ここから本文です

[EURO2016レビュー 1]ポルトガルに初戴冠をもたらした選手たちの想い

theWORLD(ザ・ワールド) 8月4日(木)22時50分配信

運を味方につけ、勝ち上がったポルトガル

 24カ国で争われたEURO2016は、ポルトガルの初優勝で幕を閉じた。

 なぜポルトガルが勝ったのか。最大の勝因は運を味方につけたことだろう。

 ポルトガルは決勝まで7試合を戦ったが、グループリーグは3分け、ラウンド16でのクロアチア戦と決勝のフランス戦は延長勝ち、準々決勝のポーランド戦はPK勝ちで、90分での勝利はウェールズとの準決勝しかない。これは異例の勝ち上がりだ。

 決勝トーナメントの組み合わせでも、ツイていた。開催国フランス、世界王者ドイツ、3連覇を狙う王者スペインなど優勝経験国が、逆のブロックに集中。グループリーグで苦しんだポルトガルがこちらに組み込まれていたら、決勝進出もあったかどうか。 もちろん、ただ運が良かったわけではない。ポルトガルには幸運を勝利につなげる力が備わっていた。

 1勝6分けという90分での勝敗は、ポルトガルが負けないチームだったことを物語る。フランスとの決勝に代表されるように、彼らは守備力によってEUROを制した。

 ポルトガルはルイ・パトリシオという大会屈指の守護神を擁していた。だが、キーパーだけで守り切れるほどEUROは甘くない。ポルトガルが崩れなかったのは、この国にはもともと、守備の文化が浸透しているからだ。

 スペインが2連覇を達成した前回大会、無敵の王者を120分無失点に抑え込んだのがポルトガルだった。PK戦で敗れたが、危険な縦パスを徹底して封じ込めた。その守備力は今大会も健在だった。この守りを徹底させたのが、サントス監督だ。

サントス監督こそが優勝の立役者だった

 サントス監督はキックオフからタイムアップまでほとんどの時間、コーチングエリアに立ち続け、険しい表情で戦況を見つめる。そしてわずかなポジションのズレも見逃さず、選手に厳しく指示を飛ばす。決勝でも前線のナニを呼びつけ、動きに厳しく注文をつける場面があった。

 恐らく選手たちは「うるさい爺さんだなあ」と思っているだろう。だがサントスに呼びつけられると、彼らは必ず近くまで寄って耳を傾けていた。それは「この監督の言うことは間違いない」と全幅の信頼を置いていたからだ。

 サントス監督こそがポルトガル優勝の最大の立役者。そう言っても過言ではない。

 フランスとの決勝戦、ポルトガルは序盤でエースのロナウドを失った。この非常事態にチームを救ったのが、サントス監督だった。的確に選手とポジションを変えてチームを落ち着かせ、むしろロナウドの退場からリズムが良くなった。

 そして、レナト・サンチェスとエデルを代えた79分の交代には鳥肌が立った。PK戦決着を考えても不思議ではない場面で、危険を冒して勝負を決めに行ったのだ。この大胆な交代が値千金の決勝ゴールを呼び込むことになった。

 有り余るタレントをまとめられず、勢い任せの試合運びしかできなかったデシャンと、つねにチームを掌握して限られた駒を最大限に使いきったサントス。監督力の差は明らかだった。

 さて、今大会のEUROは初出場国の健闘が光った。アルバニア、ウェールズ、スロバキア、北アイルランド、アイスランド。この5カ国はそろって初勝利を挙げ、アルバニアを除く4カ国がベスト16に進出。アイスランドは準々決勝、ウェールズは準決勝に勝ち進んだ。

 初出場国の目覚ましい躍進は、「健全な」ナショナリズムと無縁ではない。ワールドカップやEUROの常連国の選手たちは、長く過酷なシーズンを過ごしており、サッカーに倦(あぐ)んだところがある。

 初出場国の選手たちには、それがない。サポーターも含めて、大舞台で自国を誇示する機会に飢えているからだ。EUROの舞台に立つこと、そこでゴールを決めることは、選手にしてみれば末代まで語り継がれる武勇伝。その高揚感が彼らを奮い立たせた。ウェールズのベイルがいい例だ。レアル・マドリードに移籍して、名声と巨万の富を手に入れた彼は、チャンピオンズリーグの決勝まで戦い抜いたことで、疲れ切っていたはずだ。だがEUROでは、疲労を感じさせないパフォーマンスを見せた。それはウェールズのために戦う、というナショナリズムに突き動かされたからだ。

 強豪国の中でも、ポルトガルにはそれがあった。交代間際に見せたC・ロナウドの涙。なんとしても母国に初の栄光をもたらしたいという強烈な想いが、選手に伝播した。国の名誉のためにすべてを出し切ろうとする選手たちが、サッカーに倦んだ強豪国を倒すーー。EURO2016とは、そんな大会だったのだ。

文/熊崎 敬

theWORLD176号 2016年7月23日配信の記事より転載

http://www.theworldmagazine.jp

最終更新:8月4日(木)22時50分

theWORLD(ザ・ワールド)

スポーツナビ サッカー情報

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。