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解体工事で隣人とトラブル。賠償責任は誰にある?

SUUMOジャーナル 8月1日(月)7時30分配信

日々あちこちで行われている建物の解体工事。市街地での重機を使った解体工事は、隣地だけでなく、周辺にさまざまな形で迷惑を及ぼす。隣地建物へのヒビや損傷といった直接被害だけでなく、騒音、振動といった被害も含まれる。その被害は誰が、補修や賠償の責任を負うのか。被害を受ける側だけでなく、解体工事の施主(発注者)の立場になった場合でも、注意しておきたい点、トラブルの解決方法などを、この問題に詳しいあべの総合法律事務所の弁護士 中森俊久さんに聞いてみた。

■民法によれば、原則として工事の発注者は責任を負わないとされるが……

解体工事によって生じた隣地建物の被害の責任は、工事の発注者ではなく、実際に工事にあたる請負業者にある。つまり、工事の発注者は、請負人が第三者に加えた損害を賠償する必要がないのが原則だ(民法716条)。ただし、と中森弁護士は言う「解体工事を依頼するその注文の内容や、指図に過失がある場合、責任を負うことになります」。どういうことだろうか?

「例えば、費用を安く済ますために、無理な工程や無理な方法で工事発注した場合、適切な指示や注文をしなかったこと自体が過失となり、注文者に責任があると認められることがあります」

ということだが、解体工事の作業の中身に関して、一般の人は知識をもっていない。工事の内容などに踏み込んで無理な発注をするということは、考えにくい。ではそんな心配は無用なのか。

「確かに最初から”無理な発注”をするケースはあまりないかもしれません。でも、こんな例はどうでしょう。解体工事が原因で隣家の壁にヒビが入ったとしましょう。隣家の人が、発注者である住民に報告や相談をした。そのとき、いえ、私は責任ありませんから、工事会社に言ってくださいと、その場を済ませ、自分からは工事会社に何も伝えない。そして、工事はそのまま進み被害がさらに大きくなったとしましょう。この場合、何もしなかったこのこと自体が、過失と認められる場合があります」

つまり、最初に被害を知った時点で、放っておけば被害がさらに大きくなると容易に予測できたのに、工事会社に伝えることなく工事を止める責任を放棄したことが、過失と認定される場合があるという訳だ。

直接言われた場合、業者にその内容をきちんと伝えて、対処を指示することが求められる。「発注者は請負人が第三者に加えた損害を賠償する必要がないという原則」を知っていたとしても、発注者として解体工事にまつわるトラブルに関与しないわけにはいかないのだ。

工事会社は工事期間中だけの関係だが、隣人関係はその先もずっと続く。良い隣人関係を築いていくことは、暮らしていくなかでメリットも大きい。被害を受けた側でも、発注者の住民に話をもっていくことは間違いではない。まずは被害を受けていることを知ってもらうことが、何より重要だ。

■トラブルを防ぐため工事の前には近隣へのあいさつを

解体工事には、建物の損傷といった直接被害のほかに、騒音や振動といった迷惑も起こる。でも、「騒音や、振動といった被害の賠償は裁判でも認められることはなかなか難しい。解体工事そのものが特別なことでなく、広く一般に行われることでもあり、常識的には受忍限度と認められることが多い」と中森弁護士は言う。

つまり、隣の家が解体工事でうるさいと思ってもそれは仕方のないことだと言えるし、だからこそ発注側としては“迷惑をおかけしています”という姿勢がトラブルを未然に防ぐのだ。そのためにどうすればいいのだろうか。

「近隣へのあいさつも、工事会社任せにしないで、できれば同行してほしいですね。建物が接近して建っている場所、大型車両の進入が難しいなど、条件が悪い場所での解体工事に際しては、約束事を書面にして近隣の協力を得ることです」

「工事協定書」がそれだ。工事期間、作業時間、車両侵入方法、警備員の配置などを書面にして、発注者、施工者、近隣住民の間で約束事として残しておく。技術的に隣家の建物へ、何らかの影響がありそうな個所は、工事前の写真の記録も大切だ。

注意しておきたいのが、事前の話し合いで、「被害があった場合は “○○(発注者)は工事会社と連帯して責任を負います”というような内容の“念書”を書いてはダメです」ということらしい。あくまで、解体工事発注者には損害賠償責任はないのが原則だ。

以上のことは、当然解体工事を行う会社の協力なしではできない。「近隣対策にも精通した信頼できる会社を選ぶことが、まず重要ですね。後々その会社とのトラブルにならないためにも、建設業法に定められた工事請負契約書を作成することも肝心です」と中森弁護士は言う。

原則は隣人同士には責任は及ばない。しかしこれは「お隣さん」との問題だ。被害がなくても迷惑は及ぼす。法的責任はなくても道義的責任はある。「ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」という姿勢が何より大切なのではないだろうか。お隣さんにもお向かいさんにも、隣人関係を考えた対応が必要になると思う。

●取材協力
あべの総合法律事務所 弁護士 中森俊久さん

コハマジュンイチ

最終更新:8月1日(月)7時30分

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