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サイバーエージェント藤田社長が「AbemaTV」でマスメディアを目指す理由

ITmedia Mobile 8月5日(金)9時35分配信

 高品質の番組が完全無料で視聴できると人気の動画配信サービス「AbemaTV」。サービス開始当初から大きな話題となり、7月25日には600万ダウンロードも突破した。しかし、チャンネル構成のねらいや収益構造など、未知数の部分も多い。

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 サイバーエージェントはなぜ動画配信サービスを始めたのか、AbemaTVはどこを目指そうとしているのか。サイバーエージェント社長で、テレビ朝日との合弁企業であるAbemaTVの社長も務める藤田晋氏に話を聞いた。

●Abema TVのコンセプトはAWAから生まれた?

 2011年の「Hulu」、2015年の「Netflix」と、海外のサービスが上陸するたびに大きな注目を集める動画配信サービス。かつてはテレビと比べると、ネット動画はコンテンツの質で弱さがあるといわれてきたが、端末やネットワークの進化に加え、動画配信サービスの人気の高まりによって権利者側の意識も変わってきた。最近ではクオリティーの高い番組や動画配信“限定”の作品も目に付くようになった。

 見たいときに見たいコンテンツをオンラインで再生できるVOD(ビデオ・オン・デマンド)という仕組みに加え、1000円前後の定額料金で見放題となる手軽さも人気の理由といえるだろう。だがVODの有料定額動画サービスと一線を画するのが、4月11日にサービスを開始した「AbemaTV」だ。

 AbemaTVは、サイバーエージェントとテレビ朝日が共同で設立したAbemaTVが運営する動画配信サービス。最大の特徴は、基本的に無料で視聴できるということ、そしてテレビのように時系列で番組がストリーミング配信されることだ。しかも、CS放送やケーブルテレビのように、ニュースからスポーツ、音楽、アニメなどさまざまな分野の専門チャンネルを26も用意している。

 番組の多くは、CS放送や地上波などでも流れる“放送品質”のものだ。AbemaTVが独自に制作するオリジナル番組も、地上波に出演するようなタレントを多く起用するなど、これまでの無料動画配信サービスとは大きな違いがある。

 ある意味、インターネット上にテレビ局をそのまま持ち込んだともいえるAbemaTVだが、そもそもなぜこのようなサービスが生まれたのだろうか。藤田氏によると、「テレビ朝日放送番組審議会のメンバーになったのがきっかけだという。「Netflixなどの上陸を受けて今後どのようなサービスを提供するべきか、テレビ朝日側の立場になって考えた」ことから、動画配信サービスを手掛けるに至ったのだという。

 そしてもう1つ、AbemaTVのサービス内容を考える上で大きな影響を与えたのが、サイバーエージェントがエイベックス・デジタルと共同でサービス提供している定額音楽配信サービス「AWA」だ。AWAもオンデマンドではなく、音楽をラジオのように聴けるストリーミングサービス。「楽曲を自ら探して購入するのではなく、さまざまな楽曲を受け身で聴く、受け身の視聴スタイルを開拓したことから、それを映像配信に持ち込むことを考えた」のだそうだ。

 映像配信に受け身視聴のスタイルを取り入れ、さらに現在、スマートフォンやPC、タブレットなどで動画を視聴するスタイルが広まっていることから、そうしたデバイスで視聴することを前提にサービス設計を進めた。その結果として、現在のAbemaTVの形が生まれたのだそうだ。

●マスメディアを目指し利用拡大に注力

 先に触れた通り、AbemaTVは基本的に無料で視聴できるが、オンデマンドではなくテレビのように番組がリアルタイムで進行する。そのため見逃した番組を視聴する場合は、月額960円(税込)のプレミアムプランに入り、オンデマンドで視聴を楽しむこともできる。無料視聴の場合は番組間に広告を流し、広告と有料課金の2本立てで売り上げを上げるというのが、AbemaTVの基本的なビジネスモデルとなる。

 最終的には広告が7割、有料課金が3割といった収益構造を描いているようだが、「現時点で収益を成り立たせようとは1ミリも考えていない」(藤田氏)とのこと。その理由は、「AbemaTVをマスメディアにするという大きな目的があるから」と藤田氏は明かす。

 「サイバーエージェントはもともとインターネット広告企業」と言い切る藤田氏は、「広告ビジネスを成立させるにはやはり規模。メディアを利用する層を細かくターゲティングしても、あまりビジネスにならない。大きなメディアこそ広告が売れる。AbemaTVの広告効果を上げるには“マスメディア”にしなくてはいけない」と話す。テレビと同じような受け身視聴のサービスとしたのには、マスメディアとして成長させ、広告ビジネスを行う目的も大きいようだ。

 AbemaTVは4月11日のサービス開始当初から大きな注目を集めており、3カ月強で600万ダウンロードを記録するなど、順調にユーザー数を拡大している。だがマスメディアを目指す上では一層のユーザー獲得、さらには継続的に視聴してもらうための取り組みが求められている。

 そうしたことからAbemaTVは現在、プロモーション活動に非常に力を入れている。7月中旬から一部地域を除く全国でテレビCMを放映しているほか、新聞の折り込み広告も配布。さらに夏休み中の10~20代ユーザーを意識し、東京・渋谷の109で街頭イベントを行うなどしている。

●ニュースとレギュラー番組重視の構成、意外な人気は“マージャン”

 では、現在26あるチャンネルは、どのように編成されているのだろうか。藤田氏はAbemaTVのターゲットを「10~20代を中心とした、あまりテレビを視聴しなくなった層」に据えていると話す。そこで、ゴールデンタイムのバラエティ番組にある“テレビ的な派手さ”ではなく、スマホネイティブ世代に受け入れられるキレイでカッコいい映像を見せることにこだわって、番組やチャンネルを構成しているという。

