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格安SIMの利用に必要な「APN」ってそもそも何?

ITmedia Mobile 8月5日(金)13時45分配信

 「格安SIM」など、MVNOのSIMカードを利用開始する際の手順の1つに、「APNの設定」があります。AndroidスマートフォンやWindows 10 Mobileの場合は設定画面から手で入力、iPhone・iPadの場合は「APN構成プロファイル」をインストールすることで、APNの設定を行います。一度設定してしまえばその後変更することはまずないため、あまり意識することはないと思いますが、このAPNとは一体何なのでしょうか?

【キャリアスマホのAPN一覧(ドコモの場合)】

●APNの設定=通信サービスの選択

 APNの正式名称は「Access Point Name」、つまり「アクセスポイントの名前」です。このアクセスポイントは、携帯電話網と、インターネットやその他のデータ通信ネットワークを接続するための中継としての役割を持っています。

 実は、携帯電話網では1つのSIMカードを使って、複数のデータ通信サービスを利用することができます。どの通信サービスを利用するかは、接続先のアクセスポイントによって切り替えます。これを指定するのが「APNの設定」です。

 NTTドコモのSIMカードを例にして紹介しましょう。ドコモではデータ通信サービスのことを「ISPサービス」と呼びます。ドコモ自身が提供するISPサービスには、「spモード」や「mopera」があります。spモードはドコモのスマートフォンで利用する前提のサービスで、一方のmoperaはWi-FiルーターやPCに直接SIMを取り付けて利用することが想定されています。

 ただ、キャリアでスマートフォンを契約した方の多くは、APNの設定を意識したことがないと思います。各キャリアブランドのスマートフォンは自社のスマートフォン向けデータ通信サービスを利用することが前提のため、出荷時点で本体にAPNが設定済みになっているのです。なので、利用者が特に意識してAPNを設定することはなく、すぐにデータ通信を利用することができます。

 spモードやmoperaは、あくまでドコモと直接契約している利用者用のデータ通信サービスです。ドコモから設備の提供を受けているMVNOであっても、spモードやmoperaを利用することはできません。

●MVNOとAPNの関係

 MVNOがSIMカードを提供する際には、自社で利用可能なデータ通信サービスもセットで提供することが一般的です。「格安SIM」として営業している場合、利用できるのは一般的なインターネット接続サービスのみとなりますが、MVNOによってはさまざまなデータ通信サービスを提供しています。

 例えば、IIJでは、法人向け・個人向けのMVNOサービスで異なるAPNを利用しています。

 これらのAPNの中には、通常のインターネット接続用とは異なるものもあります。例えば、法人向けの「IIJダイレクトアクセス」では、スマートフォンやモバイルを接続したPCがインターネットではなく契約者の会社の社内に直接アクセスできるネットワークに接続されます。複数のAPNを提供することで、こういった特殊な用途にも対応することができるのです。

 冒頭で紹介した通り、MVNOが提供するSIMカードを使う場合は、キャリアのSIMカードをキャリアブランドのスマートフォンで使う場合と違って、原則として利用者が自分でAPNを設定しなければなりません。これは、キャリアブランドのスマートフォンと異なり、SIMロックフリーのスマートフォンがそのMVNO専用に作られていないため、どのAPNが使われるか、出荷時点では想定できないためです。

 ただ、最近日本国内で出荷されているAndroidスマートフォンについては、自分で設定を行わなくても、最初の起動時にSIMカードを取り付けておけば、APNが自動的に選択されることがあります。これは、SIMロックフリースマートフォンメーカーが日本国内のMVNOのAPNリストを作り、スマートフォン本体内に登録して出荷しているためです。

 AndroidにはAPNの自動選択機能があり、APN未設定の状態でSIMカードを取り付けて起動すると、リストの中から適合するAPNを自動的に選んでくれます。各メーカーとも多数のMVNOのAPNをリストに登録していますが、契約したMVNOがそのリストに載っていない場合は、手作業でAPNを設定する必要があります。

●Android 5.xのAPN自動選択には「バグ」がある

 一見便利なAPNの自動選択ですが、残念ながらAndroid 5.xのAPN自動選択にはバグがあります。APNが既に設定された状態であっても、突然APN自動選択機能が動作してしまうことがあるのです。また、この機能が動作したときに、しばらくの間データ通信ができなくなったり、LTEではなく3Gで接続されたりするなどの問題を確認しています。これらの問題を緩和するために、APN一覧から自分が利用しないAPNを全て削除してしまうことが効果的だと確認しています。通信が安定しないと感じている人は一度お試しください。

