ここから本文です

9月の日銀・総括的検証を予想してみたら……

ZUU online 8月5日(金)11時40分配信

「量」と「金利」の手段を使うことができず、ETF買い入れ拡大という「質」的な金融緩和に限定された7月28・29日の日銀金融政策決定会合。現行の枠組みでの緩和手段が限界に来ていることを示したと考える。

9月20・21日の政策決定会合で日銀が実施するこれまでの政策の総括的検証では、依拠してきた二つの前提が否定されるだろう。

■前提崩れ、2年で2%の物価上昇は不可能

一つ目の前提は、デフレを含め物価はすべからく貨幣的現象であり、需給ギャップの解消と2%への物価の押し上げは、主に金融緩和のみで可能であるということだ。

二つ目の前提は、財政拡大は金利上昇と為替高をもたらすために景気押し上げ効果がなく、逆に緊縮財政は将来の財政赤字・社会保障への不安を解消するため、安心効果があるということだ。

この二つの前提の下に、消費税率引き上げを含む緊縮財政による安心効果と、マーケットにサプライズを与える断固とした大規模な金融緩和の組合せだ。まずインフレ期待を2%へ上昇させ、そこでアンカーし、実際の物価もインフレ期待を追うように速やかに2%へ上昇させていくというロジックが維持されてきた。

しかし、緊縮財政は安心効果がないばかりか需要に下押し圧力をかけてしまう。資金調達部門である企業が、もはや貯蓄部門になっている状況では、日銀が間接的にマネタイズする企業貯蓄率と財政収支の合計、ネットの資金需要がアベノミクスの最大でも15兆円程度と弱い。ネットの資金需要の分しか金融緩和の量の効果は出ず、日銀の80兆円程度のマネタリーベースの増加という、大規模な金融緩和の効果も限定的であった。

結果として、インフレ期待が実際の物価を引っ張っていくより、実際の物価に沿う形でしかインフレ期待は上昇せず、「2年」という期限を設けて早期に2%の物価上昇を実現することは不可能であった。

■政府と協働時間の確保の必要性を確認するはず

総括的な検証では、2%の物価上昇を目指す目標は政府・日銀で設けたものであり、変更できない。政府が決定した経済対策にも、「日銀に2%の物価安定目標を実現することを期待する」という文言が入った。

「量」・「質」・「金利」という三次元を持った現行の金融緩和の枠組みは維持されるだろう。政府の意向に反して、量の削減や金利の引き上げなどの引き締め政策、と誤解されるような行動を日銀がとることは不可能だろう。

しかし、2%の物価目標は「2年」という期限を設けたものではない。中長期的に目指すものとされ、その実現まで粘り強く金融緩和を継続していくスタンスへ、変化するとみられる。

物価目標を早期に実現するためには、財政政策による需要拡大策、そして成長戦略と構造改革による企業部門の刺激策が重要だ。物価目標の実現のためには、政府との協働と時間が必要あることを確認することになるだろう。

日銀が、消費税率引き上げなどの緊縮財政が物価目標達成を阻害してきたこと、そして金融政策だけでデフレから完全脱却することは困難であることを認められるのかが焦点である。そして、2%の達成時期は、財政政策や海外経済・マーケットの動向にも依存すると判断し、早期達成には、政府にも一定の責任があることを示す可能性がある。

■2%の早期達成に向けて、責任をわかちあう日銀と政府

麻生財務大臣と黒田日銀総裁の会談では政府・日銀が協調してデフレ完全脱却を目指すことが確認された。G20でも財政政策の役割の重要性で合意しており、政府も異論はないと考えられる。

日銀も、「きわめて緩和的な金融環境を整えていくことは、こうした政府の取り組みと相乗的な効果を発揮するものと考えている」とし、ポリシーミックスの考え方に前向きだ。目標の早期達成へのスピードは、政府の財政政策に期待するというスタンスになろう。

金融政策から財政政策に、デフレ完全脱却に向けた政策の軸足は、移りつつあると考えられる。

8月の概算要求から始まる2017年度の政府予算の議論では、財政拡大の動きへの変化がみられるだろう。追加的な赤字国債を出さないというのは、本予算対比の話であり、既に赤字国債を発行している本予算自体では、赤字国債を財源とした財政拡大はいくらでもできることになる。

更に、2020年度のプライマリーバランスの黒字化は、フローでの単年での目標だ。2019年度までは赤字を大きくし、景気刺激を続けても問題にならないばかりか、それで景気拡大が強くなれば、2020年度の黒字化の可能性は高まることになる。

2017年度の政府予算編成に向けた骨太の方針から消えた言葉がある。昨年度まであった財政収支に対する、警戒感を示す「赤字」という言葉、そして歳出増加に対して「デフレ脱却・経済再生の中で、金利動向と財政収支にも十分注意する」という警句だ。政府の「経済再生なくして財政健全化なし」という方針がより純化し、財政緊縮から拡大に転じている。

2%の物価目標の早期達成に向けて、政府も一定の責任を引き受けることに前向きだろう。

■物価と名目GDP成長率を合わせたハイブリッド目標登場か?

