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【連載】フルカワユタカはこう語った 第9回『ロマン主義』

BARKS 8月3日(水)22時45分配信

たった3本しかライブをしなかった昨年と比べれば、もう既に12本(うちサポートギター9本ではあるが)もライブをやっているということで、演奏家フルカワユタカとしては間違いなく満たされた音楽生活を過ごしている2016年。

◆<フルカワユタカ presents「play with B」~with SEE YOU~> 画像

一方、楽曲制作においては、先日解禁されたCharisma.com (カリスマドットコム)の「もや燃やして」1曲のみという、自分でも呆れるほどの寡作ぶり。悠々自適な隠遁生活で作り溜めていた数々のデモ達は、時をおいてしまったことでほとんどが熟成庫行きしてしまったし(発表に対して一番動機付けしにくいのが2~3年前の作品)、何より今のオープンメンタル由来で曲をつくりたいのだが、プライベートスタジオを出るなど物理的な制作環境の変化も相まって作曲家フルカワユタカの戦況は大変厳しい。とゆうか、なんでもう8月なのさ。僕からしたらまだ3ヶ月くらいしか経ってないイメージだぜ2016年なんて。

「生まれた当日の体感は1/1日。2日目は2日生きた内の1日なので1/2日。1歳の誕生日では1/365日。3650日経験した10歳の誕生日には、1日に対する体感時間は生まれた日と比べると3650分の1=160秒になる」

中学生の頃、夜更かしして聴いていた『ウッチャンナンチャンのオールナイトニッポン』でナンチャンが語っていた“大人の1日が子供のそれより短く感じる原因”についての一節をふと思い出した。この理屈で言えば、恐ろしいことに今の僕は10歳の頃の約4倍、20歳の頃の約2倍のスピードで1年を消費していることになる。かつて年間80本強のライブをこなしながらもシングル数枚とアルバムをしっかりリリース出来ていた僕が、今まったくそのような芸当が出来なくなってしまっていても、“であるならば”やむを得まい。と、コーヒーを飲みながらこのコラムを書いている。1弦の切れたエレキを脇に捨てて。

中学を卒業する間際に、少年マガジンの通販で売ってるような偽テレキャスを(数千円で売ってもらったか、ただ単にもらったか覚えていないが)アズマ君から手に入れたのが僕のギタリスト人生の第一歩だった。高校に進学し、偽テレキャスを持っているからという根拠のない仲間意識だけで布袋信者のサイトウ君という6弦有段者と僕は友達になった。その後、サイトウ君には不要だったヤングギター4月号『レッドツェッペリンIV特集』を譲り受けた瞬間から僕の人生は今に至るまで完全に“ロック”されることとなる。駄洒落ではなく本気で。

高校一年生の最初の夏休み、偽テレキャスが恥ずかしくなった僕は、“プロになるのなら初めからプロと一緒のモノを使うべきだ”というコレまた根拠のない理由で、ジミーペイジと奥田民生が使っていたレスポール(とはいえグレコのコピーモデル、とはいえ7万円)を買った。ギターと一緒にYAMAHAのカセットMTRとBOSSのDR-5というリズムマシンも購入した。まだ、ギターもろくに弾けない僕に作曲機材はまったく必要無かったのだが、ツェッペリンに瞬殺され、“もはやこの道しか”と妄信するロック馬鹿には“遅かれ早かれ手にするのだから貯金があるうちに買っておく方が得策だ”という発想しかなかった。

実際僕は本当にロックにうなされていた。友達やそれにまつわる青春エピソードはほとんど存在しない修行僧の様な、風邪をひいてずっと学校をさぼっている様な、楽しいのか苦しいのか分からないそんな高校生活だったが、とにかく止むに止まれなかった。16歳から18歳にかけて、1日9時間のギター練習のかたわら、僕は無名の名作を30曲くらい作った。ハードロック調のギターインストが主ではあったが、雷鳴や虫の声を多重録音したものにリズムをのせた曲があったり、逆回転させた音だけで作ったインダストリアル風な曲があったりと、今の数万倍は実験的な精神でもって無責任かつ高感度な音楽づくりをしていた。

上京して大学でバンドを組みボーカルをとるようになると、僕の作曲手法は“宅録ではなくバンドである、という構造上の理由”と“演奏している音楽のジャンル(主にメロコアやパンク)”とから“弾き語りのフォークソングをバンドでひたすら激しくしてみる”という方法に変化した。この手法は初期ドーパンの『Performation』というアルバムまでメインスタイルとして続く。『Performation』の次作にあたる『PINK PaNK』で僕たちはプロデューサーに田上さん(FRONTIER BACKYARD SCAFULL KING、KEYTALKのプロデューサー等)を迎えた。バンドで録ったリハ音源を元に田上さんが、構成 / リズム / コード等を練り直していく。月並みな例えで恐縮だが、いわゆるダイヤの原石的な女子に抜群の化粧をほどこしてもらう感じだ。

この頃、僕の作曲スタイルは多少変化し、フォークソング持ち込み型に加えて(そもそも高校時代はそうだった)ギターリフから組み立てる手法も取り入れるようになる。具体的には「Transient Happiness」と「Tabloid Pub Rock」がそれだ。ちなみにこの2曲、当初はどちらもシンプルなビートパンクだったのだが、田上さんの提案によって「Transient Happiness」はあの打ち込みの形になり、僕たちの説明不要な代表曲となった。インディーズ最後の作品『WE IN MUSIC』の頃には、僕はメロディー本位な“フォークソング持ち込み方式”をなるべく避け、デモの段階からリズム / アレンジ / コード進行に楽曲の核を求めるようになる。

