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『ファインディング・ドリー』で大活躍!ドリーの相棒・ハンクが生まれるまで

cinemacafe.net 8月7日(日)18時30分配信

おもちゃのウッディやネズミのレミー、モンスターのサリーにロボットのウォーリーなど、これまでに様々な種類の魅力的なキャラクターを生み出してきたディズニー/ピクサー。そのどれもがユーモアと個性に溢れ、主人公のキャラクターでなくても、ファンの心を掴む魅力を備えているのが、同スタジオの何よりの手腕と言えるだろう。

【画像】『ファインディング・ドリー』に登場するハンクのコンセプト・アート

アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞し、ピクサーの数々の名作の中で日本における興行収入No.1の記録を持つ『ファインディング・ニモ』。主人公として描かれるクマノミのマーリンをはじめ、はぐれた息子のクマノミのニモ、アオウミガメのクラッシュ、マダラトビエイのエイ先生など、本作では海の中を舞台に、様々なキャラクターが登場する。待望の続編として公開中『ファインディング・ドリー』では、主人公であるナンヨウハギのドリーをはじめとするお馴染みのキャラクターに加え、ジンベエザメのデスティニー、シロイルカのベイリーなど、海の生物を保護し、治療して海に帰す海洋生物研究所を舞台に様々な生き物たちが登場する。

そして、本作で何より新たな存在感を発揮するのは、ドリーが両親の居場所を探しに冒険を繰り広げる海洋生物研究所で出会う新キャラクター、ミズダコのハンクだ。

シネマカフェが実施したピクサー現地取材レポート第4弾では、本作で大活躍するハンクが生まれるまでの過程を、キャラクター・アートディレクターを務めたジェイソン・ディーマーと、スーパーバイジング・アニメーターのマイケル・ストッカーのインタビューを通して紹介する。

両親の居場所を探して海洋生物研究所までたどり着いたドリーだが、ひょんなことで研究所のスタッフによって捕まえられてしまい、クリーブランドの水族館行きのタグを付けられてしまう。研究所のバックヤードの水槽の中で戸惑うドリー。すると、壁にかかった猫のポスターの目がぎょろりと動き出す…ポスターに擬態して身を潜めていた、ミズダコのハンクの登場だ。

「私はピクサーに勤めて18年になりますが、ハンクのデザインは私がこれまでに関わった中で最も誇りに思えるものであると同時に、最も大変な仕事でした」。本作でハンクのキャラクター・アートディレクターを務めたジェイソン・ディーマーはそう語る。フリーランスの編集イラストレーターとして活躍していた彼は、ピクサーに入社後、『モンスターズ・インク』のスケッチアーティストとしてそのキャリアをスタート。その後、『ファインディング・ニモ』『レミーのおいしいレストラン』『ウォーリー』など多くの作品でキャラクターデザインを担当し、『モンスターズ・ユニバーシティ』ではキャラクター・アートディレクターを手掛け、監督とともに、少数のピクサーアーティストからなるチームを率いて、キャラクターデザインを作り上げる役割を担っている。

一方、スーパーバイジング・アニメーターとして、ハンクの誕生に大きく寄与したマイケル・ストッカーは、アニメーション業界に入る前は、広告代理店やデザイン会社でのイラストレーター、ボーイング社向けのコンセプト画を手掛けるなど、様々な企業で仕事をこなしてきたという。1992年にディズニーにて『ライオン・キング』の動画マンの研修としての仕事を始め、その後ワーナーブラザース・アニメーションの一部となるターナー&アソシエイツで最初のアニメーションの仕事を手掛けた。その後、ディズニー・アニメーション・スタジオにて10年間勤務し、『ヘラクレス』『ターザン』『ファンタジア2000』などの作品への参加を経て、2002年にピクサーに入社。『Mr. インクレディブル』『カーズ』『レミーのおいしいレストラン』『カールじいさんの空飛ぶ家』にアニメーターとして参加し、『トイ・ストーリー3』『モンスターズ・ユニバーシティ』ではディレクティング・アニメーターを務めている。