 しかしながら、藤田氏がAbemaTVで最も重視しているのはニュースなのだという。「チャンネル自体は番組を購入すれば増やせるが、ニュースの配信はテレビ局と組まなければ無理。メディアの根幹はニュースだと思います」(藤田氏)というのがその理由だ。そこでAbemaTVは、テレビ朝日のスタッフも参加するニュース専門の「AbemaNews」チャンネルを24時間配信している。

 そしてもう1つ重視しているのが、レギュラーのオリジナル番組や特別番組などを配信する「AbemaSPECIAL」。AbemaTVならではの番組が流れる、独自性の高いチャンネルといえるだろう。このニュースとスペシャルは、アプリ起動時に最初に表示するチャンネルでもあり、AbemaTVを象徴するコンテンツでもある。

 ではAbemaTVで最も人気が高いのはどのような番組なのだろうか。藤田氏によると、「人気が高いのはやはりアニメ」だそうで、特に強いファンが付いている最近のコアなアニメの人気が高いとのこと。全26チャンネルのうち、アニメ関連が5つあることから、人気の高さをうかがうことができる。

 一方で、意外な人気を得ているのが、藤田氏自身もよく出演する「麻雀チャンネル」である。大のマージャン好きとしても知られる藤田氏は、麻雀最強戦(近代麻雀主催)で2014年の最強位になるなど「むしろ本業と思っている」ほどの腕前。それだけに思い入れもひとしおのようで、「マージャン専門チャンネルはこれまであまりなく、番組もコアファンしか見えていなかった。一般の人達に見せる場があれば、関心を持ってもらえるのではないかと思った」(藤田氏)と、ファンの広がりに期待する。他のチャンネルは何らかのベースがあった上で設計しているが、麻雀チャンネルだけは新しい視聴を提案するため、あえて加えているという。

 こうしたコンテンツ視聴を盛り上げる仕組みが、ユーザーコメントの存在だと藤田氏は話す。「コメントは双方向の本命。1人で番組を視聴していても、コメントで多くの人がいろいろなことを言っていることで安心感が得られる」(藤田氏)とのことで、テレビなどでは実現しにくいコメントの存在が、シンプルながらも視聴には大きく影響しているようだ。

 もっとも、現在AbemaTVの視聴者は7割ぐらいが男性であるとのこと。それゆえ今後は女性の視聴者を増やすべく、ドラマなどにも力を入れていくという。7月には「海外ドラマ」チャンネルを開設したほか、関西テレビやテレビ東京のドラマを配信することなどを発表しているが、「いずれは女性に見てもらえるドラマなども制作していきたい」と藤田氏は話す。

●「FRESH! by AbemaTV」とのすみ分けは?

 サイバーエージェントは2016年1月、AbemaTVに先んじる形で、配信事業者向けのオープン型動画ライブ配信サービス「AmebaFRESH!」を開始した。

 現在このサービスはAbemaTVに移管され、「FRESH! by AbemaTV」(以下FRESH!)としてサービスを提供しているが、サイバーエージェントとしてAbemaTVとFRESH!は、どのようにすみ分けを図っているのだろうか。

 藤田氏はこの点について、「FRESH!はオープンなプラットフォーム。サードパーティーが制作した番組を流す放送局で、AbemaTVはそれを応援する立場」と話している。FRESH!は自社で動画を調達・制作するのではなく、あくまで“生配信”のプラットフォームとして、配信事業者らに利用してもらうという位置付けだ。

 FRESH!には月額課金制で有料配信ができる仕組みがあり、8月末からは広告収入を得られる仕組みなど、コンテンツ提供者に対する収益手段の拡大を進めている。「有料にしないとチャンネルが成り立たないが、無料でないと動画を視聴してもらえない。そうした場合でも、広告によって無料と有料の動画配信を両立できるようになる」と藤田氏は話しており、動画を配信する企業などに収益手段を提供することで、一層多くのコンテンツを提供してもらうことを見込んでいるようだ。

 実はサイバーエージェントでは、これまでも「メールビジョン」や「AmebaVision」「アメスタ」などさまざまな動画配信サービスを展開してきた。そうした経験から藤田氏は、動画配信サービスを展開する上で「視聴習慣を付けさせることが大事。短期的な視聴ではなく、続けてみてもらうことが必要」だと話す。著名人や人気アーティストを起用すれば瞬間的に視聴者数は増えるが、それが継続的な視聴につながるとは考えていないという。

 藤田氏はAbemaTVでは派手な取り組みよりも、「レギュラー番組を張り巡らせることで『この時間にはこの番組がやっている』という安心感や、幅広いチャンネルを用意することで、横の視聴を固めることに力を入れていく」と話し、獲得したユーザーを継続的な視聴に結び付けるための取り組みを進めていく姿勢を示した。短期的な収益ではなく、AbemaTVをマスメディアに匹敵する規模に育てていくことが、現在の目標となっているようだ。

 さらに「ここからスターを生み出さないと、新たなメディアとして成功したとはいえない」(藤田氏)という目標もある。人気スターを起用してサービスに人を集めるのではなく、サービスとして成功を収め、そこから人気スターを生み出すという考え方は、これまでのインターネットサービスではあまり見られなかったものだ。

 それだけに、藤田氏がAbemaTVにかける意気込みは非常に強いものだといえるだろうし、今後AbemaTVをどこまでユーザーの生活に浸透させられるか、大いに注目されるところでもある。

最終更新:8月5日(金)18時5分

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