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原油相場は危険な時間帯へ~金融市場の動き(8月号)

ZUU online 8/8(月) 11:40配信

■トピック:原油相場は危険な時間帯へ

原油相場が軟調に推移している。1カ月前の7月月初にはWTI原油先物価格が1バレル50ドル間際にあったが、直後から下落基調となり、今月2日には40ドルの節目を割り込んだ。

足元ではやや回復したものの、依然として40ドルを若干上回る水準に留まっている。筆者は6月3日のレポート(*1)で、「夏の間に40ドル付近まで下落(その後、年末にかけて50ドル付近まで戻る)」とのシナリオを予想していたが、6月にイメージしていたよりも下落のタイミングが早く、ペースもやや速い印象だ。

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(*1)詳しくは「原油相場の先行きはどうなる?~金融市場の動き(6月号)」(2016年6月3日 http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=53051?site=nli)をご覧ください。
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◆ガソリン在庫の積み上がりなどが誤算に

まず、7月上旬以降の原油価格下落の理由として挙げられるのは、原油需給の緩みが再び市場で意識されたことだ。

原油の供給サイドでは、OPECが高水準の生産を続けるなか、一時的な生産障害に陥っていたカナダやナイジェリアで生産が回復しているとみられること、原油価格持ち直しに伴って米シェールオイルに再稼働の動きが見られ、稼働リグ(油井)が増加していること、そして何より、世界最大の消費国である米国でガソリン在庫が高止まりしていることが挙げられる。

筆者は生産障害の回復と米リグの増加は下落材料として予想していたものの、米ガソリン在庫の高止まりは誤算であった。

例年、米国では5月下旬から9月上旬にかけてドライブシーズンとなり、ガソリン需要が増加する。従って、当該期間とその前後のガソリン在庫は年間で最も低い水準に取り崩されるのだが、今年はガソリン在庫の水準が例年に比べて非常に高く、直近7月29日時点では若干取り崩されたものの、前年よりも約1割も多い。

そして、その背景にはガソリン需要の伸び悩みがある。EIA(米エネルギー情報局)月報(*2)における4月から9月にかけてのガソリン消費量見通しを見ると、5月時点では前年同期比で1.7%の伸びが見込まれていたが、7月時点では1.1%まで伸び率が下方修正されている。

ガソリン在庫の高止まりが近い将来の原油需要の低迷を想起させ、原油価格に対する強い押し下げ要因となった。

また、原油の需要サイドでは、Brexit(英国のEU離脱)の決定が誤算となった。未だ離脱交渉すら始まっておらず、現時点で世界経済の押し下げに明確に働いているわけではないが、先行きの下振れリスクは確実に強まった。このことは、世界経済の動向に影響を受ける原油需要の先行き不透明感を通じて、原油価格の抑制要因として作用している可能性がある。

一方、米国の利上げ観測も想定していたシナリオと異なるが、こちらは原油価格の下支えに働いている。

6月初旬時点では、夏場にかけて米利上げ観測が強まり、ドル高を通じて原油価格の押し下げ要因になると見ていた。原油価格はドル建て表示のため、ドルの価格と逆相関の関係が強い。ドル高になると、他国から見た原油価格に割高感が出るため売られやすくなる。

ただし、以降実際に起きたことは、米利上げ観測の低迷に伴うドルの低迷だ。Brexit決定や米GDPの下振れなどから、利上げ観測が盛り上がらず、足元のドルインデックスは6月初旬からわずかな上昇に留まっている。

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(*2)“Short-Term Energy Outlook"
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◆今後はさらに下押し圧力が強まる可能性大

今後、原油価格はさらなる下押し圧力にさらされる可能性が高い。一つは季節要因からだ。例年、米国ではドライブシーズン終了とともに原油は不需要期に入り、原油在庫が増加トレンドに入る。原油在庫の増加は需給の緩みを意識させるため、原油価格の下押し材料になる。

実際、ドライブシーズン終盤にあたる8月と終了直後にあたる9月は原油価格が下がりやすい。過去10年の月別騰落回数を見ると、8月は12ヵ月の中で3番目に、9月は最も下落回数が多い。

また、今月からBrexit決定以降の英経済指標が本格的に出始めることで、Brexitへの警戒が高まり、原油価格の下落圧力になるという展開も有り得る。

原油相場は秋にかけて危険な時間帯に入ったと考えられる。

今のところ、IEA(国際エネルギー機関)やEIA(米エネルギー情報局)などの機関は、非OPEC諸国の原油生産が低迷する一方でインドや中国の原油需要が増加することで「原油需給が改善していく(供給超過が解消に向かう)」というシナリオを維持しており、市場でもこの見方は消えていない。

従って、今年1月から2月のように1バレル30ドルを大きく割り込むような事態は考えにくいが、一旦30ドル半ばから前半まで下落する展開は十分考えられる。

◆再び世界的な株安・円高に繋がる恐れも

年初に原油価格の下落が、産油国経済の悪化懸念や産油国政府系ファンドによる株売り、米エネルギー産業への打撃懸念などを通じて世界的な株安に繋がったことは記憶に新しい。