「キャラクターをデザインする際にいつも最初にすることは、その生き物についてできる限り知るということです」。そうジェイソンが語るように、ピクサーは入念なリサーチを経てから作品制作に入ることで知られている。今回もハンクの制作にあたって、サンフランシスコのモントレーベイ水術館の協力のもと、タコの生態についてあらゆる研究を実施したという。「デザインのインスピレーションとなるビジュアル面での情報を得るようにしています。タコを調べていく中で最も惹きつけられたのは、触手の裏側の白い部分と、マットなグレーの柔らかく丸い部分ですね。そこに魅力を感じたので、こだわりました」。

劇中でハンクは、様々な姿に擬態することで人間の目をかいくぐり、ドリーとともに冒険を続けていく。周囲にカモフラージュするハンクの姿はなんともユーモラスであり、いつ見つかるか分からないというハラハラ感が観客を楽しませてくれるのだが、これが映画的な演出というわけではなく、あくまでタコの実際の生態に基づいているというから驚きだ。「ミミック(擬態)・オクトパスは、肌の色を変えられるだけでなく、テクスチャーさえも変えられるのです。この映像のどこにタコがいるかわかりますか?」リサーチにあたって使用されたという実際のタコの映像が披露され、取材陣にジェイソンが語りかける。砂や岩の表面に見事に擬態したタコは、動き出すまではそこにいるとは気づかないほどであり、取材陣からはおもわず声が漏れる。「何度見ても飽きることがありません。信じられないですよね」と笑みを浮かべるジェイソン。

「タコが小さな割れ目からでも逃げられるという話を聞いたことがあるでしょう?」とジェイソンは続ける。「タコは小さな瓶の中にも入れるし、自動販売機の後ろにも隠れられる。それからぺったんこになれるのも魅力的でした。パンケーキのように平たくなるかと思えば、真っ直ぐ伸びて細長くもなれます」。これらのタコの生態へのつぶさな観察を経て、ハンクというキャラクターをかたち作るための具体的なアイデアが提案されていく。「そこで、彼は究極の脱出名人だというアイデアを提案したのです。劇中で実際に披露される、ハンクが観葉植物に成りすますというアイデアも、このときに提案しました」。

さらに、これらのアクション要素だけでなく、ハンクの口の位置や身体の表面のテクスチャー、色など、キャラクター化するにあたっての細部に至るまでの設計も行われる。なお、リアリティーのある表現をどこまでも突き詰めるというわけではなく、あくまでキャラクターとして仕上げるため、実物のタコの特徴の中からどの要素をデザインするかについても議論が行われるという。「タコは気持ち悪いキャラクターになってしまう部分もたくさん持っていますからね(笑)」とジェイソン。


次に、デザインされたキャラクターを実際にアニメーションとして動かしていく舵取りをするのが、アニメーション・スーパーバイザーのマイケルだ。「アンドリューがこのデザイン画をボードに貼り付けたときに、これはものすごい挑戦でエキサイティングだと思いました。それと同時に、とても手強い課題だということも分かっていました」。ジェイソンと同様に、まずはタコをアニメーションとして描くことのやりがいと難しさについて語り始めるマイケル。「とにかく、我々はタコの吸盤がどのように動いているのかを分解していかなければなりませんでした。タコは、それぞれの触手を別々に動かせるだけでなく、吸盤ひとつひとつもバラバラに動かすことができ、意図的にコントロールすることができます。これには驚きますね。その動きをアニメーションで真似ることは、ほんとうに難しい作業です」。

タコの動きの入念な観察を経て、スタッフは実際にこの動きをアニメーション化するために手を動かし始める。幾つかのテスト映像の検証を経て、自然な動きが追求されていく。「もし何かアイデアがあったら、そのアイデアをなるべく早くやってみなければなりません。もし2Dでやるなら、すぐに描くことができますが、3Dの場合、このようなモデルを作る際、素早くできるわけがありません。ひとつのポーズを作るのに1時間かかることもあります」。

