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ホームページの「軽量化」に命を賭けていたあの頃のこと

ITmedia PC USER 8月8日(月)6時10分配信

 以前、ホームページ制作を始めたばかりの頃の失敗について書いた。MIDIでオルゴールを流したり、文字を左右に動かしたり、背景にGIF画像を設定して雪を降らせたり、無駄なギミックを大量に使っていたという話である。1999年頃のことだ。

 今回は、それからしばらくして、価値観が真逆にふれていた頃の話である。

●「ギミック病」から「シンプル病」へ

 ホームページ制作の最初期にかかる病気を「ギミック病」と名付けるなら、次にくるのは「シンプル病」である。これは、無駄なギミックを使っていた自分を恥じることで生まれる病気であり、ページを「軽量化」することに異常な執念を燃やす病気である。「この機能は必要か?」と徹底的に自問して、不要なものは削ろうとする病気である。

 当時のネット回線は、現在とは比べものにならないほど遅かった。技術の発展した現在では、画像を載せることを躊躇(ちゅうちょ)する制作者はいないだろう。しかし当時の回線速度では、画像1枚載せることも「ページを重くしてしまう要因」になった。この条件が「シンプル病」に拍車を掛けた。「ホームページはできるかぎり軽くするべき」というのは、ある程度ホームページを作り慣れた人間の鉄則だったのだ。だからこそ、少しだけページ制作に慣れた当時の私は思った。ギミックは不要、ホームページはもっと「シンプル」にするべきだと。

 それが「シンプル病」という別の病気だとは知らずに。

●シンプル病で「虚無」に到達してしまう

 「無駄なものは削ろう、シンプルこそが美しいのだから」

 それは正しいのかもしれないが、しかし、私が運営していたのは「趣味でやっているホームページ」である。連載第1回でも書いたように、ホームページ名が「マダムの春夏秋冬」である。ハンドルネームが「マダム」である。高校生が無邪気に運営している個人ページである。のちに黒歴史になることも知らずに楽しんでいたページなのである。

 そんな状況では、「無駄なものを削ろう」という発想は地雷である。1日のアクセス数が50に満たないページに、「これは本当に必要か?」という問いを突きつけてはいけない。「マダムの春夏秋冬」がそんな問いに耐えられるはずがない。何も残らない。そんな問いを突きつけられたら、「マダムの春夏秋冬」には何も残らないのだ。

 だが、当時の私はシンプル病の患者だった。自分のページの機能のひとつひとつを真剣に吟味していった。オルゴールなんて流す必要はないのでは? カーソルにくっついてくる星のキラキラ、不要なのでは? やたらと容量喰ってるタイトルロゴ、普通のテキストに置き換えればいいのでは?

 「シンプル」に目覚めた私は、自分のページから不要なものを削っていった。

 しかし、そんなことをしていれば、気づいてしまう。

 「ていうか俺のホームページ、内容なくね?」

 当然である。私は「ホームページ制作自体」を楽しんでいたのであり、それは要するに、「無意味なギミックの数々」を楽しんでいたということなのだ。なのにシンプル病は、それを否定してしまった。

 結果、私のホームページは何もなくなった。「シンプル」を意識した結果、「虚無」に至ったのである。

●錯乱して豆知識を書きはじめる

 「ギミックじゃない本物のコンテンツが必要だ」

 私は高校生なりに考えた。このままじゃ、私のホームページは単なる虚無だ。価値あるコンテンツを作らねばならない。そして私はひらめいた。

 「豆知識をのせよう」

 この理路は、現在では意味不明である。なぜ唐突に豆知識が登場するのか。私は豆知識を集めていたわけでもないし、雑学が豊富なわけでもなかった。しかし当時の自分には、「本物のコンテンツ=豆知識」という連想があったようだ。

 私は、ギミックを排除して簡素になったホームページに、自分の知っている豆知識をのせた。サイト名は「マダムの春夏秋冬」から「マダムの豆知識」に変えた。いっそのことマダムという冠も外しちまえよ、と今は思うが、ハンドルネームだから外せなかったんだろう。

 生まれ変わった私のページには3つの豆知識が書かれていた。

・ドンマイは「ドント・マインド」の略
・ブリドストンは、石橋さんが作ったからブリヂストン
・馬の呼吸が荒いのは、鼻呼吸しかできないから

 知識、薄くねえ?

 現在の視点でツッコミたくもなるが、私はギミック病を卒業したことで有頂天になっていたから、何の違和感も持たなかった。これを「価値あるコンテンツ」だと思っていた。ちなみに冒頭には、「マダムの豆知識ですぞ~!」と書いていた。前回書いたように、当時は語尾に「ですぞ」を付けていたからだ。

●瞬時に表示されるから何なのか?

 ギミックを排除したかいもあって、私のホームページは見事に軽量化されていた。「シンプル」という目標は達成されたと言っていい。当時の貧弱な回線でも、アクセスと同時にページが表示されたのだ。

 ドンマイは「ドント・マインド」の略

 いまや以前のような無駄なギミックもない。あんなものはページを重くするだけの無意味なカラクリだった。しかし今は違う。ページにアクセスすれば、必要な知識だけが瞬時に表示されるのだ!

 ドンマイは「ドント・マインド」の略

 無駄に重たいタイトルロゴも消えた。自己満足の背景画像も消えた。MIDIのオルゴールなんてもってのほかだ。私は「シンプル」にたどりついた。見よ、この表示速度! ダイヤルアップなのに一瞬で表示される!

 マダムの豆知識ですぞ~!

 ……結局、どれだけサイズが軽くても、コンテンツがこれじゃあ意味がないということなんだが、「軽量化」に夢中だった私は、そんなシンプルなことにも気付けなかった。とにかくページを軽くすれば、瞬時に表示されるようにすれば、それが素晴らしいページなのだと思っていたのだ。

 当時の自分に言ってやりたい。ドンマイ(ドント・マインドの略)。

●ライター:上田啓太
1984年生まれのブロガー。京都在住。15歳のときにネットに出会い、人生の半分以上をネットとともに過ごしてきた男。
個人ブログ:真顔日記 Twitter:@ueda_keita

最終更新:8月8日(月)6時10分

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