一方、今回の原油価格下落は今のところ世界的な株安には繋がっていない。米ダウ平均株価は直近やや軟調ではあるが今のところ高値を維持しており、米株式市場の警戒感を示すVIX指数(恐怖指数)も低位で推移している。

最近は米企業決算や先進国の金融政策など市場の材料が多く、投資家の関心が分散しがちであるほか、原油価格も下がったとはいえ40ドル付近と、年初に比べれば高い水準にあることがその理由と考えられる。

ただし、今後さらに原油価格が下落していく場合は楽観できない。

原油価格とVIX指数の間の相関関係を見ると、原油価格もVIX指数も下落してきたことで、現在は正の相関関係にあるが、近年の両者は負の相関関係にあることが一般的であった。

原油価格が40ドルを大きく割り込んだ場合、従来の負の相関関係(原油価格下落→VIX指数上昇)が復活し、世界的な株安が再発する恐れがある。その際は、同時に為替市場においてリスク回避の円買いが活発化し、円高が進行することになるはずだ。

原油価格が今後下落を続けるのか?それとも持ちこたえるのか?は、引き続き金融市場の行方を左右する重要なテーマと言える。

■日銀金融政策(7月):ETF買入れ増額、次回の総括的検証を決定

◆(日銀)追加緩和

日銀は、7月28~29日に開催した金融政策決定会合において追加緩和を決定した。ETFの買入れペースを年間約3.3兆円増から6兆円増へと拡大する。また、ドル調達コストが上昇していることへの対応として、金融機関への成長支援資金供給の米ドル特則枠を倍増(120億ドル→240億ドル)、米ドル資金供給オペの担保となる国債を日銀が貸し付ける制度の新設も決めた。

一方、マネタリーベースの増加ペース(年80兆円増)、長期国債買入れペース(同)、日銀当座預金の一部に対する▲0.1%のマイナス金利適用などについては変更なしであった。

声明文では、政府の経済対策に言及したうえで、日銀の金融緩和は「政府の取組みと相乗的な効果を発揮するもの」との文言を新たに付け加えている。

さらに、次回9月の決定会合において、現行金融緩和のもとでの「経済・物価動向や政策効果について総括的な検証を行うこと」を明記した。

市場では、事前の緩和期待が大きく織り込まれていただけに、ETF増額に留まったことで失望の円買いと長期金利の上昇が起きた。

同時に公表された展望レポートでは、景気の総括判断を、「基調としては緩やかな回復を続けている」とし、前月から据え置いた。

政策委員の大勢見通しでは、前回4月公表分と比べて、16年度と18年度の実質GDP成長率を小幅に下方修正したが、17年度の成長率については、消費税率引き上げ延期と経済対策による押し上げ効果を織り込む形で大幅に上方修正している。

コアCPI上昇率については、足下の16年度については前回から下方修正したが、17年度と18年度については据え置き、2%の物価目標達成時期も「17年度中」との見方を維持した。これ以上の達成時期の後ろ倒しは、黒田総裁の任期を越えてしまうため、容易ではないという点も影響した可能性がある。

その後に行われた総裁会見では、追加緩和がETF増額に留まったことに関して、黒田総裁は「マイナス金利あるいは量的緩和の拡大が限界にきているとは全く思っていない」と発言。

次回会合での総括的検証に対しても質問が集中したが、総裁はその目的について、「海外経済・国際金融市場を巡る不透明感などを背景に、特に物価見通しに関する不確実性が高まっている状況を踏まえて、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現する観点から行う」「物価の面ではまだ道半ばであることから検証する」と説明。

検証結果を受けた金融政策変更については、「総括的な検証を行う前なので特定の方向性を言うのは適切ではない」としつつも、「2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するために何が必要かという観点から検証を行う」と幾度も強調し、「さらに何か必要があれば当然金融政策についても考えていくことになる」と追加緩和へ含みも残した。

検証を受けた緩和規模縮小の可能性を問われた場面では、「「量」の面も非常に重要である」「「量」を軽視することになるとは思っていない」と否定的な見解を示したほか、物価目標に関しても、「2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するという方針に変化はないし、今後もそれを変更する考えはない」と存置を示唆した(「2年程度」については敢えて言及しなかった可能性大)。

また、今回の会見では、政府の経済対策について「非常に時宜を得たもの」と前向きに評価、財政政策と金融緩和を政策連携させる「ポリシー・ミックス」の効果を幾度も強調している点が特徴的であった。政府との協調を強調することで、期待に働きかける効果を狙ったものとみられる。

今後の金融政策に関しては、次回9月決定会合での総括的検証が山場になる。総裁は「検証のうえ考える」とのスタンスを表明したが、これを鵜呑みにする市場参加者は殆どいないだろう。既に次回会合での政策変更の方向性を巡って市場では思惑が交錯している。

次回会合でのポイントは、「物価目標を変更するか?否か?」、「追加緩和なのか?緩和の縮小方向への調整なのか?」、「(評判の悪い)マイナス金利をどうするか?」などになりそうだ。

