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3年がかりのDIYで築45年の和室が完全なるヨーロッパスタイルに

SUUMOジャーナル 8月4日(木)7時30分配信

日本の賃貸物件は画一的で面白みがない。そんな思いから、じつに3年がかりで築40年超の賃貸アパートをセルフリノベーション。唯一無二の理想的な空間をつくり上げたKさん。古びた和室からヨーロッパの伝統を受け継いだコテージスタイルへ、妥協なきこだわりを詰め込んだカスタマイズ部屋を取材しました。

■デザイナーズ物件住まいで抱いた不満がDIYへとかき立てた

千葉県松戸市のとある駅から徒歩約15分。一戸建てやマンションが並ぶなか、少し年季の入ったアパートがKさんのご自宅です。

2013年7月にここへ越してくるまでは、東京都内に住んでいたというKさん。それがなぜ、地縁もまったくなかったという松戸市に転居したのでしょうか。

「それまでデザイナーズマンションの部屋を転々としていたのですが、家賃も割高ですし、そもそも日本って同じようなデザインばっかりだなと思うようになったんです。もっと安くて満足度が高い部屋に住みたいという気持ちがふつふつと湧いてきました。でもいっこうに納得できる物件がなくて、それならボロボロの家でもいいから、自分でフルリノベしてしまおうと決心しました。そんなときに出会ったのが、この物件だったんです」(Kさん)

エリアにこだわらず、都心から1時間程度の場所でDIY可・ペット可の物件をネットで探していたところ、こちらの物件がヒット。不動産会社に、「何をやってもいい」と言われたことが決め手になったようです。

【画像1】写真上:昭和の香りが漂う和室部屋(写真提供/MAD City) 写真下:同じ部屋とは思えないほどおしゃれな部屋に。壁や天井には、グレーがかった「ムーンシャイン」という色をチョイス。米国の塗料ブランド『ベンジャミンムーア』の3600色、さらにホワイトだけでも150色ある膨大な選択肢のなかから、“ひとめ惚れした”という一色を採用した(写真撮影/飯田照明)

【画像2】写真上:築年数を感じさせるキッチン(写真提供/MAD City)写真下:19世紀ごろアメリカで発展したキリスト教団体「シェーカー」の住宅で取り入れられてきた「シェーカーズスタイル」を基調としたキッチン。シェーカーは装飾を排除した“シンプリシティ”を重んじていたことから、簡素で洗練されたデザインを生み出したんだそう。壁面には高めに切り出した木材の腰壁をホワイトにペイント(写真撮影/飯田照明)

【画像3】ブロンズをオイルにつけてこすった「オイルラブドブロンズ」と呼ばれる加工が施された、棚の取っ手(左)と蛇口(右)。金色がかったブロンズの下地を一度まっ黒なオイルを塗り重ねて、やすりで少し傷をつけているため、光の加減によって不思議な色味に変化する。こうした金具はすべて輸入している(写真撮影/飯田照明)

■本物のトラディショナルなデザインを忠実に再現したかった

物件を決めたときには、すでに漠然と部屋のデザインを思い描いていたというKさん。普段から『ELLE DECOR(エル・デコ)』などのインテリア雑誌を読んでいたことから、ヨーロピアンな住まいに惹かれていたとか。それもただの欧州テイストというだけでなく、「フランスの植民地で広まった住まい」と、かなり具体的なイメージをもっていたようです。住まいに対する、そこはかとないこだわりがうかがえます。

「居住空間は、フランス人が移民したルイジアナやベトナムなどで広まった『コテージスタイル』をイメージしています。日本の気候に似ている土地柄で培われてきたデザインを、忠実に再現したいと思ったんです。そのなかでも僕はフランスの文化をルーツにもつ黒人“クレオール”たちが確立した『クレオールコテージ』の再現を目指しました。普通、小さい家だとフローリングも幅を細くして、モールディング(壁面につける装飾的に加工した木材)も低い位置にするというのが基本ですけど、クレオールコテージの場合って小さい家に対してわざと、でっかい幅広のフローリングを使ったり、すごい高さにモールディングをつけたりするんです。空間自体を小さく、コンパクトに見せる逆のアプローチが面白いなと」

ちなみに、クレオールコテージはシンメトリーデザインの部屋がお約束。そのため、天井に梁がなく窓が対照的についているのも絶対に外せない条件だったそう。

ただ、「おしゃれ」とか「かっこいい」だけではなく、こうした歴史や文化を解釈してデザインを組み立てているのがKさんのスゴいところです。さらに、そのこだわりは部屋のつくり方にまでおよびます。

スタート時は工具を握るのは学生時代以来、「トンカチやのこぎりも使ったことがなかった」というレベルだったのにもかかわらず、すべての工程を一人でやり切ったといいます。

本物を知れば知るほどこだわりもふくらみ、当初は3カ月で終わらせる予定が、3年掛かってしまったのだとか。それに加えて、いまの日本の住宅事情に対する、若干の反骨精神もDIYのモチベーションになっていた模様。

「日本で輸入住宅を建てるとなると、なぜかイギリスやドイツのスタイルが多い。コテージスタイルの家をつくってくれる会社がないので、もう自分でつくってしまおうと思いました」

■施工方法はYouTubeにアップされた海外の動画で学ぶ

とはいえ、クレオールコテージならではの施工方法は、日本で広く知られているわけではありません。それゆえ書籍などの資料ではなく、おもにYouTubeで海外の人がアップしている動画を参考にDIYをすすめていったそう。フローリングに使用する床板の幅やモールディングのタイプ、壁板の高さといった細部にまでこだわりたいと綿密に計画を練ったため、本格的にDIYに取り組むまでに半年ほど時間を要したとか。

