ここから本文です

これまでのPR手法が通用しない!? アパレル業界が次にとる一手とは

ITmedia ビジネスオンライン 8月1日(月)6時10分配信

 電車内でスマホをタップし、週末のデートの服を買う――ECサイトを使った買い物は、今ではアパレル業界の“当たり前”になっている。

【石原さとみも登場するアプリTOPLOG】

 しかし10年前には「手に取ってみないと分からない」「店舗での売り上げを食われてしまう」「うちのブランドとよそのブランドをごっちゃに表示するなんて」といった反対意見が優勢だった。

 反対意見を押し切り、業界にいち早く「ケータイでのショッピング」を持ちこんだ人がいる。TOPLOG代表取締役兼CEOの亀山隆広さんだ。亀山さんは2002年、24歳で飲食業界という他業種からファッション業界に入ってきた。

 「海外に出張に行ってスターバックスに入ると、みんな携帯電話を開いて買い物をしていた。実店舗がショールームになり、インターネットが大きな販売チャンネルになる時代が必ず来ると思った」

 当時亀山さんが立ち上げていたアパレル会社には、10代や20代前半の若いスタッフもいた。「最近は服をネットで買っています」という彼らの声も、亀山さんの背中を押したのだという。

 確信は正しかった。2015年のEC市場規模は13.8兆円まで拡大。5年連続で成長し続けている。“常識”や“反対意見”を打ち破ったところに、新たな突破口がある。また新たなトレンドが生まれ始めているファッション業界について、亀山さんに聞いた。

●読者モデルをプロモーションに活用

 亀山さんが自社ブランドで取り入れたのは、「ケータイショッピング」だけではない。「読者モデル」を活用したモデルにも早く取り組んだ。

 90年代は、安室奈美恵などの“カリスマ”がファッションリーダーになっていた。その後に来たのが、渋谷109などで活躍したカリスマ店員。そしてその次が“読者モデル”だ。

 「2000年代前半は『こういう人になりたい!』という強い憧れがファッションを引っ張っていった。それが、04年ごろには、『自分でもなれるんじゃないか?』といった考えが強くなっていった」

 情報に敏感な層は、ファッション誌を読むよりも、好きな読者モデルのブログを見に行っているのだ――そう考えた亀山さんは、新しく入社した社員に「どの読者モデルが有名?」と尋ね、最新の人気を把握。若い層に影響力のある読者モデルに協力を募り、ブログでプロモーションをすることにした。この読者モデルを使ったPRは、アパレル業界の中で一般的になっていく。

 アパレル業界の読者モデルブームは落ち着き、今は自己発信力のある“インフルエンサー”がSNSで台頭してきている。

 ところが最近、インフルエンサーを使ったプロモーションが不振なのだという。

 「ブランドも人も、昔よりもパワーがなくなっている。消費者が熱狂的に夢中にならない」と亀山さんは語る。昔は「この人になりたい!」と思って猛烈に情報を集めていた層が、誰か1人に入れこまなくなってきている――という感覚があるのだそう。

 「Instagramのフォロワー数が40万人いる人に商品を宣伝してもらっても、爆発的に売れることはもはや少ないように感じる。みんな自分のタイムラインで、気に入ったものをまんべんなく見るようになった」

 ブログや雑誌は「自分から見に行くもの」だが、TwitterやInstagramは「自分のところに流れてくるもの」。そうしたUIの違いも、消費者の感覚に反映されている。

●オフラインもダメ、オンラインもダメ……苦戦するアパレル

 雑誌を読まない消費者が増え、インフルエンサーを使ったPRの効果も薄れてきた……そんな状況で、アパレルはプロモーションに苦戦し始めている。

 費用対効果を図ることができないファッション誌への出稿をやめ、クリック数などの効果を見られるオンライン広告を出すブランドも増えた。オフラインの広告費が前年比95%と下げる一方で、オンライン広告は同117%と増えている。しかし、今度は違った悩みがアパレルブランドを襲った。

 「アパレルとWeb広告というと、とにかく「●%OFF」といったセール訴求のようなものが多い。『憧れの人が着ている服だから』を入り口にして服を買う消費者と、『安いから』で入ってくる人とでは、ブランドに対する考え方が変わってしまうはず」

 どこでプロモーションしたら効果がでるのかが分からない。では、広告費予算を削ってしまおう……そんな判断を下すアパレルブランドは少なくないのだとか。ただし、そうすればどうしても露出は減る。

 「いい商品を作っても、それをアピールする場所がないと考えているブランドが多い。ブランドの世界観を守りつつ、雑誌を読まない消費者にアプローチできる手段がないかと考えて、『じゃあ、自分で作って、業界全体を盛り上げよう』と思った」

●新たな挑戦「TOPLOG」

 スタートしたのがスマホ向けアプリ「TOPLOG」だ。スマホ内ではファッションに関する記事を読むことができる。スマホ内の記事ながら、梨花などの有名モデルが登場しているのが特徴だ。

 人気のコンテンツは「ハイプラ(高い服)とプチプラ(安い服)のミックスコーデ」や「着回し」、モデルのプライベートにフォーカスしたもの。「異性ウケ」も強い。こうしたラインアップを聞いていると、まさに雑誌の特集をそのままアプリにしたような印象を受ける。

