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【インタビュー】フランスのゆとり世代!? リヴァー・フェニックスの再来と評される若き新星

cinemacafe.net 8月5日(金)20時0分配信

フランスでも“ゆとり”世代が現れた? 今年2月、セザール賞授賞式の中継で、新人賞にあたる有望男優賞に輝いたロッド・パラドの受賞スピーチを聞いた第一印象だ。初めての映画出演で、生涯一度しか機会のない賞を受賞した喜びを、うれし涙をこらえて声をつまらせながら、「すっげえ感謝します」みたいな口調で語る。子どもの頃から賢そうな話し方を心得ている国の人にはめずらしい、素直な感情のほとばしりを会場は温かく見守った。これまでのセザールで見たことのない新鮮な光景だった。

【画像】『太陽のめざめ』主演のロッド・パラド

『太陽のめざめ』で彼が演じたのは非行少年、マロニー。奔放で無責任な母親のもとで愛に餓えて育ち、暴行や無免許運転などトラブルを起こしてばかりの少年が裁判所の判事と保護司の尽力を受け、本当の愛を見つけて更生の道を歩んでいく。寂しさを暴力という形でしか表現できず、荒れ狂う少年を全力で演じたロッドは、アラン・ドロンやリヴァー・フェニックスの再来と評される期待の新人。6月にフランス映画祭2016での作品上映に合わせて来日した。

リセ在学中、休み時間にたまたまオーディション担当のスタッフに勧められたのをきっかけに、その後30回近いテストを重ねて役を勝ち取った。だが、最初は軽い気持ちで受けたのかというと、「最初から本気だった。受かるわけないって気もしていたけど、やれるだけのことはやろうと、全力で挑戦した」と言う。もともと演技に興味はあったが、経験はゼロ。「学校の劇に出たこともなかった。映画は普通に好きだったけど、俳優になるなんて想像もしてなかった。ただ小さい頃から、みんなを笑わせるのは得意だったんだ。人を楽しませることができるのは自覚していたけど、仕事にするなんて考えたこともなかった」。

マロニーを幼い頃から知り、更生させようと寄り添う判事を演じるのはカトリーヌ・ドヌーヴ。そこにいるだけで凄まじいスター・オーラを放つ大女優に気後れはしなかったのか。
「全然しなかった。撮影チーム全体が家族みたいな雰囲気だったから」とケロッとしているが、それにしても相手はドヌーヴ。「そうなんだけど」と笑いながら、「すぐに打ち解けられたよ」と言う。

最初の対面はカメラテストのときだった。
「『あなたいくつ?』と聞かれたので、『18歳です』と答えて、『あなたは?』と返したら、ちゃんと教えてくれたよ。お母さんみたいな雰囲気でいてくれたから、緊張せずにいられたんだと思う」。
保護司を演じるのは、本作でセザール賞最優秀助演男優賞を受賞したブノワ・マジメル。「彼とはオーディションのときから会っていたし、友だちみたいな関係。というか本当に友だちになって、いまでも時々会ってるよ」。

演技未経験者が映画の主演に抜擢されるのは、素のままでカメラの前に立つことを求められての場合が多い。だが、ロッドは最初から“演じる”ことを求められ、それに見事応えている。そこに到るまでは厳しい道のりだった。

まずは2か月半、演技コーチと一緒に脚本を読み込んだ。「ストーリーについて、マロニーの感情について。どうしてそうなるのか? を徹底的に考えて、台詞も頭に叩き込んだ。撮影に入ってからは、エマニュエル・ベルコ監督の望むものを演じられるように全力で食らいついていった」。マロニーについては「愛情深い少年。特に母親に対して」」と分析する。「同時に、愛の欠如に苦しんでいて、だから激しい怒りにかられているんだ」。

ロッドはパリ郊外のサン・ドゥニに生まれ育った。やや治安の悪い地域もあり、「マロニーみたいな少年たちは僕の住んでいる界隈にもいる」と言う。ロケで訪れたリヨンの少年院では強烈な体験もした。「本物の施設だから、撮影時にも実際に収容されている少年たちがいて、罵詈雑言を浴びたこともあった。『お前は映画で再現してるだけで、俺らにとってはこれが現実だから』と言われたよ。でも、その経験も糧になった」。

暴力的な行動に潜む、怒りだけではない感情。不器用な愛。これだけ複雑な役を迫真の演技で表現しきった。そこには、彼と同じように十代で映画主演デビューを飾ったブノワ・マジメルとの、劇中の関係と重なる交流があった。
「撮影中もいろいろアドバイスしてくれた。『集中して、マロニーになり切って、しっかり聴け』って。演じるとき、共演者の言葉を聴くことはとても重要なんだ。台詞を忘れたとしても、相手の言葉に耳を傾けていれば、何を言うべきかが分かる。すると、作られたものじゃなくて自然な流れができて、より真実味が増すんだ」。

そして「好きな言葉があるんだ」とスマートフォンを取り出す。「アルバン・ルノワールという俳優のSNSの自己紹介文で“自分じゃない者として生きたい男”とあるんだけど。俳優ってそういうものだと僕は思う」。

仕事の本質を理解し、的確なアドバイスをすぐに実践する順応性と、プレッシャーに動じない度胸も備わっている。俳優は天職なのかも、と伝えると「ありがとう」と照れ笑いをしながら、「この仕事、本当に好きなんだ」と言う。「ただ、もて囃されるのはちょっと苦手かな。レッドカーペットでキャーキャー言われて、写真を撮られたりするのは、本当はストレスなんだ。自分のことは、その辺を歩いてる普通の人間だと思ってるから、急にこんなことになっちゃって…」。

スターになっても家族は以前と変わらずに接してくれるが、「友だちは2人しかいないことが分かった」と言う。「いや、僕には友だちはいない。友だちっていうのはあいさつするだけの関係で、毎日一緒にいるのが親友。僕には2人いる。彼らとの関係も全然変わらない。彼らにとって僕はただのロッドなんだ。映画祭とか華やかな場所にも行くけど、僕は自分が何者なのか、どこから来ているのかはちゃんと分かってる。それが大切なことだと思う」。

素顔のロッドは人懐こく、初めて会った相手にも友だちのように接する。本人も自認しているが、自然と人を喜ばせることのできる真のエンターテイナーであり、警戒心むき出しのマロニーとはかなり違う。
「自分でも全然似てないと思う。マロニーと近い点があるとすれば、ちょっと神経質なところかな。気が短いんだ。僕はとても社交的だけど、一方で些細なことですぐイライラする。たとえば、昨日このホテルに着いたとき、これが…」と窓辺のブラインドを指差す。「部屋に着いたら、カーテンが閉まっていて、それは簡単に開けられたけど、ブラインドが全然上がらなくて。1人でイラついてたよ」と身ぶりをまじえて再現する。このサービス精神はまさにマロニーと正反対。「そう。全然違う。でも愛については似ているかな。本当の共通点は…愛情深いところなんじゃないかな」。

最終更新:8月5日(金)20時0分

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