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『<インターネット>の次に来るもの―未来を決める12の法則』存在することは、変化し続けること

HONZ 8月3日(水)10時31分配信

「未来を予測する最善の方法は、それを発明してしまうことだ」とは、かの有名なアラン・ケイの言葉である。確かにそれは正しいかもしれない。しかし、この言葉が本当に説得力を持つのは、偉大な発明を成し遂げた人物によって語られた時だけである。

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本書の著者ケヴィン・ケリーなら、このように言うだろう。「未来を予測する最善の方法は、それを発見してしまうことだ」と。ならば、未来を発見するとは一体どのようなことか?  手掛かりは「プロセス」へ着目することにあった。

本書『『<インターネット>の次に来るもの』は、未来を決める12の法則についてまとめた一冊である。過去、現在、未来へと移り変わるテクノロジーの変化を進化論のように観察していくと、一定の法則性が見つかるのだ。

12の法則は、いずれも現在進行形の動詞であり、具体的にはBecoming(なっていく)/Cognifying(認知化していく)/Flowing(流れていく)/Screening(画面で見ていく)/Accessing(接続していく)/Sharing(共有していく)/Filtering(選別していく)/Remixing(リミックスしていく)/Interacting(相互作用していく)/Tracking(追跡していく)/Questioning(質問していく)/Beginning(始まっていく)というもの。未来へ向かう世界の中で、あらゆる概念が動詞化していく。

不可避というキーワードが全編を貫いていることからも分かるように、著者ケヴィン・ケリーのテクノロジーに対する態度はどこか受け身であり、それでいてポジティブだ。それは前著『テクニウム』でテクノロジーそのものに進化する力を見出したことを、愚直なまでに受け継いでいる。人が天候や災害といった自然環境の変化を受け入れるしかないものと観念しながらも、自然を心から愛し続けることに通じる点があるだろう。

その姿勢は、第一章「Becoming」の記述からも伺い知ることができる。止まることのないアップグレードと、永遠になっていくテクニウムの性質により、未来に渡って、誰もがずっと永遠の初心者になるという。だからこそ未来予測は多かれ少なかれ間違うものであるし、その予測不可な部分も含め、予測可能であるというわけだ。

そして本書では、テクノロジーの変化一つ一つを追いながら、あらゆる角度から人間の本質的なものへと迫っていく。たとえば、Filtering(選別していく)。フィルタリングの必要性が高まり続ける背景には、際限がないくらいのモノの低廉化という現象がある。安価なものに溢れかえったこの時代に、唯一コストを増加させているのが人間の経験であることは言うまでもない。ゆえに経験の価値は、飛躍的に向上しているのだ。

しかし、同時にInteracting(相互作用)という変化も起こっていることが、未来をもっと複雑化させる。インタラクションによって急速に進化するVRが安価で潤沢になっていくと、VR自体が「経験」の生産工場へなっていくのだ。さらに、画像や音楽がその道を辿ってきたように「経験」自体が発見可能性や巻き戻り可能性という特性を帯び(Remixing)、定量化された自己が確立されていく(Tracking)。

つまり、テクノロジーの進化がもたらした人間の変化を、もう一度テクノロジー側が吸収することにより、さらに人間のあり方へ変化を加えていく。まさに、テクノロジーと人間の共進化という構図が浮かびあがってくるのだ。

また、これら一つ一つの動詞を前後につなぎ合わせて見ていくだけでなく、現在起きている様々な事象を組み合わせとして捉えることも可能だ。本書の12個の法則の一つ一つは、イコライザーについたレバーのようなものであり、その設定次第で、私達の未来はどこまでも大きく変化する。

たとえば本の世界であれば、Flowing/Screening/Accessingといった組み合わせが軸になってくるだろう。ページ、版、物体などの本固有の固定性は流動的なものへと変わり、背表紙の付いたページの束は読書端末へと移行し、本の買い方もサブスクリプションなものへと変化しつつある。また、現在大ブームのPokemonGoなら、Screening/Interacting/Trackingといった要素の組み合わせによって読み解くことができるかもしれない。

発見があるから、発明がある。この二つの切り分けによって、不可避なものを受け入れながら、自ら運命を切り拓くことができるのだ。だから未来は明るいし、気づいた時が始め時である。

その冷静な語り口とはうらはらに、書かれている内容は実に躍動的だ。読書もまたプロセスが全てであり、ページをめくるたび、未来にリアリティが加わってくる。同じ景色が未来から現在へと逆回転で流れ出てくるような感覚があり、この体験は壮観の一言だ。未来になればなるほど、読み返したくなっていくであろう一冊。

内藤 順

最終更新:8月3日(水)22時16分

HONZ