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電話に出れない新人、それってスマホのせい?

ITmedia エンタープライズ 8月5日(金)13時17分配信

●なんで、私が電話応対研修の講師に?

わたし: どうですか? 今の設定が完了すると元通り動くはずです。

【ヘルプデスクの仕事には、電話応対や多重作業のスキルは必須。ということで研修の担当を頼まれたのだった】

社員: あー、ちょっとまってくださいね。おー、動きました。ありがとう。助かったよー。また、何かあったら頼むねー。

わたし: 無事に動いたんですね。よかったです。では、失礼します。

 ……ふぅ。そうそう。私の本来の仕事はこっち、つまりヘルプデスク業務だ。決して忘れているわけではないのだけれど、慣れない新入社員研修という仕事もやっていると、どうしても慣れない仕事の方が脳みその大半を占める。もちろん、ヘルプデスクを惰性でやっているわけではないけど、やっぱり経験と実績がある仕事をやっていると、何となくほっとするわ。

 といっても、社内講師も楽しまないとね。やらされてると思うと仕事を楽しくやれないもの。

A子: 交代の時間よ。昼休み行ってきてー。

わたし: ありがとー。お腹空いてたのぉー。行ってくるわ~。

A子: 午後からは明日の準備だったね。こっちは任せて。

わたし: うん。よろしくねー。

 私たちヘルプデスクスタッフの仕事は、インシデント(トラブルや問い合わせ)対応がメインで、その対応は多岐にわたる。ほとんどがヘルプコールをトリガーとして、対応プロセスが動き出すんだけど、一度動き出すとアレやらコレやらやることが多い。例えばインシデントの登録。電話をかけてきた人にいろいろ尋ねて、発生したインシデントの情報をデータベースに登録する。

 これはインシデントの具体的な内容だけでなく、いつ、どこで起こったのか、誰の、あるいはどの部署で起きたのかを確認、登録するのだ。私の会社では、そこそこ整備されている構成管理データベースがある。これでコール元が利用しているシステムやPCをチェックして、インシデントとシステムとの関連付けを行う。チェックや登録の間にコールしてきた人を待たせるわけにもいかないので、電話応対をしつつ、情報を集めつつ、データベースを見て登録しつつ……と目も手も、そして脳みそもフル回転。

 そんな仕事だから、電話応対や多重作業のスキルは必須。経験で多少鍛えられるところはあるけれど、やはりこういうのは最初に体系的に学習しなきゃね。電話応対のスキルについては、「もしもし検定(正しくは『電話応対技能検定』)」という検定があるくらいだし、電話応対をないがしろにできない企業が多い、ということかもしれない。

 そんな事情もあって、明日は新入社員に電話応対研修を私が行うことになった。どうなることかしら……。でも今どき1人1台の電話機を持って歩いているのだから、「電話できない」という人はいないはず。もちろん、ビジネス用語には慣れてないだろうけど、3時間ぐらい練習すればなんとかなるんじゃないかしら。ま、何とかなるでしょ。

 翌日。何とか板についてきたような“なんちゃって社内講師”として、電話応対の重要性や具体的な電話のかけ方、受け方などのレクチャーを行った。

 午前中の前半はなんだかんだで座学が中心だ。ここまでは問題ない。休憩を挟んで、電話応対の演習を行うことにした。2人組になって、電話をかけてくるお客さまの役と、その電話を受ける役を決めて、30分ほど練習をさせる。その後、代表者に前に出てきてもらい、私をお客さまに見立てて、みんなの前で練習の成果を披露してもらうのだ。

 まずは2人組の練習。みんな、レクチャーを受けた通りに(ギクシャクするのは仕方ないけれど)練習を重ねる。慣れてないのは仕方ない。でも、30分も練習を重ねると、それなりになってきたかしら。1人ずつ注意して見て回るほどの余裕が私になかったのだけれど、まぁ順調そうだ。

●電話に出れない?

 さて、練習も終わったし、代表者に出てきてもらおう。こんなときは、ここ数日で比較的目立っている、口数の多い(打たれ強そうな?)人にトップバッターをやってもらうに限る。最初から目をつけていたのは、体育会系っぽいMくん。

 野球部かサッカー部で主将を務めていたっぽい(私の勝手な想像だけど)、何となくリーダー的な雰囲気をかもし出している人だ。指名すると、さすがに緊張しているようだけど、別に嫌がるようなそぶりも見せず、前に出てきてくれた。私の目に狂いはなかったかな?