与えられたヒントがかなり少ないため正直予想が難しいが、検証結果は、「緩和の効果は明確だが、硬直的な運用が市場の不安定化に繋がっている」と位置付け、短期決戦型で限界が意識されている現行の枠組みを長期対応型に変更すると、筆者は予想している。

具体的には、「物価目標の柔軟化」(「2年程度」を削除のうえ、達成期限に柔軟性を持たせる)と「国債買入れペースの柔軟化(買入れ額に幅を持たせる)」を予想。ただし、これだけでは後退姿勢が際立ち、市場の失望を招く恐れが極めて高いため、質的緩和のメニュー拡大や超長期国債の買入れ増額(ヘリマネっぽさを匂わす)、政府との共同声明の強化など、「緩和の強化」を演出する内容も同時に決定される可能性が高い。

ちなみに、マイナス金利については、導入後わずか半年であり、総裁は実体経済への効果が出ているとの言及を最近行っているだけに、撤廃は見込みがたい。とりあえず現状のまま存置し、将来の拡大を視野にタイミングを待つと予想している。

■金融市場(7月)の動きと当面の予想

◆10年国債利回り

・7月の動き 月初▲0.2%台後半からスタートし、月末は▲0.1%台後半に。

月上旬は英国不動産ファンドの取引停止に伴うリスク回避の動きやマイナス金利拡大観測からマイナス幅を広げ、6日以降▲0.3%に迫る水準での推移が続く。その後、英新首相の選出や世界的な政策期待などからリスク選好地合いとなり、15日には▲0.2%台前半へと上昇。

しばらく▲0.2%台前半での推移が続いた後、再びマイナス金利拡大の織り込みなどが進み、27日には▲0.3へ低下。月末には日銀決定会合でマイナス金利拡大や国債買入れ増額が見送られたことで急上昇し、▲0.1%台後半で終了した。

・当面の予想

今月に入っても、日銀次回会合での緩和縮小への警戒から金利上昇が続き、足元は▲0.0%台後半となっている。市場の動揺を受けて、黒田総裁、岩田副総裁が緩和の縮小に否定的な見解を示しているが、具体的な方向性が明らかになっていない以上、市場の警戒感は続くだろう。

このことから、当面は先月のような▲0.2%台に戻ることは考えにくく、▲0.1%台から▲0.0%前半での推移が予想される。市場の思惑が振れやすくなっているだけに、動きが不安定になりやすい。

◆ドル円レート

・7月の動き 月初102円台後半からスタートし、月末は103円台後半に。

月初、102円台で推移した後、英国の不動産ファンド取引停止を受けたリスク回避の円買いで、6日に100円台後半に円高が進行。その後しばらく101円を挟んだ展開を経た後、米景気回復期待の強まりや日本の経済対策への期待からリスク選好の円売りが進み、13日には104円台を回復。

ヘリマネへの思惑も巻き込みつつ円安の流れは続き、政府が20兆円超の経済対策を調整との報道があった21日には107円台前半に達した。22日にはFOMCと日銀会合を控えたポジション調整により、105円台に下落し、以降105円前後での推移に。日銀決定会合では、追加緩和策が失望を招いたことで円高が進み、月末は103円台後半で終了した。

・当面の予想

先月末の米GDP下振れや日銀金融緩和縮小への警戒などから、今月に入ってやや円高が進み、足元は101円台前半で推移。米国の9月利上げの可能性はほぼ無いとみられる一方、欧州の銀行不安や英経済指標の下振れ・原油安などリスク回避地合い発生の芽は多い。円安進行には「米早期利上げ観測の台頭とリスク選好地合い」が必要条件となるが、しばらくこの条件は整いそうにない。

当面は基調として円高ドル安と予想している。目先の焦点は本日夜の米雇用統計。堅調な内容であればドル高圧力となるが、ドル高トレンド形成までには至らないと見る。不調であれば100円突破も。日銀の次回会合への思惑からドル円が不安定になることも想定しておきたい。

◆ユーロドルレート

・7月の動き 月初1.11ドル台前半からスタートし、月末も1.11ドル台前半に。

月初、1.11ドル台半ば付近で推移した後、英国の不動産ファンド取引停止を受けたポンド安につられ、6日に1.10ドル台後半へユーロが下落。

しばらく1.10ドル台での推移が続いた後、14日には英中銀が政策金利据え置きを決め、ポンド高が波及する形で1.11ドル台を回復。その後、米国の良好な経済指標を受けたドル高で、18日に1.10ドル台に下落、25日には1.10ドルを割り込んだ。以降、1.10ドルを挟んだ動きが続いたが、29日には米GDPが予想を大きく下回ったことでドル安が進み、月末は1.11ドル台前半で終了した。

・当面の予想

今月に入って一旦ユーロ高となったが、昨日、BOEが英経済見通しを引き下げ、追加緩和を実施したことで、同じ欧州通貨であるユーロも下落、足元は1.11ドル台前半にある。最近のドルとユーロは弱さ比べの状況になっているが、ECBは9月上旬の理事会で金融緩和を強化する可能性が高く、今後は市場で次第に意識されることでユーロドルが弱含むと予想。目先の材料はドル円同様、本日夜の米雇用統計となる。

上野剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

最終更新:8/8(月) 11:40

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