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EU離脱で話題になったイギリス、その住宅事情とは?

SUUMOジャーナル 8月2日(火)7時30分配信

2016年6月、世界中を騒がせる大きなニュースとなったのが、英国の「EU離脱」問題。ニュースが発信された日、インターネットはもちろん、その後も各メディアでの報道が続いた。大方の予想を覆し、英国国民が「EU離脱」を選んだ背景には、どうやら苦しい英国の住宅事情が影響したという声がある。庶民にはちょっとやさしくない(?)、ロンドンの住まい事情について聞いてきた。

■離脱派が訴えた「移民が増えたから家賃が上がり、生活が苦しい」

今回、英国の住宅事情について教えてくれるのは、ニッセイ基礎研究所の佐久間誠さん。各国の不動産市況をREIT(不動産投資信託)や経済指標などのデータをもとに分析しているアナリストだ。さっそく聞いてみましょう、今回の英国の国民投票の結果に、住宅事情は影響しているのだろうか。

「結論からいえば、イエス、です。ただし、それは移民が増えて家賃が高騰した! だから離脱だ! というEU離脱派のロジック/アジテーションが受け入れられてしまったからなのですが、冷静に見てみると、実はそうでもないのです」と解説する。

というのも、英国の住宅事情は2000年代に入ってから活況が続き、住宅価格はなんと2.5倍にも上昇。これに賃金がともなっていれば問題はないのだが、特にリーマン・ショック以降、賃金の上昇率が住宅価格の高騰に追いつかなかった。こうした「家が買えない」「家賃が高くなる一方だ」という不満・不平のはけ口として、「こんなに住宅価格が上昇したのは移民のせいだ!」と離脱派は主張したのだ。

だが、実際に住宅価格の高騰要因となったのは、主に(1)海外からの投資資金の流入、(2)2000年代の金融緩和などによって金利が下がり、住宅ローンが借りやすくなり、住宅需要が高まった(3)新築が着工できず、そもそも需要と供給のバランスが合っていない、という点にあるという。

「ロンドンの住宅価格の上昇が続いたことで、各国の投資家、具体的にはロシアや中国、中東の富裕層がロンドンの住宅を購入するなど、資金の流入が続きました。世界中の富裕層がロンドンの物件を購入しており、立地によっては1600m2で250億円の値段がついたという話も。ちょっと想像がつかない世界ですよね(笑)」

日本では200m2で15億円という物件が話題になったが、ロンドンのそれは同じ200m2に換算しても約30億円と倍の差。これは確かに庶民には手が届かない世界といえる。

■需要があるのに新しく物件を建てられない

もともと、持ち家志向が強いという英国人。現在、持ち家率は65%と日本とほぼ同程度だが、一時は70%を超えたこともあったという。

「イメージとしては、日本より一次取得の年齢が早く、30歳~35歳くらいまでに一度家を買い、その後、売却してどんどん広い家に住み替えていく、という感じでしょうか。日本にかつてあった “住宅すごろく”そのものですよね。10年間所有していたら不動産価格が2倍になるんですから。早く買おうとなるのが自然だと思います」

加えて、前述したとおり、金利の低下や住宅ローンの積極的な貸し出し、政府による住宅取得施策などもあり、家を買わねばソン! という認識になっていったようだ。確かに、筆者にも資産に余裕があれば買いたくなるほどである。

「英国では、景観や環境を守るための建築制限が厳しいうえに、市民の反対運動もあり、年間新しく25万戸必要だといわれているのに、実際に着工できるのは15万戸ほどだといいます。日本でいうなら各種景観規制のある京都で、さらに反対運動を盛んに行う市民がついてくる感じでしょうか」

投資家や実際に住みたいという人の需要が根強い一方で、新築が供給できないとあれば、さらに住宅価格も高騰するというもの。すでに不動産を所有している人はいいが、持たない人、購入したい人にとっては、これは苦しいところだ。

■一番被害を受けるのは、英国の若者たち。今後はどうなるの?

こうした状況のなかでいちばんの問題点は、若い世代は「住宅すごろく」のスタートさえできないこと、だと佐久間さんは指摘する。

「収入のうち1/3を家賃に充てる、というセオリーは各国共通ですが、家賃が高騰しているロンドンでは、半分以上が家賃という人もいるそうです。すると住宅購入資金の頭金が貯められない。英国では日本以上に頭金が重視されるので、これは非常に痛いことで、家を買うという、住宅すごろくのスタートラインにも立てないんです」

この家を持つ人、持たざる人の格差が、才能や努力の結果ではなく、単純に生まれた時期だけの違い、というのがまたつらい。加えて、賃貸は基本的には仮住まいとされ、半年や1年で更新され、その都度、家賃が上昇することも。さらに賃貸物件はもともと数が多くなく、ファミリータイプはさらに少なめ、質も分譲と比較すると低くなるという。

「今回の投票結果でいちばんの被害者といえるのが若者です。若い世代は約70%がEU残留に投票し、高齢世代は60%以上が離脱に投票しました。高齢世代は持ち家率も高く80%を超えていて、ある意味で逃げ切ることができますが、若い世代は違います。住まいも賃貸だし、職も失うかもしれない。先を見通せないという思いはあるでしょうね」。日本も若い世代を中心に住まいや職の不安定さが問題視されているが、英国も同じというわけだ。

最後に、今後の見通しについて、聞いてみた。
「不動産市況の数値はすぐに出てこないので、今はなんともいえません。ただ、先行きに対する不透明感が増したのは確実なので、バラ色の未来ではないことはいえると思います」という。

これまで欧米の住宅事情といえば、古い家を手入れして大切に暮らす、美しい景観などと何かと「日本のお手本」にされてきたが、こうして聞いてみると、そんなに甘いものではないことがよく分かる。日本では景観や住宅の寿命など問題点もあるが、「働いて、家を買う/借りる選択肢がある」という意味では、まんざら捨てたものでもないのかもしれない。

●取材協力
・ニッセイ基礎研究所

嘉屋恭子

最終更新:8月2日(火)7時30分

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