【画像4】フリークリエイターとして、CGアニメーションを手掛けているKさん。部屋のカスタマイズ用にパースもしっかりつくり込んだそう。さすがはプロのクオリティ(写真撮影/飯田照明)

さらに、日本の加工材では、なかなかお目当てのものが見つからないと分かるや否や、自分で加工するべく工具も海外から輸入をしたというからスゴイ。

【画像5】1m1000円ほどの木材をネットやホームセンターで購入し、ドイツから輸入した3台の機材を目的ごとに使い分けて切り出している(写真撮影/飯田照明)

【画像6】モールディングも“本物”のトラディショナルにこだわりたいと、イギリスから工具パーツを輸入。日本の工具とは微妙にニュアンスが異なるフォルムに仕上がり、明らかに見た目が違ってくるそう(写真撮影/飯田照明)

「仕事はフリーランスなので、平日の昼間に作業して夜仕事みたいなスケジュールで進めていました。解体に3カ月くらいかけて、最初はまず生活ができるようにとキッチンから取り掛かりました。だらだらとやっていたので、キッチンは1年くらい掛かってしまいました。最初は前の住まいから通っていたのですが、2時間くらい掛かるので、無理だと諦めて住みながら進めることに。並行して壁をペイントしたり、木材を加工したりしていました」

また、使う材料も“本物”にこだわってしっかり吟味した模様。

「日本のフレンチスタイルって、ほとんどがペイントを全部白にしちゃうんですよ。でもじつは、フランスでは白ってほとんどなくてフレンチグレーが多いんです。ただ、日本のペイントだと白かアイボリーか2択になってしまうので、『ベンジャミンムーア』(米国のペイントブランド)から自分の好みで、キッチンの壁はオレンジがかった『バレエホワイト』、部屋の壁や天井にはグレーがかった『ムーンシャイン』という色をセレクトしました。ちなみに、壁は最初に調整用のパテで塗った上に、仕上げ用のパテで塗ったので、2回塗って下地を整えました。
床材には、19世紀から米国で販売されている『オールドヴィレッジ』というウッドステインを浸み込ませています。国産のものだと微妙に本場のものとニュアンスが違うので、部屋全体で見るとそういったニュアンスの違いも分かってしまう。だから、材料選びは外国のものにこだわって選びました」

見えないところは国産の材料を、見えるところは全て輸入したものか、輸入の工具で加工した材料を使用しているそうです。なお、おもな作業としては、「木材加工」「フローリング・壁材張り」「ペイント」「パーツの取り付け」など。木材はホームセンターなどで1m1000円程度のものを購入したため安く抑えられたそうですが、キッチンのシンクやコンロ、ライトなどのパーツを輸入したり、機材の費用が高くついたりしたためDIY費用はトータルで120万円ほど掛かったとか。

【画像7】クレオールコテージでは、通称「ワイドプランク」と呼ばれる幅広の床材を使うのがマスト。約25cmという幅広の床材は日本では売っていないということで、自ら工具を購入して板から切り出した(写真撮影/飯田照明)

【画像8】現在唯一未完成となっているお風呂場。猫脚バスタブがかわいい。ドイツのメーカー『グローエ』のシャワーの設置はさすがに専門の業者に依頼したとか。壁はサンゴ色とオレンジを合わせたような「コーラル」という色にするか、イギリスの国鳥・ロビン(ヨーロッパコマドリ)の卵の殻のような青色「ロビンズエッグブルー」という伝統色にするかで悩んでいるそう(写真撮影/飯田照明)

■細部までこだわりながらも住まいに固執しない生き方を目指す

足かけ3年、おしゃれ雑誌の住まい特集で声が掛かりそうな部屋がついに完成。マイペースに進めていたそうですが、長期にわたるDIYゆえにときには心が折れそうになったこともあるようです。

「天井をペイントするのとか辛いんですよね。もう辞めたいと思うことはしょっちゅうでしたよ。でも辞めたら住めないですし、はじめたからには納得できる部屋をつくりたかったんです」。そう語るKさんですが、いずれはこの部屋をオフィスにしてトレーラー暮らしをしようと目論んでいるようです。

【画像9】ワイアーフォックステリアの愛犬と暮らすKさん。お気に入りの場所は、フランス製のアンティークデイベッド。ヨーロッパの南の方ではシエスタ(昼寝)をするのに使われているとか(写真撮影/飯田照明)

現状、日本の家は築年数がたつと価値がつきにくくなると言われています。そうした現状を冷静に見ながら、Kさんは長いローンを抱えるより賃貸に住むほうがいいと考えているそう。
なお、これまで趣味は「特にない」と答えていたそうですが、「最近はDIYって答えています。仕事と違う脳みそを使うというか。基本引きこもりなので、なんだかんだ楽しいんですよね」

マネをするにはなかなかハードルが高い事例ですが、せっかくカスタマイズに挑戦するなら、少しでもクオリティを高めたいところ。
そのひとつの策として、Kさんのようにデザインが誕生した歴史や文化を理解したうえで、カスタマイズのポイントを決めるのはアリかもしれません。そうした背景を踏まえることで、空間をより深みのあるものに仕上げることができそうです。

●MAD City

末吉陽子(やじろべえ)

最終更新:8月4日(木)14時53分

SUUMOジャーナル