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「全てが国の意向で決められるようになれば、地方自治は死ぬ」 翁長沖縄知事の意見陳述【全文】

沖縄タイムス 8/6(土) 13:25配信

 意見陳述に入る前に、訴訟での請求趣旨にかかるやりとりを見ていて大変驚いている。原告が請求趣旨を訂正せざるを得ない事態に至ったのは、国地方係争処理委員会の結論を一顧だにせず訴訟に踏み切った拙速にある。県としては原告の請求趣旨に基づいて陳述書の作成など訴訟対応の準備をしたが、請求の趣旨が当日変更されることは膨大な見直し作業を強いられることになりかねない。迅速な審理を申し出ながら妨げているのは原告自身であり、極めて不誠実な対応と言わざるを得ない。

 本日は意見陳述の機会を与えて頂き、ありがとうございます。

 ことし4月、うるま市で20歳の女性が殺害されるという非常に痛ましい事件が起こった。改めて亡くなられた被害者のご冥福をお祈りし、ご遺族に対し哀悼の意を表す。希望ある未来を奪われたご本人やご家族の無念さを思うと、胸が締め付けられるとともに、政治の仕組みを変えることができなかったことは、政治家として、痛恨の極みである。

 残念なことに、米軍人・軍属等による事件・事故はその後も次々と繰り返されているが、これは、国土面積の約0・6%に過ぎない沖縄県に、在日米軍専用施設面積の74%を超える広大な米軍基地があるがゆえだ。これ以上、沖縄県民に犠牲を強いることは許されないと、強く申し上げる。

 沖縄県は、埋立承認取消処分をめぐる一連の問題を解決するためには、真摯(しんし)に協議を行うことこそが重要だと認識している。

 本件訴訟に至ったことはまったく本意ではないが、訴えられたからには、私が行った埋立承認取消処分が適法であること、また県知事として係争処理制度を活用し、積極的に措置を講じていることから、是正の指示に従わないという不作為は違法に当たらないことについて、以下、意見を述べさせてもらう。

 埋立承認取消処分に関する代執行訴訟について、3月4日に県と国が和解したが、国は直ちに是正の指示を行った。このため、私は県知事として国地方係争処理委員会に審査の申し出を行った。

 同委員会は、9回にもわたる丁寧な審理を経た上で、「国と沖縄県は、普天間飛行場の返還という共通の目標の実現に向けて真摯に協議し、双方がそれぞれ納得できる結果を導き出す努力をすることが、問題の解決に向けての最善の道である」との見解を審査の結論とした。

 県としてはこの判断を重く受け止め、内閣総理大臣および関係各大臣に対し、真摯な協議を行うよう求めていましたが、法の規定により訴えが可能となる日に直ちに提訴をした国側の対応は、国地方係争処理委員会の結論を無視するものであり、妥当なものとは思われない。

 しかも、国土交通大臣は先の代執行訴訟において、既に本件訴訟と同一の争点について主張立証が尽くされ、口頭弁論が終結されているなどとし、本件訴訟の口頭弁論の終結と、速やかな判決を求める上申書すら提出した。

 しかし、今回の訴訟は、国土交通大臣の是正の指示に従わないことの違法性の確認が求められているものであり、代執行訴訟とは審理の対象も異なることから、新たな主張立証が必要となることは当然である。

 このような上申書の提出には驚きを禁じ得ない。裁判所におかれては、公正・公平な手続きの下、国と県の双方が主張立証を尽くし、充実した審理をなされるよう期待する。

 さて、公有水面埋立法に係る事務は、地方公共団体の事務であり、地方の実情をよく知る都道府県知事に埋立免許や埋立承認を行う権限を与えている。

 地方自治法によれば、国と地方公共団体は、対等な立場であることを前提として、国の地方公共団体に対する関与は、その目的を達成するために必要な最小限度のものでなければならず、また、地方公共団体の自主性や自立性に配慮しなければならないこととされている。

 私は、公有水面埋立法により県知事に与えられた権限を正しく行使し、適法に埋立承認を取り消したものであり、是正の指示を受けるいわれはない。

 次に、国土交通大臣による是正の指示の対象は、私が行った埋立承認取消処分ですから、この埋立承認取消処分に裁量権の逸脱・濫用(らんよう)があるかどうかという点がこの訴訟の審理の対象になると理解している。