わたし: じゃあ、私から電話をかけるから、練習した通りそれを受けてね。

 本物の電話機を2台使った模擬演習だ(線は外してあるけれど)。私が電話をかけるふりをして、口で「リーン」と言う。正直、ちょっと恥ずかしい。

 リーン。

  リーン。

   リーン。

わたし: 電話に出なさいよ(笑)

 思わずツッコんでしまった。見た目とは裏腹に、とても緊張していたらしく、なかなか電話に出てくれなかったのだ。これが教室の笑いを誘い、Mくんの緊張感もちょっとほぐれたみたいだ。では、あらためて。

 リーン。

Mくん: はい、●●株式がっ……えーと、●●かぶ……

 3回目でやっと「●●株式会社です」と言えた。よほど緊張しているのかなぁ。

わたし: 私、△△商事の××と申しますが、吉田様はいらっしゃいますか?

Mくん: えーと、吉田はお帰りになられました。

わたし: (えー、敬語がおかしいよぉ)左様ですか。では、高橋様はいらっしゃいますか?

Mくん: はい、高橋のほうは今、席にいません。

わたし: (高橋の“ほう”?)ちょ、ちょっと待って――。

 これはいったん中断だ。とはいえ、止めたもののどうするのか考えなしだった。新入社員たちの顔を見回しながら、疑問に思ったことを聞いてみる。

●イマドキの人は家の電話を使わない?

わたし: えーと、Mくんは一人暮らしだっけ?

Mくん: いえ。家族と同居です。

わたし: じゃあ、家の電話に出たことある?

Mくん: いや、ないですね。

わたし: え! 皆さん、家の電話に出たことある?

 なるほど……。どうやら多くの人は、自宅に固定電話はあるものの、ほとんど鳴らない。実際には、まさに「1人に1台」携帯電話があるので、電話はダイレクトに本人にかかってくる。たまに家の固定電話に着信があっても、それは親に用事があるケースがほとんどだから、親が出るとのことだ。

 今は携帯電話も固定電話も、相手の名前や電話番号がディスプレイに表示されるから、相手の名前を聞いたり、こちらから名乗ったりすることがほとんどないという。敬語を使うシーンもほとんどない。アルバイトなどでしごかれた(?)経験のある一部の人を除いて、学生時代に正しい敬語を鍛える機会がない。これは盲点だった……。

 身内は呼び捨てにする、というのは前半のレクチャーで伝えたから何とかなったものの、より丁寧に言おうとして、身内に「お帰りになられました」というような敬語を使う。しかも二重敬語。方角や選択肢を示す場面ではないときに「ほう」と言ってしまうのも、時代なのかしら。

 と言ってしまえばそれまでなんだけれど、会社の電話はそういうわけにもいかない。ビジネスにおける「妥当な言葉遣い」はほとんど変わっていないもの。まして、会社の電話に出た人は、その会社を代表して電話に出るようなもの。電話の印象は、そのまま会社の印象に直結する。これは、どうしたものかしら? 敬語の使い方やよく使うフレーズがさっと出てくるようにするには……。

 しばし考える。しかし、いつまでも新入社員を待たせるわけにもいかない。ようやく動き出した脳みそで思い付いたのは、よく使うフレーズを繰り返し言わせることだった。学生時代に英語の授業でよくあった「Repeat after me.」だ。

 まずはよく使うフレーズの言い回しを、型から覚えていってもらうしかない。電話を使うシーンをいくつかに切り分けて、ステップごとに練習を進めていった。ついでにメモを取るクセ、いや、メモを取るコツを伝授し、活用してもらえるようにした。

 新人には早く電話応対を身に付けてもらい、実践してほしい。なぜなら、会社にかかってくる電話に出ることは、仕事を覚えること、お客さまを覚えること、仕事仲間を覚えることにつながるからだ。また、知らない専門用語に気付けるというメリットもある。

新入社員: すみません。質問いいですか?

わたし: はい、どうぞ。

新入社員: 「電話を切るときはフックを押してから受話器を置く」ってありますけど、会社支給の携帯電話の場合はフックがありませんよね。その場合は、どうやって電話を切ったらいいんですか?

わたし: フックがない電話機を使った場合は普通に切っていいのよ。

新入社員: じゃあ、テキストにそういう例外も入れておいてほしいですね。

わたし: そ……そうね……。

 やっぱり、マニュアル世代なのかしら…。それも書かないとダメですか?

最終更新:8月5日(金)13時17分

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