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スペシャリスト(24)認知症治療 倉敷平成病院神経内科 涌谷陽介部長

山陽新聞デジタル 8月1日(月)11時8分配信

病態を的確に鑑別 原因探る

 国内に460万人以上いると推計される認知症患者。認知症を根本的に治す薬は開発途上にあり、認知症になる人を少なくしたり、認知症になっても進行を遅らせることに国を挙げて取り組んでいる。

 倉敷平成病院は、認知症の診断・治療の核として岡山県内に8施設指定されている「認知症疾患医療センター」の一つ。センター長を務めるのが涌谷だ。

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 「問診や診察によって認知症の病態や原因をつかむことが診断、治療の大前提」

 認知機能障害を引き起こす疾患は非常に多く、病態を的確に鑑別し、その原因を探ることが重要だと力説する。認知症と思われていた症状が、実はアルコールや薬剤の影響、脳血管障害などが主因になっていることもあるためだ。

 患者本人が診察室に入ってきた時の表情、歩き方、しゃべり方なども観察し、会話やしぐさの中から推察される障害の特徴をつかむ。体や神経の所見にも注目する。これらを総合して病態をひもといていく。

 「チームとしての総合力が診療を支えている」

 初診に先立ち、精神保健福祉士が30分~1時間ほどかけて、相談者から本人の様子について聞き取りをする。初診では、臨床心理士が「長谷川式簡易知能評価スケール」などの認知機能のスクリーニング検査をする。放射線部はCTやMRIを撮り、臨床検査部は血液や脳波、心電図などの検査をする。看護師は本人や家族が混乱することなく受診できるよう笑顔で接する。

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 「物覚えや日付の感覚が以前より不自由になっているようです。新しい出来事を覚える働きをつかさどる脳の一部が衰えていることがMRIで分かりました」

 涌谷はある日、患者と家族にこう告げた。病名だけを断定調で告げないのが涌谷のモットー。病態や所見を分かりやすく表現することを心掛けている。

 診察の初めには、本人は「物忘れで困っていない」「何でも自分でできている」と平静を装いがちだが、「認知症と言われたら嫌だ」「しかられてばかり」「人に迷惑を掛けたくない」と、自身の変化や周囲との関係性に戸惑っている人も少なくない。

 「医師の態度や話し方一つで、患者さんは心を許してくれたりくれなかったり。医者がご本人やご家族の苦悩や苦労を受け止め理解しようとすれば、胸の内を語ってくれ、前向きに病気に向き合ってくれる」との信念を持つ。

 「脳を活性化させる薬を飲むことも必要ですが、体を動かし、心を動かすこともとても大切です。上手に介護サービスを使いましょう。保険料も払っていますからね」「眉間のしわより笑顔を増やしましょうよ…」。ユーモアを交えて話すと、患者と家族からも笑みがこぼれた。

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 認知症医療に携わり四半世紀。豊富な臨床経験を院内外に還元している。

 一昨年6月には院内に看護師、介護士、薬剤師、栄養士、リハビリスタッフらで構成する認知症サポートチームを結成。骨折や肺炎などで入院した認知症患者や医療スタッフをサポートしている。今年からは認知症の人の日常生活を支えるためのポイントを学んでもらう家族教室を毎月開いている。

 医療・介護職や行政職らの多職種が参加する事例検討会にも積極的に参加し、「顔の見える関係」の一員になるよう努めている。そのかいあって、最近ではケアマネジャーが受診に同伴してくれるケースが増えているという。

 「認知症になったらおしまいと言う人がいるが、そんなことはない。周囲の理解とサポートがあれば、病を持ちながらその人らしく過ごすことができるんです。私はその伴奏者であり、伴走者のようなものです」(敬称略)

◇ 倉敷平成病院(倉敷市老松町4の3の38、086―427―1111)

 わくたに・ようすけ 鳥取県立米子東高、鳥取大医学部卒、同大学院医学研究科内科系専攻修了。同大病院、松江赤十字病院、カナダ・トロント大神経変性疾患研究センター留学、東原整形外科病院(福岡県大牟田市)を経て、2012年4月、倉敷平成病院に赴任し神経内科部長を務める。13年4月から認知症疾患医療センター長を併任。日本神経学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医、日本内科学会認定医。医学博士。50歳。

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最終更新:8月1日(月)11時8分

山陽新聞デジタル