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Kindle Unlimitedは出版側にとって神か悪魔か

ITmedia Mobile 8月6日(土)6時10分配信

 Kindleの月額制読み放題サービスとして、Amazon.co.jpが開始したKindle Unlimited。月980円で多くの雑誌や、新書、小説、漫画、R18、BL本が読めることから大きな反響を呼んでいますが、このサービスに危機感を持っている人もいます。それは、Kindleで個人出版をしている作家さんたちです。彼らの声とAmazonへの取材をする中で、Kindle Unlimitedのマーケットとしての本質が見えてきました。

【報酬額の計算を図で示す】

●きっかけ

 Kindle Unlimitedで読まれた作品への報酬額について、知人の作家さんがこのようなツイートをしているのを見かけました。

 「Kindle Unlimitedに同人誌が登録されている立場からすれば、めっちゃめちゃページ数が多く読者数が多いとか、大人気作家でなければ買って頂いた方がはるかに作者に落ちるお金が多い、とだけ申し上げておきます。」(のらねこ)

 のらねこさんは、ThinkPadをパーツから組み立てる本や、NUC(小型デスクトップPC)をモバイルする本などを同人誌として頒布している方。のらねこさんのモバイルNUC本がKindle Unlimitedに登録されているのを私が見つけ、その後彼のTwitterを見るとこのように発言されていたという流れです。

●Kindle Unlimitedで読まれるとどれだけお金がもらえる?

 Kindle Unlimitedの報酬体系について、彼とAmazon公式サイトからの情報を合わせると以下のようになります。

 まず、AmazonはKindle Unlimitedで作品を読まれた作家さんたちに払うお金を「グローバル基金」という形で毎月用意します。これを、その月に読まれた全世界全作品の合計既読ページ数で割り、それに各作家の読まれたページ数を掛けることで報酬を算出します。

 つまり自分の作品が全世界の作品に対してどれだけ読まれたかという割合で、Amazonが定めた基金から報酬が分配されるということになります。グローバル基金は毎月変動し、例えば2016年6月のグローバル基金額は約15億円ですが、2016年8月の額は約12億円となっています。元のお金がそれだけあれば、各作家にはそれなりに分配されるのでは? と思うところですが、分母となる「全作品の既読ページ数」は非公開であるため、1ページ当たりいくら払われるかというのは明らかではありません。この点を明らかにしない理由をアマゾンジャパンに問い合わせましたが、「数字が一人歩きすることを避けるため、全作品の合計既読ページ数やKENP(Amazonのページ規格。本のページではなく、内容に応じて1ページを計算する)当たりいくらというのは公開していません」とのことでした。

 しかしながら、登録している作家は自分の作品が何ページ読まれたかというのは確認でき、報酬額も当然分かるのでそこから1ページ当たりおよそいくらかというのが作家さんたちによって逆算されています。複数の作家さんからの情報を合わせると、現在の相場は1ページ当たり約0.8~0.9円のようです。

●Kindle Unlimitedでは、今までのビジネスモデルは崩壊する

 この相場を元にして計算すると、例えば100ページの本が一人に完読されたら80円~90円の報酬ということになります。一方で、紙の書籍で同じ80~90円の報酬を得るためには、通常の印税が10%なので定価800~900円の本を一冊売る必要があります。紙の場合は完読されなくてもいいのがポイントです。また、同人誌では一冊24ページでも500円程度の値付けが標準的。そして売れればその大半が作家の収入になるのに対し、Kindle Unlimitedでは一冊読まれても約20円しか作家に報酬が入りません(24ページ≒24KENPと仮定して)。このように、ページ単価が高いジャンルでは、Kindle Unlimitedでの配信によって利益を大きく下げる可能性があります。

 それが不満ならKindle Unlimitedで配信しなければいいじゃないか、と思うところですが、ここにもAmazon側の巧妙な報酬設定があります。個人がKindle Unlimitedに配信するためには、KDPセレクトというものに登録する必要があるのですが、これに登録すると一般のKindle版が売れた際の報酬額として販売価格の70%を受け取ることができます。対して、KDPセレクトに登録しないでKindle書籍を販売する場合は、販売価格の35%が報酬額となり、KDPセレクトに登録した時と比べて報酬額が半減する設定になっているのです。Amazon側のKDPセレクトに登録してほしいという意図が透けて見えますが、作家側はこの報酬設定が利益になるかどうか、よく考えなければいけません。Kindle Unlimitedが始まっても読者数が従来と同じなら、大幅な減収になることは明白だからです。

●ここは「PV=金」の世界

 この報酬設定は言ってみれば、PV数に応じて広告収入などの報酬額が決まるWebサイトに近いものがあります。今までの本は、内容が全て読まれずとも買ってもらえれば利益となっていました。一方、Kindle Unlimitedではダウンロードされたかどうかに報酬は関係せず、中身が読まれなければお金にならないということです。したがって、Kindle Unlimitedで今後利益を上げようとするならば「多くの人の目にとまり、多くのページが読まれる本作り」がこれまで以上に大切になるといえます。

 「多くの人の目にとまる」という点については、すでに気づいている方も多いかもしれませんが、Kindle Unlimitedでのダウンロード数がそのまま一般のKindleランキングに反映されています。ダウンロードされること自体が直接利益にならないまでも、ランキング上位に入り多くの人の目に触れることで、非Unlimitedユーザーに購入してもらうというのが今後のKindle上での重要な販売戦略となるのではないでしょうか。

 ただ、現在のランキングを見れば分かる通り、上位にランクインしているのはほとんど大手出版社の雑誌などです。出版社はKDPとは異なり、Amazonと個別に契約を結んでいるため上記のような計算での報酬ではないようですが、上位を大手出版社に占められては個人出版が入り込む余地は少ないように思えます。いずれにせよ、KDPセレクトの作家さんたちや中小の出版社は、Amazonのランキングやその他の方法を用いて今までより多くの人の目に本を露出させなければ、Unlimitedの世界で利益を上げることは難しいでしょう。

 Kindle事業本部のコンテンツ事業部 事業本部長の友田雄介氏は、「日本でのKindle Unlimitedの公開は、日本の作家さんにとっての新しい収入の道と考えています。Unlimitedで配信することで、世界中のUnlimitedユーザーに読んでいただくこともできます。Unlimitedでの配信が一般のKindleランキングにも反映されることを、マーケティングの一つの指標と考えることもできるのではないでしょうか」と、取材に応じてKindle Unlimitedでの配信の意義を説明します。

 私自身も一利用者として、Kindle Unlimitedでもう何冊も本を読んでおり、読者側としては便利なサービスだと実感しています。今後、KDPセレクトの作家さんたちや出版社が、このサービスを通じてどのようにマネタイズを確立するかがサービス拡充の鍵となりそうです。

最終更新:8月6日(土)6時10分

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