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カルティエの値下げは円高継続のサインなのか

ZUU online 8/4(木) 16:10配信

7月下旬、時計や宝飾品などの仏高級ブランドのカルティエ(Cartier)が8月5日からほぼ全ての商品を平均して10%値下げすると発表した。

同社のリリースでは「昨今の為替変動を鑑み…」と、2016年の年初以来の円高が値下げの理由だとしている。ちなみに、前回、同社が値下げしたのは2010年10月、これも円高が主因だった。

■リーマン・ショックが吹かせた、高級ブランドの値下げ風

前回の値下げは、ユーロの為替レートがリーマン・ショック直前の約170円から約2年で120円程度へ、率にして30%近い大幅な円高となったためだ。当時は08年9月のリーマン・ショックを契機に世界の経済や市場が大混乱に陥り、モノやサービスの需要は大きく落ち込み、資金の貸し渋りが横行していた。

各国中央銀行は大胆な金融緩和策に踏み込み、政策金利を大きく引き下げることで、混乱を鎮めようとした。ユーロの番人である欧州中央銀行(ECB)も6回にわたって利下げしている。結果、ユーロ金利は09年5月までのわずか8カ月の間に4.25%から1.0%に急低下した。一方、日本ではすでに政策金利が0.5%と低かったため、2回の利下げで0.1%にするのが精一杯だった。このため円とユーロの金利差が急激に縮小し、これが対ユーロ円高圧力になった。

加えてECBは通貨供給量を増やす、いわゆる量的緩和も行った。日本はリーマン・ショックの影響が比較的軽微だったこともあり、そこまで大きくは踏み込まなかったのだが、この差もユーロ圏から資金が溢れ出し、円高につながる要因となった。何よりも、円が安全資産と見られていたことが大幅な円高を招き、同ショックのわずか半年後の09年3月には、114円まで急速に円高が進むことになったわけだ。

■ヴィトンやディオールが値下げに踏み切れば本物?

当時は、もちろんブランド品の需要も大きく落ち込んでいたため、日本で値下げすることで需要喚起を図った形だ。このときはルイ・ヴィトンやクリスチャン・ディオールなど他の大手ブランドの多くも値下げしたが、それでも下げ幅は総じて10%にも満たなかった。

対して、今回の円高は安全資産として買われている側面が、最も強いように思われる。というのも、日欧ともにマイナス金利となり、金利差は円高圧力の理由として、それほど強いものではないはずだからだ。また量的緩和に至っては、対GDP比で日本が最も積極的に行っていることから、むしろ円安要因になっているはずである。

だが、Brexit(英国のEU離脱)を始め、中国を中心とする新興国経済の不振など、先行きの不確実性が高まったことで、円が買われたと見られる。

前回と異なる点は、カルティエと並ぶ高級ブランドのヴィトンやディオールなどでは、今のところ値下げの動きがないことだ。実際、円の対ユーロレートは14年11月の年初来安値である約150円から、値下げ発表時点の116円台半ばへ2割強の上昇で前回より幅が小さい。また前回のように、100年に一度といわれた需要の落ち込みがあるわけでもない。並大抵の円高では値下げしない高級ブランドが、なぜ今それに踏み切るのか首をかしげる関係者は少なくない。

■カルティエの一手は吉と出るか、凶と出るか

カルティエが「大幅な」値下げを断行するのは、今後も円高が続くと見ているからだ、とのうがった見方もある。リーマン・ショックの反省から整備された制度で、金融機関の大規模な破綻は起きにくくなっている。新興国の外貨準備も厚くなっているが、それでも対ユーロでさらに円高が進むとすれば、ある要因が考えられる。

日欧の金融政策の自由度の違いだ。

日本の緩和策は手詰まり状態にある。日本銀行はまだ策があるというが、少なくとも市場はそう見ていない。先般の日銀の追加緩和にもかかわらず、想定と逆に円高に振れたことからも明らかだ。

かたや多くの政策カードを温存するECBが、追加緩和に踏み切ればユーロ安、すなわち円高圧力になる。Brexitによる英国やEUの実体経済への影響が大きければ、イングランド銀行(イギリスの中央銀行)とECBの緩和競争になるかも知れない。さらにドイツ銀行やイタリアの主要行など、欧州金融機関への懸念がくすぶっていることから、リスク回避で円が買われる可能性もある。

政治的リスクも欧州には少なくない。Brexitを受けて他のEU加盟国の間で、離脱論が高まる可能性がある。また、来年はEU中軸のフランスで5月に、ドイツでは10月に大規模な国政選挙が行われる。2カ国の選挙で、難民排斥やEU離脱などを唱える極右勢力が台頭すれば、極端な政策に走る可能性もあり、市場のリスクオフ姿勢が強まって円高が進む懸念が強まる。

今後、カルティエ以外の大手ブランドが値下げに踏み切るか否か。そうでない場合、カルティエの今回の値下げが凶と出るか吉と出るか。大いに注目したいところである。(上杉光、シニア・アナリスト)

最終更新:8/4(木) 16:10

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