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小池百合子はどんな本を読んで都知事になったのか

ニュースイッチ 8月1日(月)14時50分配信

『失敗の本質』から学んだ戦略的思考。10年前と彼女の本質も変わっていない

 テレビ局でキャスターの仕事をしていた20年ほど前、人に勧められて手にした『失敗の本質』(戸部良一ほか著)。日本は太平洋戦争になぜ敗北したのか、何が間違っていたのか。ノモンハン事件やミッドウェー海戦、インパールなど主要な作戦の事例について、これらに共通する失敗の要因を冷静かつ客観的に分析している。軍事の専門家だけでなく、外交史や組織論を専門とする学者による共著で、学際的にクロスオーバーである点も興味深い。

 そもそも軍隊はすべての組織の代表であり、官僚制組織の究極といえる。一方で有事の究極は戦争。つまり有事における軍隊のあり方を見ていると、そのプラスとマイナスの両面が明確になってくる。

 もちろん私にとって太平洋戦争は、歴史でしか知ることができない。だが、現在の日本が抱えている問題と何ら変わらないのではないかと実感する。

 例えば陸軍と海軍の間で情報共有が図られていなかったことや「根拠なき楽観主義」のようなものに支配されて戦争に突き進んでいった過程などだ。

<日本は追い詰められると戦略的思考ができなくなる国>

 これらを見ると、日本は追い詰められると戦略的思考ができなくなる国だとよく分かる。それは今の社会や企業にも共通すると言えるのではないか。日本という国の本質を突いているという意味で怖い本だ。

 軍隊は明確な目的を持って進む機能体であるはず。だが、それが内向し、どこからか運命共同体となり、外部との連携を拒むことで失敗に向かっていった様子がよく描かれている。

 私は常々思うのだが、国家や政府こそ国民を豊かにし、安心感を持ってもらう機能体であるはず。そのためには互いの組織が運命共同体を超えて機能体となり、連携することによってこそ、大きな力を発揮できるのだと分かる。

 「兵力の逐次投入」というくだりも印象的だった。「あれもこれも」は一見すると公平感があるが、イノベーションにはつながらない。選択と集中といった戦略的な思考を日本人は苦手とするのかもしれないが、ここぞという時に資源である財政を集中的に投入してこそ、全体を引き上げる力が出てくる。

 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と言う。これから生まれてくる人にとり、太平洋戦争は歴史でしかない。だが、歴史を客観的に学ぶことには意味がある。国家であれ企業であれ、人間組織である以上、本書から学ぶことは多い。

<余滴-潜在力引き出す源>
 キャスター時代は、さまざまな経済事件を疑似体験できる経済小説を愛読。イノベーションの概念ではP・F・ドラッカーの著書に刺激を受け、いわゆる「日本版401k」について定めた確定拠出年金法推進の原動力となったという。

 多忙な公務の中、「読書量は減りがち」だが、読書会や書評の仕事を通じ、さまざまなジャンルに触れている。書物に触発され、日本の潜在的な力を引き出す斬新なアイデアが生まれることが期待される。
(文=神崎明子)
※日刊工業新聞2006年7月31日付

【解説】
 この記事が掲載されたのは2006年7月31日付。奇しくも都知事選の10年前です。 当時、環境相だった小池さんに、「心に残る一冊」とその思いについて話を聞いたのがこのインタビュー。「国であれ、企業であれ人間組織である以上、学ぶことが多い」との問題意識は16万人を数える都職員を束ね、日本経済のけん引役である「首都・東京」としてどのような「戦略」を打ち出すのかにもつながるような気がします。
(文=神崎明子)

最終更新:8月1日(月)14時52分

ニュースイッチ