 ところで、iPhone・iPadで日本のMVNOのSIMカードを使うときは、手動でAPNを入力するのではなく、「APN構成プロファイル」をインストールする必要があります。これはiOSの「キャリア設定」に理由があります。

 iPhone・iPadのOSであるiOSの中には、全世界のキャリアの情報を登録した「キャリア設定」という情報があり、取り付けたSIMカードによって自動的にこの設定が適用されます。日本のMVNOは独自にSIMカードを発行することができませんので、キャリア(ドコモやKDDI)が発行したSIMカードを利用しています。そうすると、自動的にドコモ、 auのキャリア設定が有効になってしまいます。

 そして、ドコモ、KDDIのキャリア設定には、それぞれ自社の契約者が利用するAPNが書き込まれており、さらにそれを手動で変更できないような制限がかかっています。このAPNはドコモとKDDIの契約者しか利用できませんので、MVNOの契約者はこのままではデータ通信が利用できません。そこで「APN構成プロファイル」を使ってこの設定を上書きすることで、MVNOのデータ通信サービスに接続できるようにAPNを書き換える必要があるのです。

●UQ mobile版iPhone 5sのSIMカードには専用のキャリア設定がある

 7月から、KDDIの設備を利用したMVNOであるUQ mobileが、iPhone 5sの販売を始めました。実は、UQ mobileのSIMカードを使ってiPhone 5sを利用する場合は、APN構成プロファイルのインストールが不要です。これは、auがUQ mobileのiPhone用に専用のSIMカードを発行し、そのSIMカードに対応した「キャリア設定」がAppleより配布されているためです。

 同じauの設備を利用した他のMVNO向けにはこのようなSIMは提供されていません。また、手動での設定変更もできないような制限がかけられていますので、従来通りAPN構成プロファイルのインストールが必要です。

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●MVNEとAPNの関係

 MVNOが利用するAPNは、キャリアと契約しているMVNOが、キャリアに対して申し込むことで決定されます。キャリア自身が使用するAPNに加え、数多くのMVNOがAPNを登録していますが、原則として1つのキャリア内で重複した名前のAPNを登録することはできません。また、3GやLTEの通信規格では、ドメイン名をAPNとして登録するように定めています(ただし、それに従っていない例もあるようです)。

 キャリアはMVNOから申請されたAPNを交換機に登録し、スマートフォンからそのAPNを指定して接続を要求された場合に、各MVNOの交換機に接続するような設定を行います。

●特別なAPN“ims”

 原則として重複することがないAPNですが、例外もあります。その中の1つが“ims”です。これはVoLTEのために使われるAPNで、一般のデータ通信とは用途が異なります。VoLTEに対応したスマートフォンを国内の別のキャリアや海外のキャリアで利用する際にもVoLTEが使えるよう、特別扱いとなっています。これは、あくまで今後の活用を想定した規定であり、現時点では、国内SIMを取り付けたスマホを海外のキャリアでローミング利用する際にVoLTEが利用できるのは、ごく一部のケースにとどまっています。

 キャリアにAPNを登録できるのは、キャリアと直接契約をしているMVNO(1次MVNO)のみです。直接キャリアと契約せず、MVNEである1次MVNOから設備の供給を受けているMVNO(2次MVNO)は、APNの登録を行うことはできません。そのため、2次MVNOはMVNEが登録したAPNを利用することになります。MVNEは2次MVNO用に汎用(はんよう)的なAPNを用意していることが多く、APNを見ることで、そのMVNOが利用しているMVNEを推測することもできます。なお、MVNEによっては、特定の2次MVNEに個別のAPNを割り当てているケースもあり、このような場合、APNからMVNEを推測することはできません。

 ところで、契約しているMVNOと異なるAPNを設定した場合どうなるのでしょうか?

 ドコモとKDDIの場合、1次MVNOをまたいで異なるAPNを使うことはできません。キャリアがSIMカードを発行する際に、どのMVNO用に発行したSIMカードかをデータベースに記録しており、それと異なるAPNに接続を行おうとしてもキャリアの交換機で拒否するように設定されているためです。

 ただし、同じ1次MVNO内であれば、異なるAPNに接続することは許可されています。そのため、同じ1次MVNO(MVNE)を利用している異なるMVNOについて、契約しているものとは異なるMVNOのAPNに接続することは、キャリアの交換機上は可能となっています。しかし、このような接続を許可してしまうと、料金計算の面などで困ったことになるため、MVNE側の交換機で契約外のAPNへの接続を拒否するのが一般的です。