 そこで、私が埋立承認取り消しをするにあたって、公有水面埋立法の要件適合性について考慮した点について簡略に述べたいと思う。

 公有水面埋立法第4条第1項第1号の「国土利用上適正且合理的ナルコト」とは、埋立自体および埋め立ての用途・埋立後の土地利用を対象として、得られる利益と生ずる不利益という、諸利益について比較衡量し、前者が後者を優越することを意味するものだ。

 貴重な自然環境として評価される辺野古・大浦湾海域の埋め立ては、沖縄ならではの自然、観光資源を直接的に失わせるなど不利益は甚大なものがある。

 また、埋め立ての用途は海兵隊航空基地建設だが、これは埋立対象地周辺の静謐(せいひつ)な生活環境を破壊するものであるし、今日、新たに沖縄県内に恒久的基地を建設することは、米軍基地の集中に起因する過重な負担、被害をさらに将来にわたって沖縄県に固定化することを意味するものだ。

 観光資源として価値の高い沖縄県の北部にこのような基地ができれば、環境汚染、騒音等により、沖縄経済を牽引(けんいん)する観光産業は回復不能な深刻な打撃を被ることになるだろう。

 このような著しい不利益と衡量しても、なお埋め立てによって得られる利益が上回ると判断されなければ、「国土利用上適正且合理的ナルコト」とは認められないのであり、公有水面埋立法の要件適合性の判断に必要な限度において、承認権者である沖縄県知事が埋め立ての公共性・必要性の程度を判断しなければならないことは当然のことだ。

 しかし、埋立必要理由書には、抽象的な内容しか示されておらず、埋め立てにより生ずる著しい不利益を正当化できるだけの具体的な公共性・必要性の程度を認めることはできない。

 加えて、埋立承認は、公有水面埋立法第4条第1項第2号の要件も満たしていない。

 辺野古・大浦湾周辺の海は、ジュゴンが回遊する貴重な自然環境が保たれ、絶滅危惧種262種を含む5800種以上の多様な生物が確認されている。これは、例えば、世界自然遺産として登録されている知床で確認されている約4200種を大きく上回るものであり、我が国のみならず世界的にみてもかけがえのない財産といえるものだ。

 環境保全の観点からすると、日米両政府は最も問題の大きい場所の一つを選んでしまったと言わざるを得ない。

 このようにして私は、国の埋立承認申請は公有水面埋立法の要件をいずれも満たしていないと判断した。

 改めて申し上げるが、請求の趣旨および上申書における国の主張は、地方自治制度そのものをないがしろにするものであり、もはや沖縄県だけにとどまらない問題を含んでいると考える。

 このような違法な国の関与により、すべてが国の意向で決められるようになれば、地方自治は死に、日本の未来に拭いがたい禍根を残すことになる。

 政府は、一昨年の名護市長選挙、沖縄県知事選挙、衆議院議員総選挙の県内四つの小選挙区、今年の県議会議員選挙、先の参議院議員選挙など、多くの選挙で示された沖縄県民の民意をまったく無視し、過重な基地負担を将来にわたって固定化し続けようとしている。

 自国の政府に、ここまで一方的に虐げられる地域が、沖縄県以外にあるだろうか。

 沖縄防衛局が「私人」になりすまし、国土交通大臣に行った審査請求と執行停止の申し立て、それに続く国土交通大臣による執行停止と代執行訴訟の提起など、一連の強権的な進め方と、国地方係争処理委員会の結論を無視した今回の訴えの提起は、なりふり構わない政府の姿勢の表れである。47都道府県の一つに過ぎない沖縄県を、政府が総力を挙げて、ねじ伏せようとしている。

 この裁判は、単に今回の国の関与の是非のみが問われているだけではなく、地方自治の根幹、ひいては民主主義の根幹が問われている裁判でもあると思う。

 裁判所におかれては、まさしく法の番人として、憲法を起点として保障されている地方自治の本旨に鑑み、公平な判断を示して頂きますよう、お願いする。

最終更新:8/6(土) 13:25

沖縄タイムス

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