9月20・21日の政策決定会合での総括的な検証では、財政政策、成長戦略と構造改革による企業活動の活性化で生み出したネットの資金需要を、ポリシーミックスとしての日銀の金融緩和の継続で、間接的にマネタイズしてサポートするというスタンスに転換すると考えられる。

金融政策において、ネットの資金需要の役割はこれまでほとんど意識されてこなかった。財政を含めた何らかの資金需要を、ヘリコプターマネーのような直接的なものではなく、間接的にマネタイズすることを躊躇しないことは、これまでの日銀の政策スタンスまたは、哲学からの大きな転換となる。

政府との協働をより強くするための枠組みとして、物価目標と名目GDP成長率目標を合わせた、ハイブリッド目標への動きもあるかもしれない。

内閣府の中長期の経済財政に関する試算では、経済再生ケースで安定的な名目GDP成長率は3.5%-4.0%となっている。日銀がコミットメントする2%の物価目標と、政府がコミットメントする成長戦略と構造改革による潜在成長率の+1.5%への引き上げを合わせて、+3.5%程度の名目GDP成長率を目指すコミットメントが加わってもおかしくはない。

2%の物価が困難でも、成長率が予想以上に加速すれば政策目標は達成可能である。原油価格が下落し物価が下がっても、交易条件改善は名目GDP成長率の押し上げ効果があるため、原油価格の下落に悩まされることもない。

骨太の方針の表題が「600兆円経済への道筋」とされ、名目GDPの拡大が政府の最重要課題であることと整合的だ。名目GDP(=総賃金)の拡大へのコミットメントが弱く見える中、政策により物価だけ押し上げて、家計に余計な負荷をかけるというインフレ政策が、不人気である側面も是正することができる。

■年末まで経済活動の停滞が続けば、再度大規模な経済対策が必要か?

海外投資家からみても、日銀のみで実現が疑われている単純な物価目標より、重要視される成長戦略の効果が見える名目GDP成長率の方が、日本経済・マーケットを評価する基準として使いやすいだろう。

政策決定会合には内閣府と財務省からの参加者もいるため、これまでのような形式的な論評ではなく、より深い議論ができる枠組みは既にある。今回の総括的な検証が、「量」・「質」・「金利」の現行の枠組みでの単純な追加金融緩和に、直接的につながることはないだろう。

10月31日・11月1日で日銀は展望レポートを見直すが、追加金融緩和が行われるかは、その時の景気・物価動向次第となる。日本も米国も経済指標には上昇の強さはないが底打ちの形になってきていること、そして政府の経済対策と7月の日銀のETF買い入れ増額による、株価の下支えの効果が出てくることを考えると、追加金融緩和を日銀が必要と判断するような状況にはならないだろう。

「2年」という物価目標が中長期的なものとなれば、これまでのように物価目標の達成時期の日銀の予想(現在は「2017年度中」)が先延ばしになる状況にあっても、それがすぐに追加金融緩和につながることはなくなる。

もし年末まで経済活動の停滞が続くのであれば、経済対策は十分でなかったことになる。来年1月の通常国会における補正予算で、時間の制約のあった今回の経済対策で具体化が間に合わなかったものを積み増すことを中心に、再び大規模な経済対策を実施する必要が出てくることになる。

■円高圧力軽減と輸出・生産のサイクル持ち直しにはグローバル経済向上

そうなった場合には、政府は赤字国債を発行してファイナンスしなければらなず、日銀にも追加金融緩和圧力がかかる。来年1月の展望レポートの見直しのタイミングで、ポリシーミックスとして「量」を中心とした、追加金融緩和が実施される可能性が出てくることになろう。

しかし、2017年に入り、経済対策の効果がしっかり現れることにより日本の景気の持ち直しも明らかとなるだろう。米国景気のしっかりとした拡大がFEDの利上げの進展につながり、円高圧力は自然に減じていくだろう。

グローバルな景気・マーケットの不安定感を各国の政策対応で乗り越え、先進国の堅調の成長がなんとか持続している間に、その好影響が波及して新興国が減速した状態から脱していけば、輸出と生産のサイクルも持ち直していく。

海外景気の持ち直しとともに、政府・日銀の政策効果などによりアベノミクスが再稼動したという認識が企業とマーケットにも浸透し、総賃金の強い拡大がデフレ完全脱却への動きを再加速させていくシナリオになると考える。

日銀の追加金融緩和はメインシナリオではなく、この7月の追加金融緩和が最後になる可能性が高いと考える。物価目標の達成時期に拘らない枠組みでは、景気拡大が強い中で、日銀が買い入れる国債が不足する可能性が高くなれば、2%の物価目標が達成される前に量的金融緩和のテーパリング(資産買い入れ額の減額)が起きる可能性がある。

2019年10月の消費税率引き上げ後、実質GDP成長率がプラスに回復したことを確認した後、実施は2020年7月になろう。しかし、日銀のバランスシートの残高を減少させることはなく、政策金利は目標達成までマイナスで据え置かれるだろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

最終更新:8月5日(金)11時40分

ZUU online