そうして出来たデモを田上さんと一緒に精度を高めていくというのがあのアルバムの一連だった。前述の例えになぞらえるなら、化粧の仕方も教わりつつ(盗みつつ)全ての行程を一緒に作り込むようになったといったところか。そういった意味で、僕個人としては断然『PINK PaNK』より『WE IN MUSIC』の方が田上さんと共につくった意識が強い。今だからニヤけながら思い返せるが、本気で「打倒メロコア」「打倒<AIR JAM>」なんて口にしながらつくっていた。

メジャーに行ってからの僕たちはプロデューサーをたてなかった。僕は、田上さんから学んだことを元に「打倒『WE IN MUSIC』」を掲げて年間80本以上のライブをこなしながら沢山の曲を書き続けた。認めてもらえないだろうということを分かった上であえて言うが、数曲はそれでも越えたと自負して“は”いる。と、ここまで書いた所で、革新的なギターリフに出会える予感がしたので、1弦を張り替えたエレキを手に作曲という戦場へ舞い戻ってみた。結果、“いっそ全ての弦が切れてしまえばいい”という気持ちにしかならなかったので、Pro Toolsを潔く終了して『BARKSコラム第9回』と書かれたファイルをダブルクリックする。

先日、「作曲する気が全然起きなくって、俺って駄目だな~ってなっちゃってさ。でね、どうせ家で己を腐しているだろうフルカワ君と喋れば、自分はまだマシな方だって自信つくかなって思ってさ」という共通の知人を数人取り込んで絶交しても許されるレベルの失礼な電話を、髭の須藤君がかけてきた。が、実際家で己を腐していたし、彼に“親しき仲にも”を諭す意味がないのは重々承知していたので「そうかもしれないですね」と意味不明な返答をしつつ話を聞いてあげることにした。

最近の僕らは、自分の才能を“記録”せねばという高い志よりも、ツアーやライブをする為の“宣材”をというモチベーションで曲を書いている気がする。制作に求められているのはロマンなどという香ばしいものではなく、作業の合理化(例えばデモの完成度を高めることでレコーディングをいかに簡素/質素化できるか)であるし、作品自体も実験的なものよりも実践的であることの方が重視される。自宅やリハスタでのボーカルREC、セルフミックス、演奏のエディット、ギターのライン録音、打ち込み楽器の多用。こんなことで楽曲に魔法がかかるわけがない、『Led Zeppelin IV』がつくれるわけがない。それどころか、出来上がったものがデモより下回ることだってある。テクノロジーが奪っていった制作費(=音源にお金を払うという文化)をテクノロジーが補うという不毛で先細った道を僕たちミュージシャンはトボトボ歩いている。

フェアじゃないんだよな。あの頃と全然制作の環境が違うのに、昔の方が良い曲書いてたとか、刺さる曲書いてたとか。そんなの当たり前だ。たっぷり時間をかけてレコーディングさせてくれれば、今だって、いや今だからこそ信じられない様な名曲をつくってみせるとも。とまあ、これはあくまでも僕の意見なのだが、概ねコレに近い内容を彼も話した。完全に異論は無かったが「て、フルカワ君が愚痴ってたんだよね」と誰かにこぼされるのは面倒だったので「そうかもしれないですね」と曖昧に返しておいた。「あ、着いた。フルカワ君も頑張ってよ」。僕との会話で作曲意欲を取り戻せたかどうかは定かではなかったが、どこかしらに到着したらしい彼はそう言って電話を切った。

しかし、よくよく考えれば昔は僕だってたった4ch(+ピンポン機能付)しかないテープのMTRでも興奮しながら音楽をつくれていたわけだろ。であれば、レコーディングの簡素/質素化だけが僕から制作のロマンを奪っているとは言えないのではないか。歳をとることで圧縮されたのは時間だけでなく感動なども同様なのかもしれない。この苦しい戦況を打開する手段は、残念ながら当面思いつきそうもない。だが、そんな中でもいずれ必ず生み出せるという確信があるならば、自らを腐してしまう今の軟弱なメンタリティーにこそむしろロマンティシズムがあるのかもしれない。そもそも“作品をつくる時、いたずらに他者や環境に左右されるべきではない”というのが僕の持論だ。散々愚痴っておいてなんだが。

アコギを出してC、G、F的な鼻歌をスマホで録ってみるかな。まずは「打倒カセットMTR」からだ。

■アコースティックイベント<PLAYTHINGS TOUR IN SUMMER SPECIAL>
2016年8月11日(木・祝) 東京・新代田 FEVER
OPEN 14:00 / START 15:00
出演:潮田雄一、渡邊忍(ASPARAGUS/Noshow)、Keishi Tanaka、TGMX(FRONTIER BACKYARD) 、日高央(THE STARBEMS)、フルカワユタカ
(問)FEVER: 03-6304-7899 http://www.fever-popo.com/
▼チケット
ローソンチケット 0570-084-003 (Lコード: 70957)
イープラス http://eplus.jp
FEVER店頭
http://www.niwrecords.com/

■<SHELTER 25th Anniversary~THE REAL THINGS~>
2016年10月2日(日) 東京・下北沢SHELTER
OPEN 18:30 / START 19:00
出演:夜の本気ダンス / フルカワユタカ
(問)下北沢SHELTER 03-3466-7430
▼チケット
発売日:2016/8/7
前売¥3000 当日¥3500
※オールスタンディング / ドリンク代別¥500 ※当日券:16:30より販売予定
ローソンチケット / e+ / SHELTER店頭

最終更新:8月3日(水)22時45分

BARKS

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。