ここで、幾つかテスト段階の映像が取材陣に披露された。シンプルな触手の動きが、少しずつスムーズで伸びのある動きへとブラッシュアップされていく様が段階的に示され、私たち観客が楽しむことができるキャラクターたちの生き生きとした仕草が、いかに多くの行程を経た上で作成されているのかが分かる。そのほかにも、目と眉の動きによって作られる表情や、実際にアニメーターとともに作成したシークエンスの中でのハンクの動きなど、様々なテスト映像が披露される。ハンクは通常のタコよりも1本足が少ない“セクトパス”という設定だが、彼が登場する全てのシーンにおいて7本の触手の動きがアニメーションとしてコントロールされているかと思うと、途方もない思いがする。

続けて、キャラクターのコンセプトアートに基づいたアニメーションを作るにあたり、コンピューター上のパペット(人形)を使用してキャラクターの演技を作り出す、キャラクター・スーパーバイザーの仕事について、マイケルが解説した。「自然な動きをコンピューターで作るのはとても難しいのです。我々は、何を作ればいいのかということから考えなければなりません」。この段階でストーリーはまだなくとも、チームのスタッフはキャラクターに要請されるであろう動きを想像しながら、アニメーターたちがその動きを作ることを可能にする正しい装置を設計していく。コンピューター上のインタフェースを設計し、実際に使用したアニメーターのフィードバックを加えながら改良を加えていくというその過程には、科学的であり数学的なアプローチが施される。触手の複雑な動きのほかにも、ハンクの肌の色のテクスチャーをコントロールするシステムなど、コンピューターによるアニメーション表現の洗練化が行われていく。

そして、アニメーションの最終的なブラッシュアップの作業をシミュレーションチームが担っていく。ここでは、ハンクの吸盤が地面と接触した際に生じる細かな動きなどが、シミュレーション・ツールよって再現されていく。「ハンクには全部で350個の吸盤があります。ですからこの問題を解決するために、全部を手描きで作業するのは難しいですね。そこで、より良い方法を探していました」。チームのスタッフは個体力学の技術を利用したという特別なシミュレーターを作成し、くっつく、剥がれる、つぶれる、といったひとつひとつの吸盤の動きを実際の物理的な動きとして再現することで、自然な動きをするための加工をアニメーションに施していく。この行程を経ることで、ハンクはより柔らかく肉付きのよいものになり、アニメーターたちが仕上げたハンクの動きがより緩やかで親しみやすいものに仕上げられ、私たちがディズニー/ピクサーのキャラクターたちに感じる、ユーモラスで楽しい印象が生まれるのだ。

「最初に取り掛かってから、ここまでで約1年かかっています」。テスト映像とともに話を伺った時間はほんの10数分だったが、その裏にはとてつもない時間と労力が費やされていると思うと、出来上がった数秒のシーンに感じられる重みが随分と変わってくる。実際にハンクを生み出したスタッフの数は、約50人にも上ったという。「あらゆる人たちが、それぞれ違うタイミングで貢献している。テストだったり、表面のペイントだったり、ソフトウェアを描くことだったりね」。

「タコの触手の動きには、いろいろなものが混じっています。とても素晴らしく、美しい混沌です」。そう語るマイケルの言葉には、テクノロジーによってさまざまな自然を描写してきたピクサーが、何より自然に対する尊敬と畏怖の念を抱きながらアニメーションという表現に向き合ってきたことがわかる。「自然のものには、私が紙とペンを持って想像して書くよりも、ずっと興味深い部分があります」とジェイソンが語るように、ディズニー/ピクサーのアニメーションは、自然が持つ美しさへの驚きと発見の喜びに満ち溢れている。ピクサーが新たに生み出したハンクの活躍を、ぜひ劇場で目撃して欲しい。


『ファインディング・ドリー』は全国にて公開中。

協力:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

最終更新:8月7日(日)18時30分

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