがある以上、保管にも気を遣います。それでも日本で印鑑が重視されるのは、法律や判例、商習慣にもとづいているといえるのではないでしょうか。

日本にフィンテックの波が押し寄せる中、印鑑は今後どのような運命を辿ることになるのでしょうか。確かにサインや生体認証が印鑑の代わりになれば、印章を忘れても手続きができるなど便利にはなります。しかし、長年続いてきた文化や習慣が変わって失われることに、一抹の寂しさを覚える人もいるかもしれません。(提供:お金のキャンパス)

最終更新:8月1日(月)6時10分

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