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ドーピング・スキャンダルで、プーチン支持率はむしろ上がる?

ニュースソクラ 8月2日(火)14時0分配信

ロシア選手団壮行会に漂う、臥薪嘗胆の空気

 27日、モスクワ・クレムリンの「アレクサンドロフの間」でリオデジャネイロ・オリンピック大会のロシア選手団壮行会が開かれた。

 黄金の装飾に輝く豪華絢爛な会場だったが、出席したウラジーミル・プーチン大統領と選手団の表情は固く、意気揚々とした壮行会とはならなかった。

 会場の雰囲気を一言で表現するなら、「臥薪嘗胆」であろうか。ドーピング・スキャンダルを理由にした多くのロシア人選手への出場禁止は、証拠に基づかない不当な処分だ。しかし、抗するすべはなく、ロシア・スポーツ関係者は団結艱難辛苦に耐えていくほかないといった感じだ。

 選手団を代表して棒高跳びのイェレナ・イシンバエバが挨拶した。国際陸上競技連盟(IAAF)はロシア人選手の陸上競技参加を禁止する決定を下しており、イシンバエバも出場できない。彼女は挨拶で涙を流し一瞬言葉に詰まりながらほかの出場選手の健闘を祈った。そしてプーチン大統領が選手団を支援してきたことに感謝した。

「プーチン大統領がドーピング問題に適切に対応しなかったから多くの選手が出場できなくなった。プーチン大統領の責任は重い」といった声は選手たちを含めロシアのスポーツ関係者からは基本的に聞こえてこない。

 民間の世論調査機関、レバダ・センターが6月に実施した調査では、プーチン大統領の支持率は81%。今月(7月)に入り、IAAFや国際オリンピック委員会(IOC)の対応が決まり、ドーピング・スキャンダルの注目度が上がった。その動きを受けた世論調査の結果はまだ明らかではないが、想像するに、プーチン支持率は上がることがあっても下がることはないだろう。

 ロシアが外国からのバッシングで窮地に追いやられていると国民が感じれば、むしろプーチン大統領の下で結束を強めようとするだろう。イシンバエバの挨拶にもそうした雰囲気が感じられた。

 プーチン大統領は今月18日と27日の2回、ドーピング問題について意見を述べた。次のようにまとめられるだろう。

・IAAFの決定の根拠とされた世界ドーピング防止機構(WADA)の調査が信用のおけない人物の証言に基づいており、しかもロシアが不正を働いたとする証拠が示されていない。
・政治がスポーツの世界に介入し、ドーピング歴のない選手まで出場禁止にし、ロシア人選手を差別している。
・ロシア人選手に集団的責任(連帯責任)を負わせ、推定無罪の法の原則をねじ曲げている。

 これほどの不公平な扱いがあっていいのかと出場禁止処分に強く反発していることがわかる。ロシアは今年1月から選手の尿のサンプルを英国に送り、英国で検査してもらっており、検査でシロの選手までなぜ処分するのかとの思いもある。

 ドーピングが良くないことはロシアも認めており、プーチン大統領は国際機関と協力し防止に努めると強調した。

 だが、プーチン大統領、ビターリー・ムトコ・スポーツ相もあまり謝罪しない。日本であれば、証拠の有無にかかわらず、とにもかくにも「このような事態を招いたことは、不徳のいたすところであります」などといった謝罪の言葉が出るところだが、WADAやIAAFの報告、決定を強く批判するばかりである。

 ロシアもWADAが2014年のソチ冬季オリンピック大会の際に検査の不正を指示したユーリー・ナゴルヌィフ・スポーツ省副大臣を停職処分にするなど一応対応している。しかし、自ら率先して本格的な捜査に乗り出すとの雰囲気は感じられない。WADAは治安機関の連邦保安庁(FSB)も関係した国家ぐるみで不正を働いていたと告発しているのだから、批判、反発だけでは国際的に納得を得ることは不可能だ。

 今はとにかくロシアへのバッシングが正義であると感じられるほどにドーピング問題は盛り上がっているが、IOCを始めスポーツに関係する国際団体は、連帯責任、推定無罪、証拠の提供、正当な法の手続き(due process of law)といった観点からの議論、検証をオリンピック大会が閉幕して熱が冷めた後に取り組む必要もあろう。

■小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。
現在、国際教養大学客員教授。

最終更新:8月2日(火)14時0分

ニュースソクラ