 「TOPLOGは、Webでは信じられないくらい、1つのコンテンツにかけるコストを高くしている。モデルをアサインして、スタジオを抑えて、編集やライターも使ってコンテンツを作る。印刷しないのでその分のコストはかからないが、ファッション誌がやっていることをWebでやっている――という感じ。一般的なWebメディアのほぼ10倍くらいかけて作りこんでいる」

 有名モデルの出演は、ギャランティを出せば出てもらえるというわけではない。彼女たちは、受ける仕事のクリエイティブの積み重ねによって自分のキャリアが定まっていく。その世界で美しく服を魅せるスタッフ陣がそろっているかということが非常に大切であり、それを任せられる環境であるという信頼がメディアにあるかどうかを見極める必要がある。そういったことを知らないとボタンを掛け違えて出演を承諾してもらえない。これまでの人脈やノウハウが生きた形だ。

 ブランドも同じだ。アパレルブランドはイメージを大事にするので、あまりに“そぐわない”と思うようなアプリや雑誌には出稿しない。

 有名モデルや有名ブランドが登場すると、アプリ自体の「ブランド力が上がる」「業界での位置」が決まるという側面がある。また、「こんな有名モデルや有名ブランドがアプリに登場している」ということは、ユーザーだけではなく、スタッフのモチベーションアップにもつながるのだそう。

“読まれる企画”でアプリのコンテンツの質を上げ、“有名モデル出演”でアプリのブランドを向上させていく。TOPLOGはこの2軸で成長を考えているのだ。

●アフィリエイトを“やらない”選択

 Web×アパレルのマネタイズを考えると、ECサイトと連動したマージンやアフィリエイトなどが想定される。しかしTOPLOGでは、ECサイトと消費者をつなぐ導線にはなるが、自社でECサイトの運営もせず、購入先での行動に応じたベネフィットをもらわない仕組みにしている。

 「アフィリエイトをやると、そちらで売り上げを立てたくなる。そうなるとユーザーが本当に求めている情報ではなく、こちらが売りたい商品のページが増えてしまう」

 主なマネタイズはタイアップ記事。ファッション誌の3分の1ほどの費用で、モデルを使ったタイアップ記事をアプリに掲載する。

 TOPLOGは現在「投資の時期」と亀山さんは語る。アプリリリース時に設定した1年後のダウンロード目標は100万だが、現在約4カ月で30万。

 「これはかなり予想通りの数字。まずファッション業界に向けて認知を高め、スタイリストやモデルといったアーリーアダプターが知っているアプリになっている」

 ただし、「知る人ぞ知る」になってはいけない。レイトマジョリティーにも届くように、コンテンツの分析を行っている最中だ。17年の春までには普及を狙っていると語る。

●新しい挑戦をするための“土曜日の過ごし方”

 新しいことに次々に挑戦していく亀山さん。前例がない場所に踏み込んでいくのは不安ではないのだろうか。

 「『やりたい!』と思ったらとことんやる。やりたいことをやるにはどうすればいいのか、前例や過去にこだわらずに考えて実行する。もちろん賛否両論が集まるし、不安で寝れないときもある。当然リスクもあるが、『リスクがあるからやらない』ではなく、『このリスクは解決すべき課題』と考えてクリアしていく。死ぬときに『やりたいことをやれたな』と自分に対して思いたい」

 自分がやりたいことを決めて、「メディア」という旗を立てて、情報を整理する。仮説を立て、計画を整理して、業務に落とし込む。そしてその業務を成立するための組織を固める。

 アライアンスを決めて、ポートフォリオをつくり、タスクをかきだし、スケジュールを組む。担当者を決めて、マネジメントする……。挑戦が多いといっても、組織作りや方向性を決めるのは感性よりも理論だ。

 亀山さんの作る組織は、下の意見を吸い上げて、上が舵(かじ)を切っていくタイプだ。販売店舗の“現場”に行って、店頭の様子を見る。店舗に立つ社員からダイレクトな客の反応を聞き、立てた戦略の「答え合わせ」をするとともに、次の戦略を練っていく。

 「トップの能力を上げたほうが、会社の成長に直結する。だからまずは自分自身が成長できるようにしたい」

 そのために亀山さんは、やるべきことを壁に書き出して、できるまで消さない――というやり方を取っているのだとか。ずっと消えなかった課題は意外にも「土曜日の過ごし方」。アイデアを考えるために土曜日を使う予定だったが、直近の問題解決に頭を使ってしまうからだ。

 「それよりも、“よりお金をつくりだす”方に考えを深めれば将来的にはユーザーやスタッフをHAPPYにさせる投資ができるし建設的。とはいえ、気持ちの切り替え方法を生み出せずにいることもあったが、最近は朝お笑いの動画を見ることにしている。1回お笑いに集中すると、頭がからっぽになる」

 特に「キレギャグ」がお気に入りなのだとか。気持ちの切り替えがうまくないことに悩みを抱いている方は、亀山さん流の解決法はいかがだろう。

最終更新:8月1日(月)6時10分

ITmedia ビジネスオンライン