 SIMカードには「IMSI」と呼ばれるIDが書き込まており、スマートフォンからの接続時にはIMSIがキャリアの交換機に通知されます。また、MVNOの交換機にはキャリアの交換機からIMSIやMSISDN(電話番号)などのIDが通知されます。MVNOでは、これらのIDを使ってAPNに接続可能なSIMカード、不可能なSIMカードを識別しています。

 複数の2次MVNOが同じAPNを利用している場合でもこのようなIDを使ってSIMカードを特定し、それぞれの契約に合った通信制御や料金計算を行っています。

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●APNの変更

 MVNOによってはサービス提供途中でAPNを変更することがあります。例えば、あるタイミング以降での契約者は、新しいAPNを使うといった具合です。これにはさまざまな理由が考えられますが、その中からいくつかを紹介いたします。

MVNEを変更する場合

 自分で設備を持たず、1次MVNO(MVNE)から設備の提供を受けている2次MVNOでは、さまざまな理由により設備の提供を受けるMVNEを変更することがあります。このような場合には、必然的にAPNが変更になります。ここまで書いた通り、APNは重複して登録することができず、また、異なる1次MVNO間をまたいでAPNを利用することができないためです。

 実際に今までいくつかのMVNOがMVNEの変更を行い、それに伴い新しいAPNの提供を開始しました。この場合、新しいMVNEから供給を受けたSIMカードは新しい契約者のみに提供し、既存の契約者は従来のMVNEから供給を受けたSIMカードをそのまま利用し続けるケースが多いようです。APNも同様に、新しい契約者のみ変更になります。

 これは、キャリアの中でSIMカードを発行した1次MVNOが管理されており、変更できないためです。利用者の手元にあるSIMカードをそのままに、別の1次MVNO(MVNE)に入れ替えることはできません。SIMカードの回収、再発行には大きな手間とコストが掛かるため、従来の契約はそのままにしておくケースが多いようです。

ブランディング

 APNは利用者の目に触れる文字列のため、ブランディングが意識されることがあります。例えば、従来はMVNEが用意した汎用的なAPNを利用していたものを、自社のイメージを強化するために専用のAPNに変更するということです。また、設備の提供を受けているMVNEを隠すために独自のAPNを利用することもあります。

大幅な設定変更を行う、異なる設備を利用する場合

 APNの本来の目的は、複数の通信サービスを選択することです。その本来の目的に沿って、サービススペックを大きく変更したり、サービスを提供するための機器を入れ替える場合に、異なるAPNを利用することも考えられます。ただ、利用開始後のAPNの変更は利用者に大きな負担をかけるため、よほどの事情がない限りはこのような選択をすることはないでしょう。

 なお、交換機上では、IMSIやMSISDNを使ってSIMカード1枚1枚を特定し、それぞれに異なる制御を行うことも可能です。例えば、通信速度の制限などであれば、APNに寄らずとも、SIMカード1枚単位で柔軟に制御することが可能ですので、こういう目的での複数APNの使い分けはあまりないと考えられます。

●APN設定はMVNO普及の障害?

 「格安スマホ」「格安SIM」の名称でMVNOが一般化するにつれ、スマートフォンに詳しい方だけでなく、それほど知識のない方もMVNOを利用するようになりました。そうした方の中には、SIMカードの取り付けやAPNの設定に非常に高いハードルを感じている方もいらっしゃるようです。キャリアのスマートフォンを契約した場合、SIMカードは店舗のスタッフが取り付けてくれますし、APNの設定も不要ですので、それと比べるとMVNOは確かに不親切かもしれません。

 MVNOがより普及するためには、これらのハードルをできるだけ下げる必要があります。そのための方策として、店頭でのSIM取り付け・APN設定サービスを行ったり、あらかじめ物流センターでこれらの設定を行ってすぐに開始できる状態でスマートフォンを宅配するという試みも始められています。

 こうした取り組みにより、今後はAPNあまり意識されなくなるのかもしれません。

●著者プロフィル

堂前清隆

株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) 広報部 技術広報担当課長

「IIJmioの中の人」の1人として、IIJ公式技術ブログ「てくろぐ」の執筆や、イベント「IIJmio meeting」を開催しています。エンジニアとしてコンテナ型データセンターの開発やケータイサイトのシステム運用、スマホの挙動調査まで、インターネットのさまざまなことを手掛けてきました。

・Twitterアカウント @IIJ_doumae
・IIJ公式技術ブログ「てくろぐ」 http://techlog.iij.ad.jp/

基本情報から価格比較まで――格安SIMの情報はここでチェック!→「SIM LABO」

最終更新:8月7日(日)9時31分

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